ひぐまカクテル

ひぐまびっち

第1話 熱帯夜

暑く、寝苦しい夜だった。


私は息苦しさに起き上がろうとしたが、体がまったく動かない。

ふと枕元に何かがいる気配を感じ、私は怖る怖る薄眼を開けた。


暗闇の中、見知らぬ老婆がこちらを覗き込んでいた。

血の色をした唇がニタリと歪んだ。


「うわ!」


そこで目が覚めた。


テレビを点けると深夜の通販番組をやっていて、司会の男女が包丁の切れ味を熱心に語っていた。

しかしその包丁は、錆びて赤黒く汚れているではないか。


私はなんだか嫌な気分になりチャンネルを変えた。

が、そこでも同じ番組をやっていた。


「ちッ」


司会の男が舌打ちをした。

また変えるとまた同じ番組で、司会のふたりはますます不機嫌になった。

結局変えても変えても同じ番組をやっていて、ふたりは包丁を振り回してはしきりに何かを怒鳴っていた。


私はテレビを消した。

私はとても、とても疲れていた。



「みいぃんな忘れて寝ちまいな」


枕元の老婆がそう言うので、私は全てを忘れて寝ることにした。

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