インドア派のチキン野郎は海外へ行った
犬居 田地
出発前――ロマンス急行に乗れなくて
思い返せば十年ほど前。
高校三年の夏。
僕は、就職活動をしていました。
某・ロマンス溢れる私鉄の2日がかりの試験へ赴き、絶妙に遠い距離に住んでいた僕は、ホテルに泊めて頂いたことを今でも鮮明に思い出すことができます。あの時の朝ごはんは……忘れましたが、自分を含めて田舎者だらけ――全国各地から、受験者たちが集っていたのです――のロビーは、なかなかおもしろかったです。
会話なんて何もなくて、カウンター越しに渡された泥水みたいな珈琲をすすっていました。
ガムシロもミルクもセルフサービスなんだけど、田舎にはそんな小洒落たお店はありません。(そういえば、当時はガソリンスタンドも店員さんが入れてくれたっけ)
というわけで、みんなどうしていいか分からず、無理してブラックをちびりちびりとすすっておりました。
朝食を済ませて面接の会場へと向かったのですが、率直に言うと僕は道を間違えて遅刻しました。そのくせ、「すいません」の一言すら言わず。まるで自分は重役の息子であり、既に縁故採用が決まっているかのような貫禄でした。たぶん。
ちなみに僕の後をついてきていた人も数名おりましたが、きっとみんな落ちてしまったのでしょう。今思えば、悪いことをした様な気がします。
さらりとロマンスを取りこぼした僕はその後他の会社を受け、その時も遅刻をしそうになり、エレベーターの中で社長さんと同席しました。まさかその会社に六年半も居ることになるとは思いませんでしたが……。
自分語りが過ぎました。
二十歳の頃から海外放浪の旅への漠然とした憧れを抱いていた僕は、数年を経てそれを叶えることに成功しました。といっても、思い描いていたものとはかなり違うものになりましたが。
明日から、少しずつそれを書いて行きます。
僕の記憶の中では、そのすべてがノンフィクションです。
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