第2話『ケリュケイオン』

 銀行強盗事件解決の翌日、オフィスに詰めていた隼人は応接間の対岸でニコニコと笑う年若いエルフ耳の女性を前に机の上に置かれた書類を確認していた。

「噂はかねがね聞いてますよ。民間警備会社PSCイチジョウの最年少チーム“ケリュケイオン”。そのリーダーであるコールサイン“ストライカー”こと、隼人・五十嵐・イチジョウ君、あなたの事は特に」

「それはどうも。とはいっても俺達は近辺、横須賀と湾岸のアクアフロントぐらいに業務範囲が限定されている。業務的にはアンタらと変わりませんよ、刑事さん」

「そうだとしても最近は日本政府からの圧力で、魔力次元側の警察機関やら軍事機関は軒並み弱体化されていますから、今回の様な凶悪犯罪に対応できるだけの力を持てなくなっているのです」

 そう言う刑事に気の抜けた相槌を打ちながら書類を見る隼人は内心でご愁傷さま、と言いながら必要事項を確認する。

「凶悪犯罪と保有武力のバランス、か。常駐できる戦力が政治的に削られる以上、俺達『民間軍事警備会社PMSC』の仕事が無くならないのも頷ける話だ」

「あ、お話が変わるのですが、私今度ケリュケイオンのメンバーについて記事を書こうとしてまして」

「……そうか、アンタ広報担当兼任だったか。んで? 何だって仕事泥棒の俺達の記事なんざ書こうとしてんだ?」

「仕事泥棒? そう思ってる職員は少ないと思いますよ。何せ、自分達でどうにもできない事件をあなた達は解決してくれるのだから」

「……それもそうか。それで? 俺にインタビューか?」

 足を組み、気だるげに答えた隼人に、女性は首を縦に振ると経費の書類の上にボイスレコーダーを置いた。

「さて、最初のインタビューだけど。その前にプロフィールの確認をさせてくださいね。名前隼人・五十嵐・イチジョウ。種族は人間。PSCイチジョウ社長のご子息。あら、でもイチジョウ社長はエルフですよね? 混血かしら?」

「いや俺は純血だ。元々孤児で、九年前にある事情から縁のあったイチジョウさんに引き取られた」

「なるほど。どうして、孤児になったのかについて聞いてもいいですか?」

「それについては、勘弁してくれ。所で、アンタ、うちの隊員についてはどこ程度把握してる?」

「お話ししましょうか?」

 ニヤニヤと笑う女性に頷いた隼人は全員のプロフィールについて聞く事にした。

「まずは副リーダーから。コールサイン“ファントム”こと、岬浩太郎君。あなたと同じ人間で、生粋のアサシン。彼、移民三世?」

「確かに、アイツは移民だ。爺さんが日本兵でこっちに移住して家業を復興したとか言ってたな」

 女性の問いかけに頷いた隼人は自分の机で業務報告を書いている浩太郎を指す。

「なるほど。で、次は、あなたのパートナー、コールネーム“バンガード”ことレンカ・イザヨイちゃん。イザヨイ貿易の社長令嬢であり、企業間との友好を示す広告塔としてオペレーターをやってるそうですね。

種族は半猫族の小柄巨乳の女の子。広告塔らしく見た目は可愛らしいですが、あなたは相当手を焼かされてるみたいですね」

「ああ、アイツは我が侭で独占欲が強いもんで。それで俺を巻き込んだトラブルを何件も起こして手を焼かされている」

「あらあら、相当好かれてますね。好きなものは独り占めしたくなるタイプかしら」

 笑いながらタブレットのページをスワイプした女性にむくれた隼人は確認を終えた書類をファイルに収めると、ソファーに寝転がり、一人で漫画を読んでいたレンカを呼び出した。

「レンカ、これ、俺の机の上に置いておいてくれ」

「えーっ、私を使いっ走りにするのぉ!?」

「うるせぇ石潰し。お前馬鹿なんだから肉体労働でちっとは貢献しろ。バイトさせるぞ、いい加減にしねえと」

 そう言ってファイルを投げた隼人は器用にハンドスプリングで起き上がった彼女がキャッチして机に持っていくのを見ると苦笑する女性に向き直った。

「ホント、仲良いんですね」

「腐れ縁だからな。もっと言えば、うちのメンバー全員だが」

「あら、意外ですね。さて、続いていきましょう。副リーダーのパートナー、コールサイン“リーパー”カナ・スィリブローヴァちゃん、種族は人狼の小柄で貧乳な女の子ですね。あ、この子意外とうちで人気なんですよ。ダウナー系で」

