第21話 神は1の目しかないサイコロを永遠に振り続ける(隠れた変数理論)
人類が永年追い求めていた永久機関こそが、
実は、この現実世界でごく当たり前に存在していた水そのものであった事実。
さらに、その永久機関である水こそが、
熱を「生命」に変換して生み出し、また熱として再び回収していた真実。
しかし、
そんな驚愕的な現実が暴かれて尚、
これ以上の
真理による水の理から説明される章子たち、現代人類を含めた「生命の起源」。
だがそれ以上の
いま、現われようとしているのだと。
それを暴くために用意されたのは「三つの鍵」だった。
その三つの鍵によって、真理へと至る儀式が今こそ始まろうとしている。
そこに用意された三つの鍵とは、
一つ、否数法からなる、内周率2.97と外周率3.14の不一致。
一つ、この現実世界に、元素の同位体が存在する理由。
そして、最後の一つ、
「三つの0」と「一つの1」からなる「四つの10」という相互作用の一つ。
これだけだった。
それら三つの鍵にある全ての疑問を、
たった一人の少女である
「確かに……。
サナサのおっしゃった通り。
私がかつて、
それ以上の薄い線では
内周率2.97と円周率3.14から求められる円、及び球の線の厚さには、実際の円線との大幅な開きが発生します。
それは円の直径の数値が増えれば増えるだけ、
その直径を円周率で求めた外周の長さと、
内周率で求めた内周の長さでは、大きな開き、あるいは空きともいえる空間が出来る事を物語ります。
そして当然、そんな極太の線よりも更に薄い線で成り立つ「円」や「球」は、
やはり、この現実世界でも無数に存在している。
この事実は、別にサナサだけではなく。
この「第五世界」に到着するまでの、長い船旅の中でも、
章子やオリル、その他のリ・クァミスの民たちが疑問にし、口にして、
度々、私に深く詰め寄っていたことでもある。
今までの私が述べてきた真理によって、
数々の辛酸を舐めさせられてきたあなた方が、
私にとってそんな絶対的に不都合的で致命的な事実を見逃すはずはないのだから。
だが、
それを分かっていて、
私は、今まではぐらかしてきたのですよね。
今にわかる。と。
それはまた機が熟してからおいおい説明すると先送りにして。
だからいつしか、あなた方も私に詰め寄ることは諦めた。
諦めて、自分たちだけで考え、試行し、思考して、
それで?
どうでした?
見つけられましたか?
あなた方のあなた方による、あなただけの真理を。
ですが、
どうやら、そのお顔のご様子では見つけられなかったようですね。
……残念です。
非常にね。
しかし、
それはまた同時に、幸運でもある。
あなた方は「独り」で「絶望」を目の当たりにすることはなかったのですから。
それは不幸中の幸いとでも表現して然るべき事象です。
だから、今こそ述べてみましょうか。
円周率3.14と内周率2.97から求められる円周の長さには、間違いなく大きな差が開きとなって現われる。と。
そして、
その円周率と内周率から来る「数字の動き」を根拠とした、
だから今もあなた方は、
この私たちの手を振って残像が消える、現在が軽くなって過去として過ぎ去ってく挙動の仕組みを信じることが出来ない。
なぜ信じられないのか?
その原因は、その当時に私が発言した言葉の中にあるのでしょうね。
私はあの時、あのオリルの実家の屋根裏部屋でこう言ったことを覚えていますか?
