1-3

二階へ上がり、ガチャリと教室の扉を開ける。

琴子のほか4名のクラスメイトは既に教室に集まって談笑しており、彼らのおはようという声に応じながら彼女は自分の席へと向かった。


「目、覚めた?」


バスの中で琴子を小突いて起こした友人、後藤翔ごとうかけるが、笑いながら彼女に話しかける。

がっしりとした身体に、耳にはピアス。

髪も金髪で、所謂少し不良のような外見をしている。

筋肉質な身体で、身長も180センチと高く、一見威圧感のある外見だが、友達想いで少し不器用な優しい男子生徒だった。


「まだ。眠い」


欠伸を噛み殺しながら言った琴子に向かって、翔は悪戯っぽく指を向けた。


「お前、涎垂らしてたぞー?」


「えっ、うそ!」


「うっそーん」


そうおどけてみせる翔のツンツンとした短髪を軽くはたき、琴子はさっさと自分の席についた。


「目ぇ覚ましてやるために言ったのにー!」


翔の抗議の声を聞き流し、彼女は鞄から1時間目の教科書を取り出す。


「なに、まさか夜遅くまで勉強してたとか?」


自らの机に腰を下ろしたまま琴子に身体を向け、くりっとした目が印象的な少年、春馬亮はるまりょうが言った。

くしゃっとした茶色の髪の毛に良く似合った明るい茶色の瞳は、いつもきらきらと輝いている。

元気で活動的な性格であり、得意教科はもちろん体育。

クラスのムードメーカー的存在だ。

日本にいた頃からずっと格闘技を習っていて、背はそこまで高くはないがTシャツの袖から覗く腕はしなやかな筋肉に包まれているのが窺えた。


「そうそう、偉いでしょ?」


「うそつけよ、どうせマンガでも読んでたくせに」


適当についた琴子のささやかな嘘はすぐに見破られてしまい、彼女はそれにまた無意味な反論を返す。


「違うよ、本だもんね」


「勉強じゃないんだね」


亮の隣でやっぱり、と言うように色白の少年が笑った。

色素の薄い髪の毛がさらりと揺れ、周りの空気をくすぐる。

少し垂れた目を細め、倉敷一眞くらしきかずまは亮と笑い合った。

白くきめの細かい肌、中性的で整った顔立ち。

その外見のせいか繊細で病弱そうな印象を周りに与えるが、日に当たってもなかなか肌が焼けない体質なだけで至って健康な男子高校生だった。

頭が良く物知りで、成績もメキシコにいながらにして日本の高校生の中でトップクラスに位置している。

意外にも、正反対に見える亮とは一番仲が良かった。

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