第43話 残影④
私は彼にあの海で見たことを話した。
彼は私の家族を悼むようにしばらく瞑目してから、彼自身の事を話してくれた。
彼はここと同じ歴史、同じ人たちのいる別の世界から来たのだと言う。
ソラウオなるあの巨大魚が、当たり前にいる世界から。
私は思う。
その世界にいる妹ならば大空を行くソラウオを見ても衝撃を受けたりはしないだろう。
それで海に行こうと言い続けることもなく、あの日家族が事故に巻き込まれることもなかったとすれば。
あちらの世界ではパパもママも妹もまだ生きているのかもしれない……。
ああいけない、そう思うもののまた涙腺が壊れてしまった。
その涙は数滴だけ落ちてから、彼の肩口をびしょびしょに濡らした。
なあ、夏になったら僕もそこに連れて行ってくれないか。
その言葉のとおり、翌年ふたりで花束を持ってあの海へと行った。
次の夏も、その次の夏も。
でもあれ以来まだソラウオは現れてくれない。
そして今年の夏。
私たちは父と母になる。
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