第27話 工作員

「拉致した若者に代わり隣国に潜入せよ」


上からの命令に従い、俺はこの国にやってきた。

田舎から上京して一人暮らしの大学生。

この俺が入れ替わった偽者であることに、気がつく者はいなかった。


もっとも周囲に違和感を抱かせるようではプロ失格である。

俺は学生らしく勉学に励み、その後は社会人らしく仕事に励んだ。


しかし誤算がひとつ。

平凡な女と平凡な家庭を築いたつもりが、女は政治家の孫娘だという。

その後継者としてなぜか俺が立候補させられた。

……俺は、政治家らしく国民のために働くしかなかった。


その間、本国からの指令はなかった。

新しい指導者によって粛清された要人の中に、俺のボスもいたのかもしれない。


だが任務は任務である。

俺はいつか来る指令を待ちながら良き父、良き夫、良き政治家を演じ続けた。

行政を改革し多くの外交問題も解決してきた。

そう、隣国に拉致された被害者たちの返還さえも……。



明日、この国に本物の俺が帰ってくる。

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