空が青色になる前に

菊浦 拓琉

1話 すれ違う心達

「梓…」

「隆弘ならって思ってたのに」

彼女は傘を投げ捨てて走り出す。

『足、動けよ』

追いかけたいのに、俺の足はその場から動こうとしない。

どうしていつも俺は…

遠ざかっていく後ろ姿に手を伸ばす。

だが、彼女の後ろ姿は人の渦の中へと消えてしまっていた。





もう嫌だ…

苦しくて、辛くて、心が引き裂かれそうになるのを感じる。

きっと誰よりも彼が私の事を理解してくれると信じてた…

隆弘ならわかってくれるって思ってたのに

「あっ…」

つまずいて思い切りこけてしまう。

頭上からクスクス笑う声がふってくる。

そして誰もが私の存在に気づいていないように通り過ぎていく。

ただただ涙が止まらなかった。

もう嫌…

そう思った時だった。

「成瀬?」

頭上から優しくて温かい声が聞こえた。

急に雨が止んだ。





学校帰りに雑貨屋による。

思い出の場所、失いたくない物がたくさん詰まっている場所。

あの約束から5年が過ぎているというのに俺は何一つ変わることが出来ずにいた。

「どうすれば良いんだろうな」

彼女が自分の誕生日に必ず一つ買っていた、白兎のぬいぐるみ。

俺は苦笑いを浮かべながら、バックの中に大切にしまう。

傘をさし、歩き始めると、道路を挟んで逆の歩道で倒れている女の子がいることに気づく。

彼女にそっくりな女の子…

俺は赤信号であることを気にせず、道路に飛び出す。

車のクラクションが鳴り響くが、それさえどうでもよかった。

とにかく早く彼女のもとに行きたかった。

無事に道路を渡り切り、彼女のもとに駆け寄る。

倒れている彼女を包み込むようにして傘をさしてやりながら腰を低くする。

「成瀬?」

彼女は泣きながら、ゆっくりと顔を上げた。





「おお!聞こえるぞ。迷える者たちの声が」

シルクハットに黒マント、ステッキを持った男が屋上でごろごろしている同じ服装をした仮面男に言った。

雨は降り続けているはずなのに、彼らの頭上だけは何故か晴れていた。

「中二病入って来てるぞ。おちつけ」

仮面男が立ち上がりながら言った。

「へいへい、でも聞こえるだろ?」

ステッキ男が不機嫌になりながら聞き返す。

「どうりで今日はこんなに雨が降るわけだ」

ステッキ男はその一言で調子を取り戻すと、ステッキをクルクル回しながら仮面男の隣に立つ。

「では、そろそろ仕事を始めるとしますか」

二人は頷き合うと屋上から飛び降り、姿を消した。

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空が青色になる前に 菊浦 拓琉 @koutune12

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