第14話 ラインがラインであるために

LINEというものが普及し、もはやしていない人の方が少なくなった世の中。しかし、LINEは、ときに、想像しなかったコミュニケーションを生むことがある。


たとえば、ユキはクラブによく行く。そこで知り合った男とLINEを交換する。その中のいくつかのLINEは、強烈な印象と共に残っている。たとえば、ある男からは「お前がクラブで他の男と手を繋いでいるのを見たぞ。俺を馬鹿にしているのか」というLINEが延々ときた。その男とはその場所で初めてあって10分ほどしか話をしていないのに。


あるいは、「これから料理を作ります!」といって、パスタとトマトの写真を送ってくる人がいた。「何を作るでしょう」、というコメントと共に。それはそれでユニークで面白かったのだが、問題は同じネタを3回も続けられたことだ。しかも、それが全部同じ写真なら「ネタの使い回し」ということで理解できるが、毎回、材料の位置や大きさが違う。つまり、こいつは、トマトパスタしか食べてない男なのだ。恐怖である。


あるいは、スタンプしか送ってこない男がいる。「寝る」スタンプを送られて「おやすみ」スタンプを返すのはわかる。朝の挨拶もわかる。しかし、意味のわからない「光を浴びているスタンプ」などは送られてもかえしようがない。しかし、そのまま無視するのもわかるいので、適当なスタンプを返すとそれにまた謎のスタンプが返ってくる。彼が一人で文脈を理解してコミュニケーションをしているとしか思えない。もはやトンパ文字でやり取りをしている気分である。


ユキ自身も事件を起こしたことがある。浮気相手に送るLINEを彼氏に送ったのだ。「今日はありがとね、ハート」と。送った瞬間に気づいたユキはとりあえず携帯をふった。なぜか携帯を振ると時間が戻るような気がしたのだ。当然、そんなスタンド能力があるわけはなく、LINEは無情にその言葉を送る。それが既読になる前に何かフォローをしないといけない。「友達に送るつもりだったのに間違った」と言おうか。あるいは「あなたが今日も生きていてくれてありがとう」と送ったのだと言い訳しようか。結局、ユキは、「前回会った時に書いて送ってなかった文章を送ってしまったのだ」と言い訳をした。それ以来、ゆきは、LINEを送る前に相手先を指さし確認をするようにしている。


一度、送ったメッセージは取り返すことができない。それは、まるでラインが「LINE(線)」という名前を誇示するかのような一線だった。

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