ひきこもり少年と少女の話

東レイ/にっしー

プロローグ

「おはよう。」

今日も君の一言で僕は目が覚める。

「おはよう。今日は楽しい一日にしよう。」

覚めたばかりの頭は、つまらない言葉を羅列する。

「そんなこといっても、いつもと変わらず家で過ごすだけでしょ?」

羅列した言葉は、そのへんに転がる他愛もない会話になる。

「まあ、そうなんだけどね。」

他愛もない会話だけど、僕はこの一瞬さえ愛おしく感じてしまう。

「ねえ、今日は何をするの?」

真っ暗な世界、閉めきったカーテンの中で君だけが光を発してる。明かりはない。

「いつもどおり動画漁って、批判コメでも残していこうかな」

「たまには、その溢れる頭脳を使ってみるのはどう?」

「ははは、また機会があったら使うかもね。」

僕は昨日飲み残したコーヒーを口にする。冷たさが喉を通る。

パソコンの前に座り直し、慣れた手つきでサイトを開く。広がるのは電子の世界に放り投げられた、無数の動画たち。

「今日もまたたくさん上がってるねー……そうだ、今日は無名実況者たちに制裁を加えにいこうかな。」

「再生数3桁も超えない人たちを叩くなんて、ひどいことするのね。」

「どうせ有名になりたいと思った自己顕示欲の高い人たちの動画でしょ?視聴者を楽しませるという、本来の使い方を忘れた人たちに動画を上げる権利なんてないと僕は思うね。そういう人たちが減れば、昔のように面白い動画も増えるんじゃないかな。」

「そうかもしれないわね。希望的観測だろうけど。」

僕は何も言わず、キーボードを打ち続ける。

「ずっと考え続けて思ったんだけど。」

「なにをだい?」

「貴方が批判コメを打つ理由よ。」

「ふむ…」

「もし貴方がコメした動画が荒れたら、それは貴方のせい。貴方は問題の中心人物になって自分の気持ちを満たしたいだけなんじゃない?」

「うん、ところでそこをのいてくれないかな?君がそこにいると動画がみれないんだけど。」

「あら、私の会話を聞いてくれるようにわざわざ邪魔したのよ。気を悪くしたならごめんね。」

彼女との会話は不毛だけれど楽しい。どんなに暗い夜でも彼女さえいれば乗り越えられる。

「じゃあ私もネットサーフィンしてくるわ。」

「了解。でも、重いところいくときは事前に言っておいてね。パソコンがオーバーヒートしてもらうと困るし。」

そうして彼女は電脳世界へ飛び出していった。帰ってくるのは何時間もあとになるだろう。彼女はどんなサイトにいくのだろうか。ブログか、ツイッターか、はたまた僕と同じサイトを見ているのかもしれない。

「しばらく帰ってこないなら、ちょっと寝ようかな。昨日の晩は寝るの遅かったし。」

僕は幸せな二度寝を始めることにした。彼女がいつ帰ってきてもいいように、机の前で枕だけとってきてうたた寝。夢見心地へ眠気がいざなってくれる……

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