活人考察

 こんなところまで来たのか? 良く見つけたな。


 あの二人のことか? 私も聞いたよ。

 そんなものを託されていたのか。なんて、ちょっと驚いたけど、まあ納得だな。

 それに、あいつらに相応しいものだって思うさ。


 私か? 私は貰ってないよ。

 ただ、乗り越えなきゃいけないものの手掛かりを貰った。

 あいつが言うには『空の境界』だそうだ。


 この世にある、無数の教え。イデオロギー、人々が信じるもの。

 それらは方向が違ったりしているけど、大事なところはみんな同じ。

 一部の者たちはそれを『空』と呼んでいる。

 そこから、あいつはその名前を思いついたみたいだ。

 というより小説の盗用だけどな。


 私たちが立ち向かうあれは、私たちが、私が乗り越えなきゃいけない境界線なんだそうだ。

 そして、境界はあれだけじゃない。生きている限り無数に存在して、私はずっとそれを乗り越えながら歩いていけってことなんだろう。きっとな。


 言い得て妙だ。良く出来てるよ。まったく。

 ところで、小説の方だけど。

 あの話の最初の章、『俯瞰風景』って言うだろ。知らないなら、別にそれで良いんだけど。

 それによると、俯瞰したときに感じるものは、『遠い』というものだ。

 あまりに広すぎる世界を見て、自分が世界から隔離されていると感じる。

 そんな感じだったな。


 でも、私の俯瞰風景は違った。

 俯瞰したときに感じたもの。それは『自分を見ている』だったんだ。

 動き、話し、感情を持つ。そうやって生きている私を、私が見ている。

 それが私の俯瞰風景。

 それに気づいたときの哀しさ、空しさと言ったらもう……

 あの二人と色々話していたら、二人ともそんなものがあったみたいなんだ。

 そしておそらく、あいつも。

 

 今でも時々あるんだよ。

 そんな時は、何だか歌ってしまうんだ。いろいろとね。







 愛しいお前  お前は一人じゃないんだ

 お前はお前自身を見ている  いくらなんでも、そりゃあんまりだ。

 お前の頭がとんでもないことになってる  どうにかしてやりたいんだよ


 愛しいお前  お前は一人じゃないんだ

 誰かの何かが、いつかどこかで、お前を痛め続けていても

 私がその痛みを貰っていくよ  何かの助けになりたいんだ

 お前は一人じゃないんだよ


 振り返って、手を握ってくれ

 お前がいるから私は今日も生きていけるんだ

 私の手を握ってくれよ

 



Rock 'n' Roll Suicide

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