赤い人形

赤石かばね

プロローグ

 ——これはかなり前の話になるが、私は一目観ておこうと思って、離れの小さな劇場に人形劇を観に行ったんだ。

どんな内容の劇を観たのかは忘れてしまったがね。人形達はまるで生きているかのように動いていたよ。きっと上手な傀儡師くぐつしだったんだろうね。

 それから私は彼の操る人形の動きをよく観察していたのだが、人形の糸が切れてしまったのだろうか、右腕がだらしなくぶら下がっている一つの人形があったんだ。

 その人形が握手をする場面があってさ、やはり右腕は動かないんだ。私にはまるで相手からの握手を拒んでいるように見えてしまってさ、何にしても何処か動きが違うと全てが変わってしまうのではないかと私は思ったよ。

 それから治されることなくストーリーは続けられるが、その人形の動きには違和感しかなかった。何と言うか、幸せなシーンなのにその人形だけつまらなさそうだったり、どことなく哀愁が漂っているんだ。不思議だよね、顔は真面目でも右腕だけ無気力にぶら下がっている。それだけで印象がガラッと変わるんだ。私はこの人形劇を観て思ったんだ。

 周りと違う動きをするものって、あの人形のように周りから見たら変な奴だよね。それでもその人なりに一生懸命生きているのだろう。決して貶したりしてはいけない。この劇だってそうだ。1方面だけを見れば観て損をした、あの人形のせいで台無し、と思われるかもしれないが、多方面から見れば、考えさせられるものだと思わせるようなものだった。

 ——そういえばその劇場から帰る時にすれ違った人の話が聞こえてしまったのだが

「——あんたも『赤い人形』を見に来たのか?」

「——まあね、一目見ておきたくてな、そういうお前もずいぶんともの好きだな」

という内容だった。『赤い人形』とはなんのことだったんだろうか……? と今になって気になってきた。人形劇の題名は少なくとも『赤い人形』ではなかったはずだ。

 いつかまたあそこに赴くとしよう。『赤い人形』について知るために——

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