第16話『戦い』

 高速走行で早朝の市街を駆け抜ける三台が高速道路の検問を強引に突破、螺旋状のスロープを駆け上がる。明るく瞬くパトランプが遠くに見え、並走したヘリドローンがそちらへ先行する。

「隼人君、先行して」

 そう言って咲耶は速度を落とし、それに合わせて隼人が加速。先行してバリケードの方へ突撃していくと雑な並びで作られたそれの間を駆け抜け、第三アクアフロントに突撃する。

 警察の突撃を警戒していたらしい三人の見張りからライフルによる射撃を受け、装甲でライフル弾を弾いた隼人は萎縮するレンカを無視してスロットルを入れる。

 そして、見張りの一人をはね飛ばした彼はそのままオフィスビル目がけて駆けていく。

 残りの二人が逃げる隼人を追って照準しようとしたが後続の浩太郎達の対物ハンドガンに射殺され、死体は真っ二つになって地面に落ちた。

「オフィスビルに入るぞ!」

 そう言って車体を傾けた隼人は、オフィスビル群へ向かう曲がり角を曲がるとラテラから発せられた熱源警報に目を見開き、それと同時にコーナーを抜ける。

 抜けた先の眼前、大通りに立ちはだかる重装甲型軽軍神『ウォートホグ』を見据え、こちらをセンサーで捉えたらしいウォートホグが全身に備えた武装を全て展開する。

「クソッ、重装型!? 聞いてないぞ!?」

 驚愕する隼人の眼前でスピンアップする手持ちのガトリングと肩のロケットランチャーを回避しようとした彼は撃発したそれにフロントを打ちのめされ、レンカ共々車外に投げ出された。

 空中でスラスターを噴射した隼人は、姿勢制御も出来ずきりもみ状態になる彼女をキャッチすると背中を地面に擦らせながら開発途中のショッピングモールに滑り込む。

『あっは、良いアトラクションねぇ。大丈夫ぅ?』

「第一声がお前で安心したぜクソッタレ。アーマーは?」

『背面部に軽微なキズ。機能は問題ないわ、動けるわよ』

 網膜投影の映像に割り込んで表示されたスレイを睨み付け、体を起こした隼人は地面から響き渡る振動音に慌てて気絶しているレンカを抱えたまま、跳躍する。

 瞬間、倒れていた箇所をガトリングが薙ぎ払い、着地を追う射撃をロールで回避した隼人は腕の中で目を覚ましたレンカを抱き締めつつ、ショッピングモールの連絡橋に向けて跳躍。

 足場にした橋を砕き、がれきでウォートホグを埋めてそのまま道路に戻った隼人はスライディングブーストでトラックに隠れ、レンカを下ろす。

「案の定か! ストライカー隼人よりコマンダー咲耶、全員の状況を教えてくれ」

『コマンダーよりストライカー。地上班は無事だけど、バイクは全滅よ。幸いにも対空手段は見当たらないから、何とかなりそうね』

「だが、地上には重装備の軽軍神がいる。それに……このままこちらを誘い込むとは思えない」

 そう言ってトラックの陰から顔をのぞかせた隼人は無数のマズルフラッシュが見えるバリケードと高層ビルを見上げると脳裏をよぎる嫌な予感に装甲内部の表情を歪ませると咲耶達の位置を確認する。

(相手は、何を考えてこの配置にしている? 無計画な物ではない筈だ……。一体、どう言う意図があって……)

 思いながら周囲を見回した隼人は吹き飛んだがれきの方へ振り向き、がれきを押し退けて再起動したらしいウォートホグが闇雲に両腕部のガトリングを発砲、慌ててレンカを庇った隼人は背中に20㎜弾を受ける。

 凄まじい衝撃が隼人を襲い、恋歌ともどもつんのめった彼はスラスターで姿勢を制御するとスラスターブーストも加えて20mm弾を回避しながら咲耶達の方へと走り出す。

「こっちよ!」

 小回りの利くXM92で援護しながら手招きする咲耶に頷き、走る隼人は抱えるレンカに対人用のライフル弾が当たらないように注意しつつ、彼女らが隠れている場所へ飛び込んだ。

「さて、どうしましょうか」

「あのデブはうちの男子共で相手する。アイツの性能や弱点は仕事柄知ってるからな。アンタはレンカ達を連れて歩兵の相手をしてくれ」

「そう、じゃあ軽軍神は任せるわ。行きましょう」

 そう言って二手に分かれ、咲耶達をショッピングモールから回り込ませた隼人は残った浩太郎と目を合わせると通信機を起動させる。

「ストライカーよりシューターリーヤ、軽軍神が見えるか?」

『ああ、見えてる。こっちに数発撃ってきた』

「そいつをやるぞ。俺達のコンビネーションによる袋叩きでな」

『あはは、懐かしいやり方だね、了解。で? どこを狙えばいいのさ』

「背面部にある機体冷却用のラジエーター、それ自体装甲だが若干薄い。俺と浩太郎でお前の狙撃位置に固定し、表面を削る。武、リーヤとナツキの防御を頼む。ナツキ、スポットを頼む。それじゃあ、行くぞ」

 そう言って遮蔽物から飛び出した隼人は光学迷彩で自分と同じ姿になった浩太郎に目を向けると動揺したのか、射撃を止めたウォートホグを二人で囲む様に旋回するとバンカーを地面に打ち込んで軌道を変更。

