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― SS-515「ひりゅう」―
キロ級潜水艦が必死に回避する様子は「ひりゅう」に探知されていた。1番発射管から撃ちだした魚雷がアクティヴ探信しながら、敵の前方から接近している。敵は急激な増速を行っている。沖田の狙いはその際に発生するキャビテーションである。
通常、静粛な潜水艦を仕留める魚雷をパッシヴ・モードに設定しない。だが回避運動によって発生したキャビテーションはパッシヴ・モードでも探知できる。水雷長の柘植が上ずった声で報告する。
「あっ、魚雷が目標を探知しました」
ただちに2番発射管の魚雷が探知信号を送ってくる。柘植は続けて報告する。
「魚雷は目標を追尾開始、誘導を止めます」
「了解」沖田は言った。「2番管、誘導止め」
― K-236―
K-236は敵の魚雷を回避するために高速で走っている。艦首のソナーは自艦が発する雑音と激しい振動のせいで、ほとんど使用できない状態だった。
前方から近づく魚雷の探信音は直接、艦内でも聞こえる。音の間隔が短い。最終追尾段階に入ったらしい。いったんデコイに引き寄せられたはずだが、再び徐々に接近してくる。不意に、前方から聞こえていた探信音が消えた。魚雷を高速に使ったからだろう。
劉は操舵員に速力を落とすよう命じた。途端にソナーから報告が入る。今度は後方から魚雷らしいスクリュー音を探知したという。後方の魚雷はパッシヴ・モードで静かに近づいていたようだった。すでに至近距離に達している。劉は叫んだ。
「取舵いっぱい、前進全速」
次の瞬間、後方の魚雷が爆発した。
―「長征14」―
鋭い爆発音が遠くに響いた。続いて、鋼鉄の外殻を通してドスンドスンと大きな音が「長征14」の発令所にも聞こえてくる。
「ソナー」陸は言った。「キロ級の隔壁破壊や内破音は聞こえるか?」
《いいえ。キロ級はスクリューを破壊されたみたいです。シャフトがぐらついて大きな音を立てています》
「行動不能にしたのか、奴は。憎らしい」陸は命じた。「3番と6番発射管に魚雷装填」
「は?」楊が驚いて問い返した。
「耳掃除をしていないのか?魚雷装填と言ったのだ」
「しかし・・・」
「我々は敵の位置をすぐに掴める」陸はニヤりとした。「それに対して、敵は我々を探知できないはずだ。なぜなら、敵の眼の前には大陸棚の傾斜地が広がってるからな。海流は渦巻き、ソナーの状況はあまり良くない」
「音響上はこちらの方が1枚上ということですね。少なくとも、今のところは」
「そうだ。最初はYu-6魚雷を低速で発射させる」
「低速、ですか?」
「1発目は完全な奇襲にしたい。今より正確な的速、的針を把握できしだい、敵の航跡かフローノイズに向かって進むよう設定すること」
陸は残虐な笑みを浮かべた。
「1発目で不意を衝いて大きく損傷させ、もっと大きな弾頭でトドメを刺す。奴らが浸水して海底に沈もうと、機動性を失おうと、そんなことは構わん」
「承知しました、艦長」
「1発目の魚雷は、奴らの船体下で爆発するようプログラムしろ」陸が命じた。「2番と5番の発射管にはデコイを装填」
《発令所、ソナー》ソナーが報告した。《また一過性の機械音を捉えました。方位090。ドップラーレーダーによると、遠ざかっています》
「操舵」陸が言った。「面舵30度、方位265」
「面舵30度、方位265」操舵員が復唱する。
「副長、曳航アレイを使用する。曳航アレイが敵を確認したら、すぐに魚雷を発射する」
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