第42話 安覚寺縁起

寺は戦火に焼かれ老若の亡骸があちこち無造作に転がっていた。

若者はそれを呆然と眺めていた。


「今からこいつらを弔うからおめえも手伝え」

突然背後から声をかけてきたのは、年配の男であった。


若者はなんで俺がと言いかけて、男の片腕が無いことに気がついた。

男はその袖をひらひら振ると

「手伝ってくれるんだろ?」

にやりと笑った。


結局若者は半日かけて穴を掘り、そこに亡骸たちを埋めるはめになった。

その間、男は何もしていない。


それどころか

「さてと次は読経だな」

当然のように要求してきたのだ。

若者はなぜかそれを断ることもできず、たどたどしく経文を口にした。


若者は少年時代を小僧としてこの寺で過ごしたことがある。

他国で悪事を働き、行き場もなくついここに帰ってきたのだ。


その若者の周りにはいつしか村人たちがやってきて、一緒に手を合わせていた。

しかしその中に先程の男の姿はない。



ただ片腕の欠けた仏像が一体、転がっていただけである。

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