お楽しみ
「すっごい、速いですね!」
「まあな! 私の初解の謎さ!」
風がびゅんびゅんと耳の横を通り抜けては音を立てる中。その背に前後となってしがみつき、大声でチナミとスクナは会話していた。
そう、目にもとまらぬ速さで青が広がる大空を翔る、紅色のドラゴンの上で。
その姿は紅。塗ったような紅ではなく透けるような紅色の鱗が太陽に輝いていた。
逆三角と言ってもいい顔形に、鋭い輝きのある金色の猫目。大きく裂けた口には刃に似た牙がびっしりと生えていた。余分な肉のない四肢は引き締まり、いっそ繊細にすら見える鱗が家一軒はあろうかという巨体を包んでいて。その背中にある四肢よりも大きな骨ばった翼は、何度も羽ばたきを繰り返すことで、体が宙に浮くのを許していた。
正直、いかつい顔をしたドラゴンとビスクドールの組み合わせはとんでもなくちぐはぐであったが、ここにそれを指摘できる人物はいなかった。
なぜなら、スクナは標高故の針のような風、寒さと耳元の轟音、あまりの地上からの高さにくらくらしていて、それどころではなかった。
「ほらもうすぐ着くぞ! ここからがお楽しみだ!」
「え? は!? ちょ、自分絶叫系は……!」
ドラゴンが飛んでいた軌道を変更する。が、ただ変更するだけじゃない。
地面に向かって頭を落とし、垂直に変えたのだ。
重力に逆らわないどころか翼をたたみ手足を折り、空気抵抗を減らして進んで地へと落ちる。その様子は一筋の赤い矢のようで、弾丸のようで。
息もろくにつかせない風圧と、耳が痛いほどの轟音。冷たい空気と頭から下にひっぱられるような感覚。さらに下にみえるレンガ調の石畳に、もしかしてこのまま激突して死ぬのではないかとスクナはドラゴンに掴まりながら泣きそうになっていた。
チナミの方はというと、低い枯れた声で外見相応に見えるくらいには喜んでいたが。
その間もどんどん地表は迫ってきていた。
「アデル」
地面から鼻先わずか2m。もうぶつかると目を固く閉じたスクナの前から、小さなつぶやきが聞こえた。
チナミがドラゴンの名前と思しきものを呼ぶと、地表に向けて傾けていた体を起こし、頭をあげた。
ばさりと骨ばったその翼を広げるだけで。加速していた落下は緩まり、風圧は一気に弱まる。
そうしてゆっくりとレンガ調の石畳に砂埃を立たせながら、大広場とは壁1つで区切られた小広場へと降り立った。
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