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 ―「長征14」―

「目標のそばで爆発がありました」楊が報告した。「命中です、艦長」

「どうかな」陸が答えた。「ソナー、隔壁破壊や内破音が聞こえてくるか?」

《いえ、聞こえません》

「なら、奴は生きているだろう」

《発令所、ソナー》艦首ソナーから報告があった。《敵は全速力で走っています。方位001に針路を変えました!》

「ソナー、バラストに空気を入れる音はあったか?」

《いえ、探知されていません》

「艦長」楊が声をかけた。「爆発音が続いたせいで、エマージェンシー・ブロー音を聞き逃したかもしれません。動力源とは別に、緊急の動力システムがあるかもしれません」

「目標の深度は?」

「海底近くです」

「ブローしても効き目がないのか・・・撃ち返してきたか?」

「いいえ、艦長」

「敵は艦体の気泡音や残響のエコーを捕捉するかもしれません。あるいは、急旋回して速射する可能性があります」

「その通りだ」陸は言った。「では、気泡の奥に隠れるとしよう。操舵、面舵30度、そのあと取舵30度、そしてようそろ」

 操舵員が命令を復唱する。艦体が右に傾いた後、左に大きく傾いてから水平に戻った。

「針路は205です」

「敵が方向転換したのと同じ場所で、われわれも右へ曲がるぞ。敵の背後を追尾する。敵も背後なら速射できないからな。目標の速度は?」

「敵艦の速度は20ノットに達しています」

「それがいつまで続くか見物だな。副長、曳航アレイを回収」

「曳航アレイを回収、了解」

「機関室、全速前進。キャビテーションを抑えろ。敵に引き離されてはダメだ」

《機関室、全速前進》天井のスピーカーが報告した。

「敵は距離を開けたら、魚雷を撃ってくるだろう。発射管より1番と2番、4番と5番を準備。今度はロシアのタイプ65魚雷をお見舞いしてやる。目標に接近したら、雷速を50ノットになるよう設定しておけ」

「1番と2番、4番と5番を準備。雷速50ノットに設定」楊が復唱する。

 陸はうすら笑いを浮かべた。

「900キロの爆薬が奴の息の根を止める。破壊力はちゃちな魚雷の3倍だ」

「発射管室は準備完了との報告です」楊は言った。

「目標までの距離が3000になったら、アクティヴ捜索を開始するようにセットしろ」陸は言った。「発射」


 ― SS-515「ひりゅう」―

《発令所、ソナー!水中に魚雷あり!》ソナーが怒鳴った。《方位は・・・220!》

 ほんの一瞬だけ、沖田がためらったように見えた。

「針路と速力を維持!デコイを本艦の針路へ速射!」

「艦長、このままM18を相手にしないでいると・・・」山中が進言した。

「相手になりたいのはわかっている」沖田は言った。「しかし、いま方向転換すれば、敵に土手っ腹を見せることになる」

《発令所、ソナー。敵の魚雷がアクティヴ探信になりました。探信音が聞こえます》

「距離と射程率は?」

《距離は1100で近づいています》

「種類は?」

《ロシアのタイプ65に近いです》

 ソナーの報告を日誌に認めながら、本条は必死に考えを巡らせていた。

 タイプ65魚雷はMk48をはじめとする通常の魚雷に比べて直径が大きく、搭載できる潜水艦は限られてくる。開発国のロシアでは攻撃型原潜のヴィクター級、中国ではヴィクター級の技術を取り入れた商級が搭載可能だ。しかし、敵が商級であれば、今まで探知できなかった点に疑問が残る。

「1番発射管、デコイ発射しました」柘植が報告した。

 沖田が呼んだ。

「そのまま、魚雷装填の準備を急いでほしい」

《発令所、ソナー。敵の魚雷が針路を変えました。1番から発射されたデコイを追跡しています》


―「長征14」―

《発令所、ソナー。敵が何かを発射しました》

「おそらくデコイでしょう」

 ソナー画面と、魚雷の有線から届く生のデータを見ながら楊が言った。

 爆発による衝撃波が突如、「長征14」の艦体に襲いかかった。艦内のスピーカーから音声が途絶えて一瞬、何も聞こえなくなった。針路上で「長征14」は千鳥足を踏んだような状態になった。

《発令所、ソナー。2番発射管の魚雷が爆発しました》

「よし、4番発射管、魚雷発射」陸が言った。「今度は、雷速を最高にしろ」

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