第83話 うさぎと亀の問題

うさぎと亀の物語を知っているか。


「2匹でかけっこをして、走るのが早いうさぎが圧倒的優位だったが、昼寝をしている間に、地道に努力した亀が勝った」という童話だ。


示唆は、「油断大敵である。地道な努力は良いものである」というものだ。


言いたいことはわかる。しかし、あれは、「たまたま昼寝をしすぎたうさぎ」だったから、亀が勝ったのであって、たまたま奇跡的に勝ったラグビーの南ア撃破のような1勝負を、一般化するのは我田引水すぎるだろう。つまり、普段はうさぎは昼寝はしないし、昼寝をしたとしても、そこまでは遅れないかもしれない。そうすると、今回は、100回中の1回のミラクルだったかもしれない。それだったら教訓は「地道な努力は100回に1回くらいは報われることがある」というべきで、その統計データもないのに「地道な努力は良い」とは、誇張すぎてJAROに怒られるだろう。


この童話の当時は「地道に頑張れば良いよ」という示唆は、プロテスタンティズムの倫理のごとく、マックスヴェーバーよろしく資本主義の推進のプロパガンダとなったが、現代は、これは「効率性が悪い」とも言われかねない。現代ならば、「亀とうさぎは100回、かけっこをしましたが、亀は100回中、1回しか勝てませんでした。しかし、洪水が起きた時は、亀は泳いで逃げましたがうさぎは溺れました」などの童話にして、「自分が勝てる土壌で戦うべき」などの示唆の方が、専門性が重宝される現代ではあるべき童話かもしれない。


あるいは、そもそも、このかけっこの発端は、亀がうさぎにバカにされたから「勝負しよう」と言ったものである。しかし、亀は普通に考えて、勝てるハズのない勝負に乗っているのである。そこを考えると、やはり「勝てない勝負はするな」という示唆を出すべきだし、あるいは、「勝てる勝負で勝負せよ」という話もできるかもしれない。たとえば「長生き勝負」とか。


そもそも、うさぎというのもよくわからない。うさぎはそんなに走るのは早くないだろう。そのたとえをするならば、チーターやインパラの方が良いのではないか。なぜうさぎか。これは、「うさぎが愚鈍そうだから」という容姿差別ではないか。あるいは、亀も遅いというレッテルを貼られて風評被害である。亀の消費者団体があれば騒がれているところだ。


少なくとも、あなたの敵は昼寝をしてくれるとは限らない。それは童話の最後に入れておくべきだろう。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る