僕らと世界の終末戦争《ラグナロク》
センス
第一章『新横須賀テロ事件編』
第1話『はじまり』
三月のうららかな昼下がり、町の一角。世間的な給料日のこの日訪れる人が最も多い銀行に苛立ちを隠そうともしない怒鳴り声が響いていた。
「良いから車をよこせっつってんだろォ!」
路上に向けてそう叫んだ男は、頭に生えた狼の耳をピンと伸ばし、手にしたサブマシンガンを銀行を包囲する警官隊に向けて発砲する。その周囲には人間に交じってちらほらと彼に似たような人外の姿が見えており、彼らは一様に恐怖を顔面に貼り付けていた。
かれこれ二時間、周囲にいた二人諸共射殺した銀行職員が死ぬ直前に鳴らした警報のせいで彼らは人質を取っての持久戦を強いられていた。
「お、おい。本当にやばいんじゃないのか?」
不安げにそう問いかける強盗仲間の男が、『AK-47』アサルトライフルを手に鬼の様な角を生やした頭を動かして周囲を見まわす。
「お、俺たち逃げられるのかよぉ!?」
鬼の容姿をした男に続いて叫んだ男は頭に生えた猫の耳を寝かせ、手にした垂直二連ショットガンを震わせて涙目だ。
「狼狽えるんじゃねえ! サツに加えて地方学院のガキも出てきたがこっちにゃ人質がいるんだ。迂闊に動ける訳がねえ」
そう言って笑った人狼の男は鋭い犬歯をぎらつかせながら足元で崩れ落ちている女性を見下ろす。と、警察の方から大声で呼びかけがあった。
「そちらの要求をのむ! だが、人質の内何人かを解放してほしい!」
そう叫んだ責任者らしい中年の刑事に銃口を向けた人狼はフルオートで乱射、拳銃弾に慌てる警察にニヤリと笑った彼は傍に抱えていた女性を盾にする。
「舐めた事言ってんじゃねえぞ! 人質は解放しねえ! それ以上舐めた事を言うと人質を殺すぞ! ヒェアハハハハハ!」
そう言って下がった人狼に中年の刑事は弾丸の掠った左腕を押さえつつ、拡声器から手を離して通信機に手を伸ばし、作戦用の通信バンドに切り替える。
『クソッ、ヤク中が! おい、雇われ共。準備は良いのか?』
「そちら次第だと言っただろう」
『ふん、マセガキ共が。まあいい、こちらは時間稼ぎに入る。すぐに攻撃しろ』
銀行の二階、経理担当者が詰めていたオフィスの中で中年の呼びかけに答えた少年は傍らに侍るツインテールに結った頭に猫耳を生やした少女に目配せすると通信機のスイッチを入れた。
「“ストライカー”より
『おっ、と言う事はそろそろ準備だな?』
「ああ、まず状況の説明に入る。場所は銀行、犯行グループは三名構成。種族は人狼、鬼人、半猫。スラムの連中らしい。“シューター”の狙撃監視と“オフィサー”のバグドローンから得た情報によれば武装は
そう言ってオフィスの床を歩く少年、コードネーム“ストライカー”はそう説明しながらちょろちょろと付いてくる少女を後ろに見ると、下の男達にばれない様、静かに机を撤去している二人組、潜入装備を纏う少年と黒毛が特徴の人狼族の少女を見回す。
『んで? 敵はヤク中か?』
「あの様子を見る限りじゃ、そうだろうな。全く、此処も随分とアメリカンになったものだ。とにかく、俺達に
そう言ってため息を落としたストライカーはサングラス状のコンバットバイザーのスイッチを入れ、ミリ波スキャナーで一階の様子を見ていた。
「作戦を説明しよう。俺が術式武装で床を砕いて“バンガード”、“ファントム”、“リーパー”のアルファチームが一階に降下、一気に制圧する。“エリミネーター”“フォワード”、“シューター”、“オフィサー”のブラボーチームはバックアップだ。一人も逃がすな」
『了解』
「さて、制圧対象だけなら気を窺う為にも悠長でいいが今回は人質がいる。ヤク中共が苛立って死人を増やす前に済ませるぞ」
そう言ってスキャナーでサブマシンガンを手にし、周囲を見回している男を真下に見つつ、移動したストライカーは“バンガード”と呼んだ半猫の少女に視線をやると彼女は小柄な体に似合わぬ豊満な胸を張る。
机の撤去を終えた“ファントム”と呼ばれた潜入装備の少年と“リーパー”と呼ばれた人狼の少女も、それぞれの得物を構えて待機し、頷きを見せる。それを承諾と受け取った彼は腰のチョークで床に大きなバツ印を書くと通信機のスイッチを入れた。
