からあげ
チナミの後追い、人ごみの激しい歩道を避けるように路地裏へと入る。そこをまっすぐに行き、2つ目の分かれ道を右に曲がる。
途端い道が開け、さんさんとした太陽光が灰色の石畳に落ちる。小さな噴水の置いてある広場へ出た。
ジャグリングのピンやフラフープなどの大道具が置いてあるシートを避け、誰もいない木造のベンチへと2人は揃って腰を下ろした。
昼食の時間のため出払っているのか人気がなかった。レンガ造りの噴水、しゃわしゃわと上から流れ出ている水だけがその場で音を立てていた。
穏やかに吹く春風にチナミの金糸が揺れ、スクナのローブのフードが少しはためく。人気の多いところで若干張っていた肩を緩め、スクナはふうと息をついた。チナミはローブを脱ぎながら気まずそうに口を開いた。
「さっきは店主がすまなかったね」
「いえ、チナミ班長こそ自分なんかと誤解されちゃって……」
「いや、気にはしてないさ。……君、そういう話に興味があるのかね?」
「え? いえ、人並みにはあると思いますけど」
「そうか、君も男の子だなあ」
「どういう意味ですか!?」
あはははと声をあげて笑うチナミはスクナの問いを笑ってごまかした。
いや、本当に。あの謎が、ユティーが。そんな会話を「彼氏」とい単語だけで頬を赤くする初心な少年とするとは思えない。本人はそう思っていても、きっと人並み以下なんだろうなとチナミはさっそく買ってきたからあげ弁当を袋から出し、蓋を開けながら思った。
ちらりと横を見るといまだ納得できていない顔のままスクナが八宝菜弁当の蓋を開けているところだった。
「君、彼の分は良いのかね?」
「え? あ、ユティーですか? 昨日「明日は起こすな」って言われてて。まだ拗ねてるんじゃないですかね」
「……何かあったのかね?」
「昨日ピーマンの肉詰めしたんです。そしたらピーマンだけ除けて食べるから怒ったんです」
「……自由だなあ」
「あはは……」
羨ましいと言わんばかりに苦笑しながらぱちんと割り箸を割るチナミ。続けてスクナも割りながら、同じく苦笑して見せた。
「「いただきます」」
太腿の上に置いた弁当に、2人ともほぼ同時に手を付けた。
「そういえば、チナミ班長ってからあげ好きなんですか?」
おまけしてもらった6個のうち3つを分けてもらいながらスクナはチナミに尋ねる。からあげをおまけしてもらったのにさらにからあげ弁当だなんてどれだけからあげが好きなのか。いつもからあげ弁当しか食べている記憶がないのを片隅に、口に八宝菜を運びながらスクナは首を傾げた。
からあげを1つ、口いっぱいに頬ばって堪能していたチナミはごくりと飲み込んでから、油で光る唇を赤い舌でちろりとなめた。
「ああ好きだ。毎食食べたいくらいには」
「毎食はさすがに食べすぎですよー」
「私もそう思う。だから健康のために2食にしているのだがね」
「似たようなものですよ!?」
毎日どころかほぼ毎食食べるくらいには好きらしかった。ぎょっと目をむきながら横に座るチナミを振りむくスクナ。平然と、けれどどこか幸せそうにからあげを端でつまんでは口に放り込むチナミに何か言えようはずもなかった。
今度チナミになにか贈るときはからあげに関係するものの方が喜んでくれるかもしれないとスクナは心のノートに刻み込んだ。いつ使うかはわからないが。
「そろそろ昼休憩も終わりだ。戻ろうか」
「はい、班長!」
食べ終えた弁当のパックを袋にまとめて、噴水の近くにおいてあったゴミ箱に捨てようとスクナは立ち上がった。
チナミの分まで一緒に捨てて来たスクナに礼を言って、2人は噴水のある広場をあとにした。
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