第39話 神の寿司

若くして神とも悪魔とも呼ばれる天才寿司職人がいる。


向上心が強く、最高の寿司を作るためにはいかなる犠牲も厭わないような男である。


だから彼が独立して完全会員制の小さな店を開くと、私も相当に高価な入会費を支払いその店へと通ったのだ。


「本日は特別な一品がございます」


いつもの女将が臨月でいないため、その日は彼自らが説明してくれた。


「でもこの品のことはけして口外してはいけません。ネタが何か詮索してもいけません」


もちろん我々は秘密を守ることを約束し、その寿司を口にした。

そして衝撃に言葉を失った。


そのネタは魚でも、貝でも、いかなる畜肉でもなかった。

だがこの未知なる寿司こそ、この世界で最高の美味であると確信した。


「これは奇跡だ!」

「凄すぎる!」

「まさに神の作った寿司だ!」

我々は彼に最大限の賛辞を送った。


しかし彼は肩を震わせて、血の涙を流しているではないか……。



長い長い沈黙の後。

我々は小声でお代わりを頼んだ。

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