大総統

「大総統……晴ノ国は大統領ですよね。なんか親戚っぽいです!」

「親戚……。ふふ、まあ2大大国さ。似ているところも多少なりともあるだろうよ」


 今までの話と全く違うことを、どこかはしゃいで言うスクナにチナミは小さく噴き出した。

 確かに字面も語感もよく似てはいるが、それでもこの2つを並べて親戚などと言ったのはこの子が初ではないかと。

 表面上は友好関係を取り繕っているが、裏では互いを蹴落とさんばかりの小競り合いを仕掛け合っている2国が親戚。国間の関係について少しでも知識があれば出てこない言葉だ。

 ふふふと先ほどまでとは違う、ただ楽しそうなチナミにほっとしつつもにこにこしているスクナ。穏やかな空気が時計の針音が響く班室に流れる。


「前、ユティーに言ったら鼻で笑われたんですよ」

「それはまあ……災難だったね」

「まったくです!」


 怒ってますよと言わんばかりに頬を膨らませ、デスクの上でこぶしを握るスクナにチナミは苦笑した。

 くるくると表情が変わるところがまだまだ幼いなと思って。

 子どもは小さなことですぐに表情を変える。それがスクナとぴったりと重なって、気分は小さな子を見守るお母さんだ。チナミからの優しいまなざしに、スクナは首を傾げた。しばらくそうした後、チナミはこほんと咳払いをして空気を変えた。


「それはともかくとして、他の国の代表は覚えているかね?」

「はい。雷ノ国が国王、雪ノ国が宗家、曇ノ国が首席ですよね」

「その通りだ。ちなみに、個人名は?」

「えっと、晴ノ国がカヤノ・コガヌマで。雨ノ国が……えっと」

「ユースティリア・リーゼンだ。雷ノ国がホシ・コモレビ、雪ノ国が日比野花鈴で、曇ノ国がアイリッシュ・バクターだ。まあ、せめて雨ノ国くらいは知っていてくれ」

「すみません」


 しょんと肩を落として謝るスクナに、チナミは苦笑する。別に知らなくても困ることはないのだから別にいいのだが。ただ常識が問われるだけで。

 まだまだ幼い見目のスクナが、いつまでも肩を落としているの忍びない。チナミは落ち込んでいるスクナに早々に声をかけた。


「いいんだ。我々『魔法師』としては個人名など重要ではない情報だ」

「でも……」

「遊子の問いに出てくるわけでもなし。君は職名の方はきちんと覚えていただろう。問題なしだ」

「……はい!」


 異世界の住人である遊子が、この世界の政治情勢を謎として出してくるわけはない。

 気にしなくていいよと、申し訳なさそうにチナミを見るスクナにひらひらと手を振る。慰められて、スクナは元気よく返事した。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る