〝円や球がその直径で1以内、あるいは半径で0.5以内であれば、
一つの円の中に在る内周と外周の数字は一つに繋がって推移していく〟と。
しかし、あれには訂正があります。
あの説明が当てはまるのは、直径の数字が「3」まででの事です。
より正確に言うなら、直径の数値が「3.4」まで。
「3.5」からでは、その「3.5」の外周値「10.99」に、
「3.6」の内周値だけではなく、
「3.7」の内周値「10.989」までもが掛かってくる。
つまり、「3.5」の円線の内部からは、その上の直径値から来る数字の内周線が「3.6」以外にもう1つ増えてしまうのです。
だから「3.5」以降の直径からはその円や球の線の内部に、次々と外部の線が混ざって増えていくようになってしまう。
その感覚はおよそ、直径の整数界の値が2増えるごとに、
その円周線の内部にも内周線が一つ増えていくと思っていただければいい。
より分かりやすく言うと、直径値が「4」ならばその中には線が更にもう1つ新しく増えて、二つの内周線が存在しており。
「6」ならさらにもう1つ加わった三つの線が増えている。
という具合です。
だからこの円周率3.14と内周率2.97とを用いて、
その円周の長さを測ろうとするならば、現実的には完全に成り立たず。
欠陥があるように見えても致し方ない。
事実、私も認める通り、
その直径にあるとする数値の桁という位が増えれば増えるだけ、円周率と内周率が示す数字は現実の数字とかけ離れていくのですから」
言って自らの過失を認める真理が見たのは、この不審な点を指摘したサナサだった。
だが、それは特段、謝罪の感情を述べるに満ちた視線ではなかった。
「だから、内周率というものは現実世界では成立しないし、円周率と同じ数学定数とは絶対にならないし、物理定数ともなることも完全にない。
勿論、それの動きで証明される、時間というものも、
現在の世界軸が、軽い世界から重い世界へと熱転移で移動している事の説明にも繋がらない。
そう答えを出したいのも分かるというものです。
しかし、そう結論を急ぐのは、実に早計というものではないでしょうかね。
どうせ、成り立たないという代物であるのならば、もう少し無駄に考えてみても損はないかもしれませんよ?
ここまでの理屈は、正答的ではなかったにせよ、
非常に興味深いものであったことには間違いはなかった筈なのですから。
では、ここでもう一度、
無価値にもなってしまった内周率値2.97の中で再考してみるべき価値のありそうな点とは、
一体どこなのか?
それは先ほどサナサ・ファブエッラからご指摘して頂いた、
〝内側から外側が破られる〟という表現にあります」
言って、真理はサナサに手を差し伸べた。
「サナサ・ファブエッラ。
私には一つだけ気になる点があるので、
心苦しいのですが、是非とも答えて頂きたい。
その〝内側から外側が破られる〟という言葉とは、
あなたはどこを見て、その表現に至ったのですか?」
だがそんな真理のくだらない質問にサナサは苛立ちを隠せない。
「それはさっきから何度も言っているじゃありませんか。
円周率と内周率の数字の推移を見てです。
もちろん、接続数域という数字の動きからもそれは見てとれます。
そんな事が、
内周率の数値が円として成り立たないことと、いったい何の関わりがあるっていうんですかッ?」
何度も同じ質問を繰り返してくる真理に、サナサの苛立ちは顕わとなった。
だがそれにも関わらず真理は愚直な質問を続行する。
「では、もう少し具体的にお聞きしましょう。
その外側が、内側から破られる
「え?」
「え?
ではないでしょう。
あなたも数字の動きによってこれを否定するからには、その外側が内側から突き破られる時点の数字は計算している筈だ。
数字の動きを学び、数を学問としてその学徒であると誇る以上。
あなたはその数字の位置の根拠を数学上で示さねばならない。
数を学として、自らを数学者と誇示するのであれば、それはなおさらに当然の行為です。
それこそ勿論、文学からくるような汚らしい言葉の非難応酬による精神的で無意味な主張では無く、
純粋な数字の動きのみで、それらは証明されるべきだ。
だから、お聞きしているのです。
どこですか?
そのあなたが見つけた。
内側から外側が破られる瞬間の数字の場所はッ?」
あまりに意表の付く真理の言葉に、サナサは自身が怒りを隠さず、追い詰めている側であるにも関わらず、二の句を告げることができなかった。
あの時、確かに目にしたはずなのに、その内側から外側が破られる瞬間の数字の場所の位置が、思考の中で思い浮かばなかった。
そして、そんな慌てて空回りしている記憶の呼び出し作業の最中に、
他の第三者がその答えに辿り着く。
「
呟いたのは章子だった。
その答えを聞いて、サナサは自分がそこに辿り着けなかったことに放心する。
「では我が主、咲川章子。
その18と19の数字の根拠をお願いします」
「え、と……。
18を直径とした円が、円周率3.14を掛けて、外周辺56.52で。
19が内周率2.97を掛けて、内周辺56.43?」
章子が口にする暗算での正答を耳にして、真理は美しくコクコクと頷く。
「ではそれらの解で出た数同士を引いて、求められる「差」は?」
「56.52引く56.43で……、
0.09?
