Birthday time

花ノ木

第1話

 ケイタイの着メロで目が覚めた。見ると、メールだ。

『誕生日おめでとう。父より』

 私はそれを見てあっかんべぇをした。

(何さ、しらじらしい)

 父さんと母さんは一年前に離婚した。父さんの浮気が原因だった。今は、母さんと二人でアパートを借りて暮らしている。

 時計を見る。

「やっべぇ、遅刻だ……」私は、つぶやくと急いでリビングに行った。

 母さんは、もう仕事にいったようだ。キッチン兼用のリビングは、死んだようにしずまりかえっていた。きっと今日も帰りは遅いにちがいない。私の誕生日のこと、覚えているだろうか。

 私は、仕度をすませると、高校に向かった。


 西日が文庫本にさっとさしこんできた。

「あや、何してんの?」

 いきなりの声にびっくりしていると、後ろに由利が立っていた。

「うわ、びっくりした。何って、本、読んでるの」

「ふぅん。一緒に帰ろ」

 由利は、幼なじみというやつで、家も近い。高校も、何となく一緒になったので、けっこう一緒に帰ることが多い。

「私さぁ、今日、誕生日なんだぁ」わざと、ブリッ子っぽく言ってみる。

「だから、何かちょうだいっ」由利の前に右手を出す。

「あのな。何で私が、あんたにプレゼントしなくちゃいけないのよ」ため息をついて、

べしっと私の手をたたいた。

「何よ、いけずぅ」

 そう言って、私は由利の後を追っていった。

「あ、待って、コンビニ寄っていい?」私はそう言って店内に入っていった。インスタント食品のたなに直行する。

 私は、流行ってるカップめんを手にとった。

「ちょっと、何よそれ」

「夕食。母さん今日、遅いから」私が言う。

「ふぅん。大変だねぇ」と、軽く言う由利。

 私たちは、それを買うと、コンビニをあとにした。

 二人は、しばらく無言であるいていた。

「じゃあね」

 白いこじんまりとしたアパートの前で、私は言った。

 もう、空は、暗くなりはじめていた。階段をのぼる。

 家に入ると、さっそく着がえて、夕食の準備にとりかかった。

 白っぽい電灯の中、私のヌードルをすする音だけがこだました。

 食べ終わると、何もすることがなくなって、私はラジオを聞いていた。

 一時間が過ぎ、二時間が過ぎた。私の時計の時計は、もう八時を過ぎていた。

 いくら何でも遅すぎる。私は、ラジオのスイッチを切って自室を出た。もう、母さんも帰ってきていいはずなのに。

 不安が胸からあふれだす寸前、チャイムが鳴った。

「やっほ――」

 私は玄関で立ちつくした。由利だ。後ろの方には、母さんがいた。

「シチューあまったから……」と、由利は言った。そして、母さんにめくばせをした。

「んで、会社帰りに由利ちゃんと会ったからケーキを買いに行ってた」

 そう言って二人は、シチューの入ったタッパーと、白くて大きなケーキの箱をさしだした。


おわり


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