年齢

「っ! うるさいわよ、このロリババア!」

「君は昔から口の利き方というものがなっていないな。鼻たれスズカ」

「誰が鼻たれよ!」


 入り口近くでスズカが叫ぶ。

 もはやただの罵り合いになりかけている2人。そんな2人をおろおろと目を交互に漂わせて見ていることしかできないスクナ。


 しかしふと、動きを止めて首を傾げる。


 確かにチナミの容姿は幼い。16歳でも幼く見える言われる自分よりもさらに幼く見えるのだからよっぽどだろう。それにもかかわらず、ババアとはどういうことなのか。

 罵詈雑言とは無縁の生活をしていたスクナだが、ババアという単語が年上の女性に向かって言う暴言の類の言葉であることくらいは知っていた。不思議そうな顔をしたスクナに気付いたチナミが問いかける。


「どうかしたのかね?」

「チナミ班長、いまおいくつなんですか?」

「おや、レディーに年を聞いてはいけないと教わらなかったかね?」

「誰にですか?」


 きょとんと無邪気な顔をさらすスクナに、開きかけた口が閉じる。そういえば孤児だったということを思い出して。いや、保護者代わりになりそうな謎・ユティーは傍にいたらしいがそんな繊細なことを教えるとはとてもではないが思えない。

 幸い、チナミはそう言ったことを気にする性質たちでもない。なんの気負いなくあっさりと答えた。


「いや。今年で54だ」

「……」

「やっぱりロリババアじゃない!」


 無邪気な顔のまま凍り付くスクナ、勝ち誇ったかのようにふんと鼻を鳴らして見せるスズカ。ぱたぱたとはためくアイボリーのカーテン。卓上時計がかちかちと時を刻む音以外は静かになってしまった班室で、チナミが小首を傾げた。


「なにか、おかしなことを言ったかね?」

「い、いえ。……その、お若いんですね」

「ありがとう。褒め言葉だと思って受け取っておこう」

「ただのロリババアよ」

「君は本当に口が減らないな、スズカ」


 再び始まる睨みあい。睨みあいと言ってもチナミは全く相手にしてなく、スズカが一方的に睨んでいるだけだったが。チナミはやはり面倒くさそうに見返していて、それがさらにスズカの怒りというか、対抗心を煽っているのは明白だった。

 そんな2人を見ておろおろとしていることしかできないスクナにとって、ある意味救世主ともいうべき存在が現れた。


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