異世界転生 〜生まれ変わればキメラコア〜

@secondlast

第1話 終わりはいつも突然に……


 ――あー、腹減った。


 そうつぶやきながら俺は歩く。

 腕時計を見ると 21:03 と表示されていた。

 9時、それならあいつの店も終わる頃だ。そうだ! 久々にクッキーも呼んで宴会状態にしてやろう。


 徒歩3分にある山咲のビル。その4階にある Ground Canyon と洒落た感じに書かれたドアを押し開く。

 すると小気味良く、ベルの澄んだ音が店内に響く。


「おーっす! たっつぁん何かイートできるサムシングあるー?」

「はぁ、まずその喋り方を止めろ。耳障りだ。止めたら何か見繕ってやる」

「サーイエッサー!」

「……駄目だコイツ。早くなんとかしないと」


 達哉ことたっつぁんは疲れた様に、いやもうすでにヘトヘトなのだろうが吊り目がちな目を閉じ、目元を揉み、ノリよく返してくれる。


「ごっはん!ごはん!」

「はいはい。ったっく、俺はお前の母親じゃねえっての」


 慣れた手つきで背後のつまみを回しコンロに火をつける。


「あ、そいえばクッキー呼んでいい?」

「そいつならそこで潰れてるぞ」

「あ、ホントだ。あらまぁ気持ち良さそうに寝ちゃって」

「Zzz……」


 九鬼ことクッキーは空になってるであろう熱燗を握りしめ、カウンターに頬を付け、見た誰しもが引きそうなニヤケ面で気持ちよさそうに寝ていた。


「……グヘヘ……ちょおうっちまっちーおねぇちゃーーん……」

「……引くわー」


 ニヤケ面に負けないゲスい言葉をつぶやくクッキー。コイツは絶対、歳以外で死ぬ事はないだろうな。


「ほらよ、奢りだ。ビールでいいよな?」

「サンキュー」


 キンキンに冷えた瓶ビールとグラスのコップを置き。肩を揉みつつ料理に戻っていく。

 ……となりのコイツは幸せそうに寝てるから、少し恥ずい話でもするか。


「かあっあぁー…… ふぅーうっぷ、やっぱぁスゲェなぁー」

「何がだ?」

「いや、みーんな得意なモノあんじゃん?それってスゲェなぁーって」

「へぇ、例えばどんなだ?」

「うーん?そうだなぁ、お前だったら料理できて、店まで持って、英語もベンキョーして将来の夢まであるじゃん」

「そういわれると恥ずいな。ああ、海外に店持つってやつか。まぁ、まだまだ夢の夢でここでは資金調達中だがな……みんな、って事は九鬼もあるのか?」

「うん? そりゃあな。例えば優しくて、喧嘩強くて、悪いモノは見逃せなくて、でもどっか弱くて。やっぱみーんなカッコイイんだよなぁー」

「そう聞いたら良い奴だな。ま、今は酒に溺れ、現実逃避し夢の中だがな」

「おっとと、そいつぁは厳しい。……よし! 一杯いるか?」

「俺の店の酒だがな。まあ貰うよ」

「んじゃあカンパーイ!」

「乾杯」




「ったく、よー。ひくっ、おまいら影ぇ分身しやがって、ひっく。ちょったぁもちつけぇえい!」

「たっつぁんよ、すっげぇ酔い方してんじゃん」

「なぁー、終電じゃんかよー、線路でかけっこしようぜー」

「クッキー、それアウトだから。犯罪だから、せめてやるなら道路になさい」


 たっつぁん特製ピラフを食べて酒を飲んでたら。一人は酔い潰れ、もう一人は覚めていた。

 たっつぁんはガタイがいいから凄く重いしクッキーのバカは悪い意味での有言実行だし、色々つらい。

線路に差し掛かるころ。


「いっちばーん九鬼ー、いっきまーっす!イャッハー!」

「あ、コラ待て! たっつぁん、ちょどと走るが背中乗れるか?」

「ぉーう」

「……うし。待てやぁ九鬼ぃ!」

「待てっつわれて待つバカはいねぇんだぜー」

「ぅぐ!ゅ、揺れウオロロロ!」

「ちょっ、待っ、おまそこ背中うっぷ、オロロロロ!」

「ん〜、たっつぁん達よー。いけませんぜー路上で吐いちゃうっ、に、ニオッ、ウオロロロ!」


 それはすぐに起こった。

 地面が明るく、デコボコなアスファルトの影が見えるくらいにまで、身体は光に包まれた。

 腹の底まで響く様な重低音が聞こえ。ブレーキ音、跳ねた。いや、跳ねられた。

 地面に体がこすりつけられ、全身が熱く感じた。光に照らされたまま、俺の意識は暗く閉ざされ……



 ……た。はずだったのに。


「だ〜い、一っ回ーーーっ! 転生者ぁ、能力決定選手権ーーーっ! 」


「意味わっかんね……」


 俺のこのつぶやきは騒音に掻き消された。

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