1-5
「ホームルームの前にほら、出し物。どうすんだ?」
課題を集めながら、永谷は小さな教室にいる自分の生徒達を見渡して尋ねた。
「全員体調不良ってことになりませんかね?」
「無理だろー、俺亮と一眞が朝サッカーしてたの見てるもん」
おそらくは冗談で言ったであろう亮の言葉は永谷に一蹴され、彼はそっかーと背もたれに身を預ける。
「それなら、俺と琴子と響はセーフなんじゃない?」
椅子の後ろ足で器用にでバランスを取りながら言った翔の言葉に、永谷は大真面目な顔で頷いた。
「それもそうか。じゃあお前ら2人で頑張れ」
担任が出したあまりにも乱暴な結論に思わず声を上げる亮と一眞。
「え、なにその理不尽な感じ」
「勘弁してくださいよー!」
(こんなんでちゃんと決まるのかなあ)
そのまま不毛な議論を続ける友人と永谷を眺めながら、琴子は半ば他人事のようにのんびりと思いを巡らす。
「琴は?」
「ん?」
隣の席から投げかけられた声に、彼女は手に顎を乗せたままくい、と顔の向きを変えた。
視線の先には、未だに眠そうな響の顔。
「何か考えてきたの?」
痛いところを突いてくる。
数秒の間を空け、琴子はすっと顔を元の向きへと戻した。
その口元は笑みを隠しきれておらず、微かに緩んでいる。
「……だと思った」
響がおかしそうに笑う。
切れ長な目が線のようになり、その笑顔を見るたびにニャンちゅうみたいだと琴子は思っていた。
端正な綺麗な顔をしているのだが、時折見せる表情にはマスコットキャラクターのような愛嬌が感じられる。
「集会があることすら忘れてたよ。今朝大和に言われて思い出した」
「もうどっちが年上だかわからんね」
神妙な顔で、琴子は同意の相槌を返した。
大和が兄で自分が妹である構図が容易に想像できてしまい、彼女はまた内心の不甲斐ない思いに密かに溜息をつく。
「なー白井、なんかないかー?」
突然永谷から困り顔で話を振られ、琴子はぴくりと体を反応させた。
大和が言っていたヒゲダンスという言葉が頭をよぎるが、人前で踊るなどまっぴらごめんな彼女はそれを隅に追いやり、永谷に負けじと困り顔を見せる。
「思いついてたらこんなに悩んでないですって……」
「そうだよな……お前、集会があったことすら忘れてそうだもんなあ」
響が思わず噴き出し、下を向く。
図星をつかれた琴子はぱっと頬を赤らめ、隣で肩を震わせている友人を横目で軽く睨んだ。
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