0.09の分だけ、18の外周が19の内周より出てる……?」
「ならば、申し訳ありませんが、
いましばらく、章子には私に付き合っていただきましょう。
19と20では分かりますか?」
「19の外周長が59.66で……。
20の内周長は59.4?」
「その59.66から59.4を引いた差の解をお願いします」
「……0.26」
「と、するのなら、次の、
20の外周と21の内周の差では、
20の外周長が62.8で。
21の内周長は62.37と求めることができ。
その引かれた差の解は、0.43となる。
ではここで、更にもう一工夫してみましょう。
18と19では0.09という数の分だけ、18の外周がつき出ている。
19と20では0.26の分、19の外周がつき出ている。そして、
20と21では0.43が20の外周として、21の内周からはみ出している。
となったのなら、今度はそのはみ出た数同士を引いてみましょう。
まずは、0.26からその前にあった18と19の差の数0.09を引きます。
これで出てくる解は、0.17です。
お次は、20と21の差、0.43をその前にある数字0.26で引いてみます。
これで求められる数字もやはり、0.26から0.09を引いた時と同じ、
0.17です。
この数字の動きを見て、
何か……感じることはありますか?」
「なに……?
これ?」
章子は呟いた。
「なんなの、……これ?」
動いている。
なんとなくだが、得意でもない暗算を続けている章子には分かる。
この数字の動きはよくない感じがする。
どこか薄気味の悪さを感じる。
暗算をすればするほど、その影の輪郭がハッキリとだが浮き出てくる。
内部で動いているのだ。
それぞれの前後する数字の直径を掛けた円周率からくる外周辺の長さと、それを収めることのできない内周率から弾きだされる内周辺の長さの数字の内部で。
それらの数字の皮を被り、
まるで宿主に宿る寄生虫のように。
その数字の動きの中には潜んでいるモノが確実にあった。
「0.17っていう数字が……?」
呟いた章子は、どこかで嫌悪寒を感じずにはいられない。
0.17という見えない数字が、目の前の円周と内周の数字の皮を盛り上げて動いている。
推移しているのだ。
一つの小さい数を直径とする外周辺と、一つの大きな数の内周辺が推移していく度に、
0.17という数字がその狭間に現われて波に乗る様にその先へと進んでいく。
思考の中で計算をするたび、その姿が如実に顕わになるのだ。
だから章子は、不快なものを見る目で、真理を見た。
「この数字の動きが……何だって言いたいの?」
「何だと思います?」
「19と20の数字の内部で、初めて現われたのよ……?
この0.17っていう数字が……」
「そうですね。
その前は18と19で0.09です」
「何が言いたいの?」
「言っても……いいのですか?」
真理の目は既に恐ろしいほどに人間のそれではない、無機的な目だった。
そこには何も魂など無いような視線。
その視線から出る
自分が堪えられるとはとても思えない。
「それが、
人の
沈黙を破ったのはサナサだった。
その瞳にはやはり新たな怒気が宿っている。
「人だけ、ではありませんよ。
……です」
「いい加減にしないと、本当に怒りますよ」
「いいのですか?
それは
「そんなわけの分からない数字が、
だが、真理の視線の方が僅かに強い。
「そうですよ。
その中で一つの新たな「10」が生まれる。
それは20の手前、
18と19の間での事です。
その時にもう既に0.09という、10にもまだ満たない種が20の内部に出来上がっている。
そして、その種は、そこに存在した瞬間から一つの世界を持っているのにも等しいのだから、
その10は0.17です。
それが子であり、親であり、あなたとも云える」
「冗談言わないでください。
そんな世界があって……」
「たまるか、なんですよね?
つまり、あなたはそれをこの現実世界の「欠陥」として絶対的に認識している、
ということでもある」
「な?」
「そうではないのですか?
あなたはそうやって、
数を増やし、そして数が増えた中で、他の数を奪い奪われて消えていく、
そんな、
この現実世界の命を含めた全ての仕組みというものこそを、
絶対の「欠陥」だと認識しているのではないのですか?
