女子高生の真実
梨兎
第1話 真実
放課後、担任に呼び出された。要件は教材をとある教室に運ぶことだった。
「めんどくさ」
と、呟きながらも俺は教材を抱えていた。
帰宅する生徒を幾度と見送り、今は使われていない教室へとやってきた。
担任の話だと、鍵は開いている。決して軽くはない教材を片手に持ち、扉を開けた。
「早くゲームがやりたい......」
俺は眼前の光景に固まってしまった。
何秒固まっていただろう。
「えっと......」
ようやく出た言葉だった。
「失礼しました」
俺は扉を閉めた。
教室には先客がいた。それも女子。別に女子がいても不思議ではない。俺のように教材などを運んできたのかもしれない。そうだ、俺の見間違いに違いない。
女子がヅラを直していたなんて。そんなはずはない。
俺もとうとうメガネデビューか?
そんなことを思いながら、俺は再び教材片手に扉を開けようと手を伸ばした。その瞬間、扉が自動的に開いた。
視線を上げると、先客である女子がいた。
大きな瞳に小さな唇。さらりとした髪が目に付く、至って普通の女子生徒だ。
やはり俺の見間違いだったらしい。
女子はにらみつけるように俺を見て
「見た?」
と、聞いてきた。
見た、とはなんのことだろうか。俺が見たのは使われていない教室に女子がいて、ヅラを直しているところを見たぐらいだ。
まあ、普通に考えてヅラの件についてだろう。女子がヅラをしているなんて、普通は思わない。ありえない。
俺は、一度だけ頷くことにした。
途端、女子の表情が引きつり、手で顔を覆った。
「やってしまった......私としたことが......」
酔っぱらいのような足取りで女子はよろめき、その場で腰から崩れ落ちた。
しばし、沈黙が流れた。
とりあえず俺は軽くはない教材を置こうと周囲を見渡した。乱雑に置かれた机や椅子、段ボールの数々。俺は手近な机に向かおうと歩きだす。
「動かないで!」
俺の肩はびくつき、体が固まる。
「誰にも言わないで! お願いします」
女子は土下座をしていた。女子に土下座されるとは思ってもみなかった俺は、ひとまずわかったと返事をした。
「ありがとう」
女子は頭を上げなかった。
「その、なんというか、どうしてヅラなんか?」
「ヅラじゃないわ、今はウィッグっていうの」
女子は立ち上がり、制服に着いたほこりをはらってから、さらりとした長い髪に触れた。
「じゃあ、その、ウィッグなんか?」
「誰にも言わないでよ」
俺は一度頷く。
「コスプレするためよ」
「ごめん、ちょっと意味が......」
「え、ああ......私ね、コスプレイヤーなの。日々色んなウィッグを付けてるんだけど、そのうち自分の髪がうっとうしく感じてね、それでバッサリ切ったの。そしたらウィッグの着け心地も良いし、ネットでは人気も上がってね。雲の人なんて呼ばれているのよ」
俺は言葉にならなかった。
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