「突入準備、カウント10から突入する」
そう言って、術式改造がなされたメリケンサック型の術式武装を構えたストライカーはサックについたトリガーを引いてカウントする。
見る者を不安にさせる紫電と共に翡翠色の光が拳に集まっていき、サックを握る腕にコンクリートを貫徹できるだけの身体強化が施されていく。
「3、2、1、GO!」
カウントを終えたストライカーが拳を叩き付けた瞬間、床が粉砕される。崩れた円形に崩落した床は一階までの道を穿ち、三人が落下。
着地すると同時に窓際で警戒しているAKと垂直二連を持った男たちに突撃する。
遅れてストライカーも降下。着地と同時、背を向けて移動する三人を狙うサブマシンガンを構える腕を掴む。
咄嗟に銃口を壁に向けさせたストライカーは、相手が拳銃弾を撃ち続けたまま銃口を移動させようとしているのに気付き、咄嗟に足の甲を踏んで怯ませた。
「ぎゃああっ」
反射的に足を上げ、バランスを崩した男から銃を奪い、足払いから引き倒すとそのまま鳩尾に一撃打ち込んで黙らせた。
ぐったりとしている男の後ろ手に手錠をはめたストライカーは、ふと見下ろした手にはまっているメリケンサックを取り外す。
見れば、出力部が焼け焦げ、負荷が大きかったのかカートリッジ挿入口が内側から破裂していた。
「ぶっ壊れたか、まあボロだしなもう」
そう言って破損したメリケンサックを腰に下げたストライカーは静かな周囲を見回すとショットガンを持つ男を抵抗も許さずに気絶させ、捕縛した“ファントム”に気付き、彼にサムズアップを送る。
そう言えば、と同じターゲットに向かっていた女子二人の動向が気になっていたストライカーはボコボコにされたAK持ちの男が吹っ飛ばされてきたのに驚き、その場から飛び退いた。
幾度と蹴られたのか青あざまみれの顔面を腫れ上がらせている男は追って来たらしいバンガードの跳び蹴りを鳩尾に喰らい、体液を吐き散らしながら気絶した。
遅れてリーパーも合流、女子二人が痛々しい見た目の男へ満足げに手錠をかけたのを確認したストライカーはため息交じりに通信機のスイッチを入れ、バンドを警察用の物に切り替える。
「こちらガードマンズ。オッサン、仕事終わったぞ」
『了解した。ご苦労だガキ共。人質にけがは?』
「五名ほど軽い錯乱状態だが、あとは大丈夫だ。ああ、報酬は定額で宜しくな」
そう言って通信を切ったストライカーは捕縛した犯人を引き渡せる様に手荒く移動させると受け取りに来た学生に崩れた敬礼をした。
「ご苦労さん。犯人はこいつ等で全員だ」
「了解だ、大活躍だな隼人。傭兵稼業が板についてるぜ」
「皮肉か?」
そう問い返したストライカーこと隼人は同級生に半目を向けるとため息を吐き散らしてその場を後にすると、晴天の空を見上げた。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
西暦1943年。
魔法と言う概念が存在するもう一つの地球、『魔力次元』と名付けられた土地に人間を誘った人外種族達は皆、争いに慣れておらずとも種族繁栄と領土拡大の野心に燃えており、戦争と言う歴史を繰り返してきた人間の知恵を欲していた。
彼らの本心を見抜いていた各国はそれに乗ずる様に魔力次元を植民地として統治しつつ、もう一つの地球で世界大戦を繰り広げ始め、地球の戦争が終わるまで血で血を洗う様な凄惨な争いは続いた。
そして、各国家群は魔力次元に国家を作り上げる。
新日本民主主義国、新アメリカ連合、新ヨーロッパ共同体、新オーストラリア・オセアニア連合、新ソビエト連邦、新アフリカ連邦。
戦後、六つの国家は冷戦を迎え、技術力と経済力を高めていった。
西暦2015年、新ソビエトが崩壊し冷戦が終わって数十年が経った世界は新たな試練を迎える。
魔法と科学を融合させた高い技術力を有する様になった魔力次元は第三次大戦による文明崩壊寸前の地球支配脱却を目指し、魔力次元の国家を統一する新たな転機を迎えていた。
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