「……どこで人気が出たのか見当もつかんな」

 そう言う女性に隼人は半目になって腕を組むと呆れ半分の語調で言った。

「ファン曰く、ミステリアスなのがいいそうです。で、彼女、新ロシアからの留学生みたいですね。家系については調べられなかったんですけど」

「カナが言うには実家は宗教関連の処刑人をやっていたそうだ。今じゃ、両親が興した企業もあって処刑仕事はやってないが技術は末っ子の彼女が引き継いだらしい。んで、彼女単身でここに留学してきたらしい。

常識知らずで甘えたがりだが、戦闘技術は一級だ」

「ふむふむ、高評価ですね。隼人君は意外とお人よしなんですか?」

「本人に聞くか普通。まあ、お人好しな部分はあるかもな。あ、あと付け加えるとレンカとカナはマゾだ。それもド級のな。オープンかクローズかの違いだ」

「よ、余計な事を聞きました」

 幻滅したらしく呆れている女性に苦笑した隼人はお盆に乗せた湯飲みを机に置いた狐耳のある金髪の女子を見上げる。

「すまんな、ナツキ」

 そう言って平手を軽く上げた隼人はタブレットを素早くスワイプしている女性を見ながら茶を啜る。

「え、えっとあなたは“オフィサー”ことナツキ・ヴェルナー・砂上ちゃんですっけ?」

 そうお盆で目を引くほどの大きさの胸を隠している少女、ナツキに問いかけた女性はビクッ、と体を竦ませた彼女がこそこそと下がろうとしていくのに戸惑い、隼人の方に視線をやった。

「何か悪い事したんでしょうか」

「いや、単なる人見知りだ。あ、ナツキ、俺の机の上に今回の報酬額がある。本社宛の帳簿に書いておいてくれないか」

 女性へのフォローもそこそこに簡易キッチンへ戻っていくナツキへそう言った隼人は向き直って思い出した事を口にした。

「そう言えば、ウチは二チームで運用しているが、それについては?」

「ええ、把握してありますとも。アルファとブラボー。アルファは隼人君、レンカちゃん、浩太郎君、カナちゃんで構成されていて基本的に前衛組。ブラボーは、ナツキちゃんとまだプロフィールを喋っていない残りの三人で構成。後衛運用が主ですね」

「その通りだ。じゃあ、ブラボーのプロフィールを言ってみてくれ」

「では、ブラボーチームのリーダー“シューター”ことリーヤ・サカイくん。有翼族。若干十七歳にして射撃競技世界大会ジュニア部門でフルスコアで優勝した凄腕のスナイパー。まあ、ここではそこそこ苦い経験してるみたいですけど。彼はどんな存在です?」

「一言で言えば参謀役として優秀と言った所か。戦闘面じゃあ射撃以外の分野には心許ない。完全に後方支援向きだな」

 腕を組みながらそう答えた隼人の頷きながら書き込む女性は苦笑交じりに歩いてきた有翼の少年に気付いた。

「おう、リーヤ。どうした?」

「業務報告のついでに取材見学さ。はい、これ前回の報酬額。社長の印鑑貰ったから。保管しとくよ」

「ああ、頼む。あ、今回の収支についての報告はどうなってる?」

「僕とナツキちゃんでやってるよ」

「了解だ、引き続き頼む」

 そう言った隼人は苦笑交じりに戻っていくリーヤの背中を見ると同じ様な苦笑を浮かべた女性へ向き直った。

「じゃあ次。コールサイン“エリミネーター”藤原武君。あれ、この子鬼人族なのに日本語名ですね。日本帰化住民ですか?」

「ああ、親がな。アイツは馬鹿だが、気の利く良い奴だ」

「仲間思いですね。さて、最後の子は武君のパートナー、コールサイン“フォワード”楓・不知火・シャイナーちゃんですね。人狼族の女の子で凄腕の日本剣士だとか。あ、そう言えば武君と楓ちゃんの姿が無いですね。どうしたんですか?」

