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― SS-515「ひりゅう」―

「船務長、操艦を頼む」沖田は言った。

「了解しました」森島が言った。「操艦、もらいます」

「副長、船務士、海図台に来てくれ」

 沖田は海図台のディスプレイ上に現場の航海用海図を表示される。海図台に両手をついてから言った。

「本条、まずはさっきの魚雷が爆発した場所を示してくれ」

 本条は戦闘日誌を開いてディスプレイにタッチペンで×印を3つ書いた。

「次は、魚雷の航跡を書いてくれ」

 本条は×印から3本の線を陸地に近い方に向かって記した。

「ふうむ」沖田は言った。「私が敵の艦長なら、3つの×を結んだ線沿いに捜索する。高周波ソナーを使って、『ひりゅう』の破片を探そうとする」

「わかります」山中は言った。

「北か南か、どちらの端から始めるにしても、ゆっくりと移動しなければならないだろう。まだソナーが使える状態じゃないからな。バッフルズや撹拌された海流のせいで、音は大きく減衰するはずだ。そうだな、本条?」

 本条は緊張しつつうなづいた。

「それに高周波の音波は減退しやすく、遠くに伝わらない。敵の捜索範囲は狭い」

「どうやら・・・」山中は言った。「同じことを考えているようですね、艦長?」

「敵を攻撃する」

 本条は思わず口を開いた。

「ですが、どうやって?」

「私の計画はこうだ。いま私たちがいる場所―南端の近くから魚雷を発射して、全ての×を結ぶ曲線を走るようにプログラムする。低出力でアクティヴの探信音ピンを出して敵を捉える。それまでは20ノットの低速で海底を這うように航走させる」

 山中がうなづいた。

「うまくいけば、敵はこちらの魚雷に気づかないかもしれません」

 本条は山中に尋ねる。

「どうしてですか?」

「敵には魚雷の探信音ピンが自艦のソナーのエコーか、何かのはぐれ信号と思うかもしれないということだ。外の音響環境はまだ良くないからな」

 沖田はインターコムを取った。

「水雷長、1番発射管に注水・・・船務士、記録してくれ」

「1番発射管に注水、了解しました」柘植が答える。

 数秒後、発射管室から注水完了の報告が入った。

「外部扉開け。1番、低出力のアクティヴに設定。方位に合わせ用意、テーッ」

 強力な水圧が89式魚雷を発射管から打ち出した。足元に射出音の振動を感じる。

《発令所、ソナー》相原が言った。《魚雷、正常に航走しています》


―「長征14」―

「発令所、ソナー。こちら副長。敵艦の残骸か何か反応は無いか?」

《ソナー、発令所。まだ何もありません》

「そう気を揉むな」陸は言った。「捜索はまだこれからだ」

「艦長、ずっと考えていたんですが・・・」

「何だ?」

「『そうりゅう』がどれほどの損害を被ったかは分かりません。しかし、魚雷の爆圧から避けられる範囲に敵がいた場合は当然ですが、無傷のままです」

「さっきの魚雷が命中しなかったと考えているのか?」

「考えられる可能性の1つですが・・・」

「ふぅむ」陸は顎を撫でた。「いささか不愉快な話だが・・・」

《発令所、ソナー!》水測長が大きな声で言った。《右舷に魚雷!本艦と同じ深度、方位100!距離3000、雷速20ノット!》

「くそっ!」陸は怒鳴った。「操舵、両舷全速前進!」

「両舷全速前進!」操舵員が復唱する。

《いまアクティヴになりました!》水測長が報告を続ける。《探信音ピンが聞こえてきます!距離が近すぎて、計算できません。魚雷は終端誘導速度に到達しました!》

「副長、種類は何だ?」

「日本の89式魚雷です」

《魚雷が迫ってきます!》水測長が叫んだ。

「ノイズメーカーの準備を」楊が命じた。

「そんな暇はない」陸は言った。「1番発射管、魚雷発射準備。魚雷を針路100、本艦の深度で速射しろ。扉を開けて、発射!」

《発射管室。1番管、発射しました!》天井のスピーカーが報告した。

「操舵」陸は命じた。「ただちに取舵30度、全速」

「ただちに取舵30度、針路の特定なし」操舵員が言った。

「向かってくる魚雷をやっつけろ」陸はギリギリと歯噛みしながら言った。「迎撃して叩きつぶせ!」

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