第8話 ロールキャベツに愛を込めて
今日はウチの旦那様が出張から帰って来る日。そりゃあ待ちどうしかったさ。なんせ二週間ぶりだもの。朝から気もそわそわして落ち着かない。
買い物に行ったらスーパで春キャベツが150円で売っていた。昨日までは200円していた奴だ。それを見たら無性に買いたくなった。買わなくちゃ損だと思った。
買ってみて「どうしよう」と困った。今更ながら己の計画性の無さに腹が立つ。
なるべくお金を掛けないで家族で楽しめるヘルシーなおかず……無い知恵を絞って結局、家にある昨日のハンバーグの材料の残り、つまりひき肉でロールキャベツを作ろうと思った。我ながら名案だと悦に入った。それに旦那様の好物だしね。
もう、そうなると頭の中はロールキャベツで一杯になる。逸る心を抑えて家に帰り、芯をくり抜いて大きな鍋にグラグラと沸かした湯で茹でる。しんなりとなったキャベツの葉に今度は昨日の玉葱の混じったひき肉を包んで行く。
葉っぱを止めるのは楊枝なんかじゃ無くて、ちゃんと塩でもんで戻した干瓢で巻いて行く。わたしは、安いキャベツだって手は抜かないんだ。愛情は沢山入れておく。春だから今日はコンソメで煮よう! 戸棚を見たら切らしていたのに気がつく。間抜けだ!
仕方なく近くの100円スーパーに買いに行くと「本日の特価、キャベツ100円!」と書いてあった。あまりのショックで目眩を覚える。
ショックでコンソメを買い忘れそうになるが、何とか買って憂鬱になりながら帰り、コンソメで先程の肉巻きのキャベツを煮る。未だ「ロールキャベツ」じゃ無いんだぞ。わたしが美味しく煮てあげて「ロールキャベツ」になるんだよ。
やがて、いい匂いがして来て出来上がると、旦那様が帰って来た。
息子も交えて、大きなスープ皿に装って皆で食べ始める。
黄金色に輝くコンソメスープにわたしの作ったロールキャベツが鎮座ましましている。
ああ、やはり春キャベツは美味しいなあ~ きっとわたしが選んだから美味しいのだろう。「あの特価100円のキャベツではこうは行くまい」と食べながら思う。
すると息子が「みっちゃん家も今日はロールキャベツだって! 100円のお店でキャベツ買っていたよ」
それを聴いて、今夜はこの辺りの家の夕食はロールキャベツの家が多いだろうと推測する。 だが我が家のロールキャベツは特別だ! だって他所より50円高いのだから……
そうしたらまたもや息子が「みっちゃんの家はキャベツにべーコンも巻くんだって」
聞こえないふりをして思う「ベーコンなんて邪道さ……」実は忘れていただけどね。
ベーコンよりも愛情入りの我が家の方が美味しいに決まってる……そう思ったら、旦那様が
「うまいな……うん。やはり旨い!」
それを聴いて涙が溢れて来て、雫がロールキャベツのスープに落ちた。その分少ししょっぱくなった。
我が家の「愛情ロールキャベツ」完売でございます。今夜の私も完売!
<了>
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