 きょろきょろと周囲を見回す女性に隼人はため息交じりに答えた。

「あの二人は大食いでな、家計を圧迫するからバイトに出した」

「え。家計って、一緒に暮らしてるんですか?」

「ああ、武達だけじゃない。うちのチーム全員とな。さて、俺も含めたうちのチームメンバーのプロフィール確認は終わったんだ。本題に入ったらどうだ?」

「ええ、じゃあ遠慮なく。あなた達、ケリュケイオンは学生。今、地方学院では統一の前哨戦である学院統一に伴った混乱への準備が進められていますが、学生として参加する意図はあるのでしょうか?」

「いや、学生として参加はしない。雇われれば参加する。そう言うスタンスでいるつもりだ。一般生徒じゃない、PSCイチジョウの社員として俺はあの学校に属している」

 そう言って前傾した隼人は頷きながらタブレットに回答を打ち込んだ女性は次の質問に映った。

「では、あなたがこの会社に入社した経緯を教えてください」

「それは……」

 思いがけない質問に少し表情を歪ませた隼人は口ごもる。そんな彼の様子に異常を感じた女性は俯いた彼の表情を窺う。

「大丈夫ですか?」

「あ、ああ。大丈夫だ。入社の経緯か。全ては成り行きだが、俺は大切なものを守る力を求めて入社した。ちっぽけでも自分が大切と思っているものを守れるだけの力を。それを求めてイチジョウさんの会社に入社した。

ああ、大切なものって言うのは今で言う所の、同じチームのメンバー達だ。そんな所かな」

「うーん、実に新聞向けの回答ですね。でも、その信念には感心しますよ」

 そう言って笑う女性に軽く笑った隼人は応接用のソファーにやってきたレンカを見て半目になった。

「何だよ」

「いつまで喋ってんのよ」

「お前、いつまでってこれは取材兼商談だぞ。時間さえ許せば喋る。だから、邪魔すんな」

 そう言って隼人は邪険そうに手を払うジェスチャーをする。それを見たレンカは頬を膨らませて彼の首に抱き付く。

「やだ。私も隼人と喋るの」

「仕事だっつってんだろ。お前と喋るのは家でもできるしさ」

「やーだー! 喋るったら喋るの!」

 いやいやと首を振るレンカにため息を吐いた隼人は苦笑している女性に一礼すると帰り支度を始めている彼女におや、と思ってソファーから立ち上がった。

「帰るのか?」

「ええ、まあ。召集がありまして。まあ、また機会があればお邪魔しますね」

「分かった。そこまで送っていこう」

 そう言って隼人は付いて行くと言い出したレンカに呆れつつ、ドアを開けると鞄を持ってきた女性を先に通してその後ろをついていく。四階建てのオフィスビルの三階に専用のオフィスを持っている隼人達は清潔感にあふれるエントランスを歩いて殺風景な敷地に出る。

 若干強い潮風が吹きすさぶそこは一般人が見れば軍事基地だと答える様な典型的な施設の数々が点在していた。格納庫、訓練施設、滑走路までを取りそろえたそこを横断する隼人達は滑走路の果てに見える海に視線を移した。

