憑依探偵 風神レイ ~神の復讐~
桐華江漢
神の......
噂
それはひっそりと存在した。
季節は夏。四季の中で最も暑い時期であり、誰しもがその暑さに汗を流し、熱中症で倒れる人は年々増えている。そんな時期に寒いと言う者はいないはずだが、この地域には唯一暑さを感じられない場所があった。
地域開発と詠って年々木々が伐採される中、そこにはまだ人の手がつけられていない一面に広がる林がある。民家はおろか街灯一本見当たらず、人工物のものが一切ない、自然のままの姿がそこにはあった。道路一本挟んだ向こう側には住宅マンションや一軒家が並ぶ住居地域が光に溢れ、林とは真逆だった。道路が境界線となり、まるで別世界と化しているようだ。
日中は豊かな緑とした顔を見せるが、夜になれば一変し闇に覆われた世界を形成する。その奥にそれは存在する。
道路の一点で林に入れる道があり、その道を下ると林の入り口に着く。少し開けた場所で、目の前には黒一色に覆われた林が立ちはだかっている。
風に揺れ、カサカサと音たてる木々。
リーン、リーンと鳴く虫。
言葉だけなら夏の風情のように聞こえるが、初めてそこに立つ者なら飲み込まれるような闇を目にして、全く別の感情が浮かぶだろう。
林に入り、道を進むと分かれ道が何度も現れる。多少の凸凹はあるものの、昔からある道なのかきちんと土が踏み固められ、ほぼ問題なく歩くことができる。
目的地であるそれにたどり着くには途中何回も右に左に折れる。道を知らないものが入れば間違いなく迷うだろう。ましてやこの暗闇、一度迷えば二度と帰れないような錯覚を覚えてしまう。
歩くこと数十分、ひらけた場所に出る。そこ一帯だけは木々が存在せず、見上げれば空に月と星達が輝き、唯一の光源だった。そして、その奥に月の光に照らされてそれは姿を現した。
それは寂れた神社だった。それほど大きいものではないが屋根半分は崩れ、壁にはカビや草がこびりついている。所々穴が空き、もう何年、いや何百年もの間誰にも手入れをされず放置されていたような様をしていた。左には小さな祠と鳥居があり、そちらも同様に崩れており見る影もない。
上空に遮蔽物がないので月明かりを目一杯浴び、ここ一帯は明るい。だが、ここにたどり着いた者はとても明るい気分にはなれないだろう。
なぜなら、ここに来たものは誰しも寒さを感じるからだ。言葉で表すなら寒気と言えるかもしれないが、これはそれ以上の何かであるだろう。何か冷たい感情が空気となり辺りを覆い尽くしているようだった。
そんな様からかこの神社はホラースポットで多くの人に知られていた。林の中に佇むたった一つの寂れた建造物。ホラー好きなら反応しないわけにはいかない環境だ。
そして、近所の子供達にもこう噂されていた。
『ねぇねぇ、知ってる?』
『何が?』
『怨霊神社の話』
『怨霊神社?』
『知らないの? ほら、あの林の奥にあるっていう』
『ああ、あの壊れちゃってる神社』
『そうそう。あの神社』
『でも何で怨霊神社?』
『それはね......なんと! 幽霊が出るから!』
『幽霊?』
『そう!』
『嘘だ~』
『ホントだよ! しかも、だだの幽霊じゃないよ。神様の幽霊なんだよ』
『神様の?』
『うん。あの神社は昔すごい力を持った神様が祀られていたんだって。だからお供えやお祈りを欠かさずやってたんだけど、日に日に回数が減ってついに誰も行かなくなった。それに怒った神様が怨霊になったとか』
『ああ、だから怨霊神社って言うんだ』
『うん。でもそれだけじゃないよ』
『何かあるの?』
『その神様の怨霊を見ると......絶対に死ぬんだって』
『へ~』
『あっ、信じてない!』
『そんなのただの噂でしょ?』
『ホントだって! だってあそこで死んだ人が見つかったんだよ。それも三回も』
『そんなに?』
『そう。だから近所ではこう言われているの』
『怨霊となった神様が復讐をしている』
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