魔法師という仕事
そうして図書館。
白い石で出来た階段を昇り、白い柱をくぐり、意匠の凝らされた重たげな扉を開ける。
と。
「おや、これは……」
「あ……」
「おーい、それこっちだぜ」
「本持っていくから開けといてくれ」
「積み立てとくよ!」
警備隊と思われる制服を着た青年たち、およそ30名が本棚に本を戻しているところだった。肩当てや胸当てなどの軽鎧を外していることから、彼らも休憩中なのだろうとチナミは思った。
これはいったい。目を丸くする2人に、スクナがヒイラギに来てから最初に出会った遊子の時にいた隊長が話しかけてきた。
今日も彼の筋肉は隆々としていた。どこか暑苦しそうな見た目に反して、理知的な目が印象的な彼は、あの時はわからなかったが、こうして穏やかな状況で見てみると結構壮年だった。
「これは、魔法師殿」
「警備隊長殿、これは一体……」
「貴女には怪我をした隊員を治してくれた恩がある。たとえ仕事だとしても、それを我々は忘れたりはしません。そんな貴女が困っていると風のうわさで聞きましてな。まあ、休憩時間だけですが参加者を募ったところこのありさまで……」
「こんなに……」
「はい、それと若き魔法師殿、貴方にも」
「え? 自分ですか? 何もしてませんよ!?」
「はは、何をおっしゃる。魔法師殿達がいるからこそ、我々一般人は安心して暮らせるというもの。それを忘れたりなんぞしませんよ。それに……」
隊長は理知的な目に優しさをにじませてスクナを見下ろした。戸惑ったようにそれを受け入れながら、ローブの胸の部分でこぶしを握りつつスクナは見返す。チナミは穏やかな笑顔で、その様子を見ていた。
「私にも、あの妖精と同じくらいの娘がおりましてな」
感じるものが多かったのだと顎髭を撫でつけながら、隊長はしみじみと呟いた。閉じたまぶたの裏にはシエルと同じ年頃だと言う娘が浮かんでいるのだろう。口元には柔和な笑みが浮かぶ。
そうだろう。もし娘が、違う世界に飛ばされてしまったら。戻って来られなかったら。二度と会えなかったら。ぞっとする思いなのだろうと考えて、その恐ろしさにスクナは背筋を震わせた。
チナミを振り向くとそっと頷かれる。
魔法師とはそういう職業なのだ。助けるのは遊子だけじゃない。遊子の周囲、時には全く関係ない人の心まで救える仕事なのだ。そう思うと、きゅっと胸の奥が熱くなって同時に目頭が熱くなったかのように感じたスクナ。
遠くで午後の始業を告げる鐘が鳴る。
警備隊の者たちは名残惜しそうに引き上げていった。礼を言うチナミたちに、逆に礼を投げかけながら。
「良い、仕事だろう?」
「はい!」
スクナは満面の笑みで答えた。
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