「ここ、第二ウォーターフロントも海が見える場所が限られるようになってきました。新横須賀の方も開発が進んで昔の様な寂れた感じは無くなってます」

「ああ。ここ数年建設ラッシュだったからな。おかげで犯罪率も倍増してうちの稼働率もかなり上がってる」

「今回の事件も、その一つと言う訳ですね。あ、今日はここらへんで。また来ますね」

「気を付けて。犯罪に巻き込まれる事が無い様にな」

 そう言って女性を見送った隼人は出口の方で警備役からチェックを受けていた彼女が見えなくなるまでその場に残り、やがて見えなくなると踵を返してオフィスへの道についた。

 せかせかと歩く彼の後ろで慌てた様子で追いかけてくるレンカが隼人の周囲を器用に回りながら話しかけてくる。

「ね、ねえねえ。この後どうするの?」

「武と楓が帰ってくるまで事務仕事」

「え~そんな事してないで遊びましょうよ」

「仕事優先だ。それに、俺はお前らの調整役なんだぞ? 勤務シフトのスケジュール作成もある」

「そんなのリーヤ達に任せればいいじゃない」

 そう言って頬を膨らませるレンカに隼人はため息をついて彼女の額を指で弾いた。

「アホ、今は忙しいんだよ。それこそ猫の手も借りたい程にな」

 そうぼやいた隼人に猫耳をピンと伸ばしたレンカは指先を丸めた手を頬に持ってきて猫の鳴き真似をした。

「盛ったクソ猫の手はいらん」

「だ、誰が盛ったクソ猫よ! 可愛い子猫と言いなさいよ!」

「喧しい毎晩夜這いしかけやがって。いい加減にしねえと寝る前に縛るぞ」

「へーんだ。縛る前に逃げるもんね」

「そうしてくれ、お前がいないと俺はぐっすり眠れる」

 口を尖らせながらそう言ってそっぽを向いた隼人は頬を膨らませるレンカが背中に飛びついてきたのに驚いてバランスを取った。

「おい! 何してる! 降りろ!」

「やだ。大体アンタは体のコミュニケーションってのが足りないのよ」

「どういうコミュニケーションだよ。言葉で良いだろうが」

「えーっ。つまんない! だからジョークもクソ寒いのよこのノーセンス!」

「真面目と言え真面目と」

 口喧嘩をしながら歩く隼人はもうすっかり慣れたレンカの巨乳の感覚に若干の安堵を覚えつつ、オフィスに戻った。

「ただいま」

「お帰り、隼人君。そう言えばさ、破損した術式武装についてだけど」

 隼人を迎えた浩太郎が会社に保管されている武器のカタログを掲げてみせる。

「ああ……。すっかり忘れてた。壊したの累計何回目だっけか」

「十回目。僕も君も。で、どうする?」

「そうだな……」

 そう言ってカタログを手に取った隼人はくいくい、と袖を引いてきた恋歌に気づいて顔を上げた。

「何だよ」

「えーっと、アンタたちの言ってる術式武装って、何?」

「お前……。使ってる武器の事もわかんないのか」

 呆れた表情の隼人に間抜け顔をしていたレンカはカタログに目を戻そうとしている彼に問いかける。

「え? 使ってたっけ」

「お前が戦闘時に履いてるブーツについたランチャーの火薬とか、俺が使ってた身体強化機能付きのメリケンサックとかだ。

で、ざっくり言うと普通の武器に魔術の効果を付与したものが術式武装だ。銃とか、剣とかな。まあ、たまに武器に施していないものも存在するがな」

「なるほど、分かった様な分からない様な……」

 うーんと唸るレンカの頭をポンポンと軽く叩いた隼人は自分のオフィスデスクに戻るとカタログをペラペラと適当に流し読みする。

 その彼の隣でカタログを覗き込んでいるレンカが目についたものを片っ端から指差して彼にすすめるが尽く彼に拒否される。

「むー、アンタさっきからダメダメって言うけど、どんなのがいいのよ」

「手持ち武器じゃない方がいい。小手とか、手に干渉しないものが良いな」

「干渉しない物ねぇ……。何があるかしら」

 言いながらカタログをひったくったレンカに隼人は苦笑して彼女を見上げる。机の上に座った彼女の小振りな尻が目に入り、胸に来てしまった彼はゆっくりとそっぽを向いた。

 と、そっぽを向いた先でコーヒーを置こうとしていたナツキと目が合い、体を竦ませて膝を強打した。

「あ、あの……大丈夫ですか?」

「あ、ああ。平気だ、気にしなくていい……」

 ナツキに苦笑を向け、片眉を引きつらせながら膝をさする隼人はトップクラスに大きく、たゆんと揺れた彼女の胸から顔を逸らした。

「あ、あれ? 何で顔を背けるんです?」