「数年ぶりにやるぞ、コンビネーション! パターンAPK!」

 そのままウォートホグの胸部に回転蹴りを打ち込むとそのまま足を頭に上げてブラストランチャーの爆炎を浴びせて熱感知も含めたセンサーを混乱させるとその場を離脱する。

 迷彩を解除した浩太郎がワイヤードブレードを射出してウォートホグを固定、空中浮遊しながらホルスターからXM92を引き抜いてウォートホグに撃ち込んだ浩太郎は衝撃でウォートホグを揺らしながら旋回。

 装甲からワイヤーを外し、迷彩を展開しながら慣性で離脱する浩太郎のみを捉えていたウォートホグはガトリングを向けるがその直前、背面のバリアに射撃を受けてそちらを振り返る。

 見れば遠くを飛行するヘリドローンからスコープの反射光が見えており、それをズームアップさせたウォートホグのパイロットは側面ドアから術式武装の『AW50c』を構えるリーヤを捉えていた。

『ウ、グァアアアアアアアアアアア!』

 ウォートホグのパイロットには正気が無いのか咆哮の様な叫び声が外部スピーカーから聞こえ、ハッチの開いたロケットランチャーとガトリングがヘリドローンに向いて一斉に放たれる。

 宙を舞うロケット弾とガトリングの弾丸を回避したヘリドローンから、爆裂弾にマガジンを変えたMk48と、通常弾装填のAW50cの射撃が走り、弾幕と一点を指す射撃がウォートホグ目がけて突っ走る。

 だが、ウォートホグのバリアが弾丸を弾いて無効化。高速で循環するバリア表面から跳弾の火花が散り、爆炎が花咲かせる。

 バリアに攻撃を食らいながらも咆哮を上げながら射撃を続けるウォートホグに光学迷彩を解除した浩太郎が挑みかかる。

「バリアさえ突破すれば!」

 腰から引き抜いたククリナイフの刃をバリアに突き立てた浩太郎は至近距離でXM92を突きつけると対物弾を連射する。直撃するたびにバリアが弾丸を弾き、そのたびに刃が食い込んでいく。

「今だ! 隼人君!」

 バリアに蝕まれ、弾き飛ばされそうになるククリナイフを押さえつけながら叫んだ浩太郎は挟みこむ様に挑みかかってきた隼人にウォートホグの正面を任せる。

 背面部のスラスターを展開し、バリア破壊の為に右腕のパイルバンカーを起動した隼人は最大出力でウォートホグのバリアに杭を打ち付けるとドーム状に展開されていたバリアが砕け散った。

 それと同時にバリアに弾かれそうだったククリナイフがラジエーターに突き刺さるが、装甲も兼ねているそれは数センチで刃を止めてしまう。

「硬い!」

 ダメ押しとばかりにトマホークでラジエーターを切り裂いた浩太郎はガトリングでの打撃を回避すると、スラスター併用のサイドステップで撹乱しながら離脱する。

『やべえ術式弾が切れた!』

 焦る武の声に対応して先まで爆発していたマシンガンの射撃が跳弾の火花を裂かせていた。

『射線が……!』

 それに続いて通信機にリーヤの嘆きが聞こえ、どうやらラジエーターが狙えないらしくマシンガンの射撃のみがウォートホグに浴びせられていた。

 そのタイミングで右の逆手持ちでグラビコンセイバーを引き抜いた隼人がウォートホグに挑みかかり、鈍器として薙いできた左腕のガトリングを蹴りで弾き飛ばす。

『ガァアアアアアア!』

 至近距離で開いたロケット弾のハッチに反応し、至近でロケット弾を回避した隼人はウォートホグの左拳を受け止めると右腕にセイバーを突き立て、相手を固定する。

「撃て!」

 ヘリドローンに向けてウォートホグの背中を向けた隼人が叫ぶと同時、敵からくぐもった音がして動きが止まる。そのまま擱座した機体が中身を失った様に崩れ落ち、凭れかかろうとした機体を隼人は傍らに投げ捨てる。

 索敵の為にセンサーを再起動させた隼人と浩太郎はレンカ達以外に生体反応の無い道路に一息つくと一度愛車に目を向け、歩み寄る。

「すまんな」

 ロケット弾の直撃で前輪を失い、吹き飛んだ勢いでフロントが潰れてしまったニンジャのフレームを労わる様に撫でた隼人は突然通信機に走ったノイズに耳元を押さえた。

『ウェルカム。よく来てくれたねぇ、五十嵐隼人君』

 全員に聞こえているらしく隼人が振り返れば全員が周囲を見回し、ヘリドローン側の回線からも動揺の声が上がる。

「貴様、どうして俺を名指しで!」

『それについてはメールで書いたとおりだ。私は君との一騎打ちを望んでいる。だが、君は私の約束を守らなかったようだねぇ。お仕置きだ、がれきと共に沈め』

「何!? それはどう言う……」

 隼人が食って掛かったその瞬間、轟音と共に高層ビルの根本が吹き飛んで高い位置にあった大質量が落下を始める。

 慌てて逃げた隼人達はショッピングモールの仮店舗に飛び込み、軽軍神を装着した三人でレンカ達をカバーしながら爆風から逃れると外から誰かの悲鳴が聞こえた。

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