意外と
「じゃ、これ片してきますね」
「うむ。もう階段を使うようになったのかね? 君も仕事が早いね」
「いえ、そんな。昨日少しやってくれていたみたいですけど」
分厚い辞書6冊を軽々と持ち上げ、階段に向かうスクナの背にチナミは声をかけた。
見上げきれないほどの本棚、3段ずつに階段が1つついているため階段を使うということはもう下の段は埋め終わったということだ。
「それに意外と男の子だなあ。力持ちで持久力もある」
「意外とって何ですか!?」
チナミの失礼な発言にスクナは勢い良く振り返る。
スクナにとっては問題発言をしたチナミは床にぺったりと座り、悠々と本を積み上げているところだった。
顔をあげてスクナと目が合うと、どうしたのかととでもいうように首を傾げていた。
「何か?」
「う……いえ」
「そうかね?」
「はい……」
全く悪気がないどころか自分の発言すら覚えていなさそうな様子に、スクナはしょぼくれて肩を落とす。‘意外と‘という言葉が思ったよりもざっくり来たらしい。そんなスクナにさらに首を傾げるチナミ。
まだ何か言いたげなスクナだったが、何も言いたくないのならそれでいいだろうと考えてあっさりとチナミは思考を切り替えた。
目下はこの本たちを本棚に戻さねばならないのだ。ぐずぐずしていると本当に日が暮れてしまう。
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