 オフィスでの仕事着も兼用する新関東高校の制服から見える上乳はかなり扇情的であり、思春期男子を赤面させるには十分な破壊力を持っていた。

「良いから、ほっときなさいよ。どうせおっぱい見てたんでしょ! 見るなら私のを見なさいよ!」

 そう言ってガスガスと背中を蹴ってくるレンカにため息を漏らした隼人は巨乳二人を恨みがましげに見ながらおやつのソフトクリームをぺろぺろと舐めているカナに気付いた。

 負のオーラを放つカナは露出の多いゴシックロリータ調のシャツとミニスカートを身に着け、貧相な体つきを妖艶に見せていた。

「……おのれ、おっぱい魔女め」

 ギャーギャー騒ぐレンカの罵声の中でカナの恨み言を聞いた隼人は頬を踏みつけたレンカの足を押し返す。

「いい加減にしろ」

「おっぱい見る気になったの?」

「見るかバカ。っと、電話だ。騒ぐなよ」

 そう釘を刺した隼人はじっと待つ体勢になったレンカを見ながら受話器を取った。

「はい、第三小隊オフィス。あ、社長。どうかしましたか? はい、はい。分かりました、アルファチームと共に、そちらに向かいます。では」

 短い応答の後に受話器を下ろした隼人にレンカは尻尾を振りながら問いかける。

「何々?」

「呼び出しだ。揃ってるチーム連れてこいだとよ。浩太郎、カナ、呼び出しだ。ナツキとリーヤは待っててくれ」

「武器って持ってく?」

「いや、良い。話聞くだけだからな」

「はいはい」

 上機嫌に机から降りた恋歌を先に行かせ、浩太郎とカナを後ろに連れて社長室に向かった隼人達は四階へ階段で上がると一目でわかる重厚な木製ドアの前に移動した。

 そこで隼人が先頭に変わり、すかさずノックした彼は慣れた手つきでドアを開け、後がつっかえない様な位置に出て行く。

「失礼します」

 そう言って礼をした隼人達は応接用のソファーに座っていた中年の男エルフ、ハジメ・イチジョウが嬉しげに立ち上がったのを見てソファーの隣まで歩みを進めた。

「やあ、待ってたよ。まあ、皆座りたまえ」

「では失礼して」

 そう言ってハジメに一礼して座った面々はニコニコ笑顔のハジメに緊張しながら体を捩らせ、その様子を見た彼がおかしそうに笑う。

「緊張しなくてもいいんだよ。別に君たちを怒る為に呼んだのではないのだからね」

「は、はぁ。では、何故?」

「うむ、最近の君たちの活動。よくやってくれていると周辺住民の皆さんからも感謝されているよ」

 そう言って、業務成績の報告書を隼人達の前に出したハジメは、おおーと一様に同じ声を出した彼らに苦笑し、また別の紙を出してきた。

「そして、先日の銀行強盗の件もよくやってくれた。しかし、だ。君たちのチームは非常に武装破損が多い。特に隼人、浩太郎。二人は一体何回目だと思っているのかね」

「十回目です、社長」

 眉をひそめたハジメにしれっと返した浩太郎は額を押さえてため息を落とした隼人に微笑を返す。

「そんな事、とっくの昔に把握しているのだよ。しかも今回は何だね、技術部の解析では武装の基部が焼損していると言うじゃないか。修復もままならないぞ、どうするのかね」

「今、自腹で買おうとカタログを見て検討している所です……。良いのが見つかりませんがね」

「ふむ、そこでだね。君たちのスポンサーからアプローチが来て、試作型の武装を提供してもらえる事になったんだよ」

「なるほど。それを俺達に使えと」

「そう言う事だよ。武装を焼損させたペナルティだ。モルモットになりたまえ」

 そう言って意地悪く笑ったハジメに隼人はやる気が失せた様な表情で俯き、数秒の間を置いて顔を上げた。

「それで、俺達を呼び出した、と」

「そう言う事だよ。では、受け取りに行ってもらうとするかね。これが、その場所だ」

 意図が分かって安堵している隼人達の前にホロモニターの機材を出したハジメはそのスイッチを入れて地図を表示した。

 地図は隼人達のいる第二ジオフロントの隣、第一ジオフロント全体を占める大規模な高校、新関東高校の校舎を差していた。

「ここ……。新関東高校の校舎では? なぜ学校に?」

 そう言って赤い光点ブリップを指さし、首を傾げる隼人。

「何でも、大事な品物だから、立花嬢が直接渡したいそうだ。話す事もあると」

「話す事? 何だろうか……まあ、いい。了解しました。俺達もちょうど学校へ行こうとしていたところなんで」

 そう言って隼人は立ち上がり、連れてきていた浩太郎達共々社長室を後にした。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る