毒虫ゲンタ(その3)
「ウゥラァァァッ!」
叫びながら、ゲンタはノコギリ状の刃を持った
別に剣術の心得があるわけじゃない。
型もフォームもあったものじゃない。
ただ力任せに、敵の頭部にあたりをつけて横殴りに振っただけだ。
にじり寄る〈噛みつき魔〉は
サラリーマンの頭部が『小首を
「死ねやぁ!」
バジジジジッ! という放電音と共に〈噛みつき魔〉の口の中に青白いスパークが飛び、サラリーマンは「ぶしゅるるるる」と意味不明の声を上げて黒い液体を口から垂らし、白目を
後ろに迫る気配を察し、男の
長剣は、二人組の不良男子高校生……だったバケモノ……の脇腹に、二人同時にギザギザの刃をたてた。
かすかに肉と化学繊維が焦げたような匂いが
(こ、こいつら弱えぇ)
足が遅い。のろのろ歩くしか能がない。
まるでアクション・ゲームの
(イージーモードだ……楽勝じゃねぇか)
俺は強い。俺の作った〈サンダーボルト・シャーク・デス・セーバー〉は圧倒的に強い。
そう確信した瞬間、恐怖は
「いやぁほぉうっ!」
叫びながら再度振り返り、斧で
剣は、そこにいた女子高生の耳を
放電。
青白い光。
音。
バケモノ化した少女が白目を剥いて後ろに倒れる。
小学生、老婆、ハゲ親父、主婦、交通整理の警備員、建築労働者、ランニング・ウェアの女。
迫り来る人間ども……いや、かつて人間だったバケモノども……に
バケモノどもは肉を裂かれ、骨を折られ、白目を
気がつくと、ゲンタを包囲していたバケモノどもは
「はぁ、はぁ、ははは……ざまあ見ろ」
息が上がっていた。無駄に体力を使ってしまっていた。
しかし、興奮状態のゲンタに体力が消耗しているという実感は無かった。
むしろ、異常な高揚感が体を包み、力が全身に
「お、俺、ひょっとして最強じゃね? クソ弱っちいバケモノが何人来ようが、この〈サンダーボルト・シャーク・デス・セーバー〉があれば瞬殺じゃねぇか……」
精神が
「クックックッ……みんなバケモノになっちまえよ。クソくだらねぇ両親も、クソくだらねぇ同級生だった奴らも、クソくだらねぇ教師どもも、クソくだらねぇコンビニの店員も、クソくだらねぇネットに書き込んでる連中も、警察も、消防も、日本人全員まとめて、アメリカも、ロシアも、ヨーロッパもインドも中国も、世界中のくだらねぇ人間ぜんぶ弱っちいバケモノになっちまえよ! 俺様が世界最強! 世界最高なんだよ! 大統領だろうが総理大臣だろうが、誰でも好きに殺せるんだよ! 何でも好きに出来るんだよ!」
突然、そこで
我に返った。
「……て、なったら良いなぁ……なんて、そんな訳ないか」
振り返ると、公園の入り口に再びバケモノどもが集まり始めていた。
ぐうぅ、と腹が鳴った。
それで、コンビニへ弁当を買いに行くという目的を思い出した。
「まあ、とりあえずコンビニ行こ。道々、楽勝チート殺人ゲームを楽しめれば良いや」
公園内に入って来た男……宅配業者の制服を着た〈噛みつき魔〉……に向かって、「
二股に分かれた切っ先を男の腹に刺す。トリガーを引く。
突き破った男の胃袋の中でプラスとマイナスがスパークし、全身を駆け巡った電流が神経と脳を焼く。
「一丁あがりだ」
ゲンタは倒れた宅配の男の体をまたいで公園の外に出た。
もと来た道を戻る方へ、薄暗い住宅街を走る。
とりあえずもう恐怖は無い。
バケモノは、弱い。のろまで、馬鹿で、弱い。怖くない。
五十がらみの主婦らしき女が迫って来た。
右上から左下へ、女の顔に斜めに剣を走らせ、最後に喉のところに切っ先を引っ掛けてトリガー・スイッチを引いた。
白目を
次、坊主頭の中学生。
次、郵便配達の女。
次、ジャージ姿の
次、次、次……
バケモノを倒しながら暗い夜道を走り、気がついたらT字路に戻っていた。
アパートの二階を見上げた。
(さっき
部屋の明かりは
アパートの住人は、今もカーテンの隙間からコッソリと自分を見下ろしているのではないか……何となくゲンタはそう思った。
「そうだな……いくらはしゃいだって一人じゃ飽きる。観客が居りゃ張り合いが出るってもんだ……いっちょ、俺の華麗な殺戮殺人パフォーマンスを見せてやるよ」
T字路の真ん中で立ち止まる。
三方から三人ずつ、九人の〈噛みつき魔〉がゲンタに迫って来る。
「必・殺! サンダーボルト・シャーク・トーネード・ツイスター・
叫びながら、剣を両手で持ってハンマー投げの要領で体ごとグルグル回った。
回りながらトリガーを引く。
回転する剣のギザギザに青白い電光が走る。
恐れもせず近づいてくる〈噛みつき魔〉どもの首を切っ先が薙いで行く。
次々に首を切られ、体を痙攣させ、バケモノが倒れていく。
まさに一瞬、瞬殺だった。
T字路の真ん中に立つゲンタの周りに、バケモノの体が九つ、円を描くように転がった。
最後に、明かりの
(見てたか? アパートに
自己満足と自己陶酔に満たされながら剣を下ろし、トリガー・スイッチから指を離した。
格好をつけて、肩で風を切りながら県道へ向かって歩いた。
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