だからあの時に、あなたという人物サナサ・ファブエッラはこうおっしゃったのです。
「重大な欠陥がある」とッ!」
だが、サナサの気持ちはまだ挫けてはいない。
「ち、違いますっ。
あれは内周率2.97の事を言って……!」
「同じ事ですよ。
なぜなら、さきの円周率と内周率の差の内部で動く0.17という数字の挙動の意味とは、
別に、
「え?」
「
あの数字の動きはね。
ただの物理挙動です。
ただの単なる物理挙動のみを表わしたものなんですよ。
10と10が合わさって20となり、その中で新たな「0.17」が生み出される。
それも単純なこの現実の物理挙動であれば。
10と10が合わさって20となりその衝突から生まれた「0.17」によって自らが傷つき、
だから別にその数字の動きの意味とは、格別おめでたいモノばかりじゃないのですよ。
それは「生」でもありまた「死」にも繋がるのですから。
生と死は常に「同じ挙動」で、この現実世界では発生している。
そこを失念してもらっては困るのですよ。
だから、サナサ・ファブエッラ。
私はあなたの前で、いまこそ訂正いたしましょう。
円周率と内周率で求められる線よりも薄い線は存在できないと言った私の発言は誤りです。
それよりも薄い線で成り立つ円や球は存在します。
本当に申し訳ありませんでした。
しかし、
それで内周率2.97までもが成立しないという事には、残念ながら繋がらない。
なぜなら、それに近い数字が、
現在も私たちをここに縛り続けて居るのは事実なのですから。
絶対的に揺るがない物理定数の一つ。
光速度のその数値。
毎秒299,792,458という数字が、
今もまだ、
ここでっ!」
言って真理は章子たちを見る。
「さて、これが内周率という数字が、この現実に関与しているとする私の弁明の全てです。
別にこの言い分を肯定する必要は全くありませんよ?
あなたはあなたで、あなただけの
しかし、
ここで私は一つの忠告をしておく。
あなた方は、この数字の動きを「不完全なもの」だと間違いなく受け止めることでしょう。
それはつまり、
あなた方自身の存在や動きも同時に「不完全」であり、「欠陥」でもあることも想像させてしまいます。
さらに、そんな事実を目の前にしたあなた方は、
次にこう思い、考え、至る」
言った真理は、自分の麗しい唇に白く細長い人差し指を一つ立てて、それを静かに口づける。
「自分たちは「不完全」に生まされ、いつか死を迎えるのだから、
きっと、
そんな自分たちを生み出している、
この現実としてある世界もまた自分たちと同じで「不完全」なものなのだ、と」
真理は繰り返し言う。
「自分たちが不完全な存在であるのだから。
当然、
それを許してしまう、この現実世界もまた、
不完全なものだと断定してしまいがちになるのですよね?
しかし、その答えはちょっと待った方がいい。
あなたが「欠陥品」であり「不完全」であるのだから、
この現実世界もまた、自分たちと同じ「不完全」なものだと決めつけるのは、時期尚早だと思いますよ?
実は、こういう風には考えられませんか?」
言って真理はこの文を読んでいるあなたにも向く。
「我々が「不完全」であるのだから、
この現実世界こそだけは、
唯一無二に「完璧」に「絶対」で「完全」であるのだ、と」
そして真理は恐ろしい表情のまま章子たちにも向いた。
「我々が「不完全」であるからこそ。
この現実世界は既に「完全」に「完成」されてしまっている。
現実世界が既に「完全」に完成されてしまっているが為に、
我々は生まれ、いつか死を迎える「欠陥」で「不完全」なものに強制的にさせられてしまっているのだと!
……そういう風に考えることはできませんかね?
そして、そんな認めたくない結論に近づいてしまう「問い」が、
まだここに残されている!
そうですよね?
章子にオリル。
あなた方のいまだ抱く疑問に、私はまだ答えていないのだから。
では今度はそれらにお答えして見ましょうか?
では、
まずはオリルの言った。
この現実世界で、
元素の同位体というものが存在している理由についてです。
この元素の同位体。
その種類の総数は、元素の種類の総数の比ではありません。
純粋な元素だけの種類が、現在ある全てを合わせても118種にしか届かないのに比べ、
元素の同位体の種類は、人工同位体も含め、その総数は数千種にも及びます。
だから、この宇宙が始まった時に元素の数が最初に「320種」用意されていた。
といわれてもあなた方には納得できないのですよね。
なぜなら、もし仮に、
その元素の同位体が、今までビッグバンが起こる度に消えて言った「元素」のなれの果てである、と仮定してみても、
その消えた数字と、現在ある元素の同位体の総数が当てはまらないのですから。
片や、数千もある同位体の種類と、たかが320から118を引いた202という「消えたはずの元素の数」では、完全に一致しないのは当然なのですからねぇッ」
言うと真理はオリルを見た。
「ではここでもう一度、よく考えてみましょう。
そもそも元素の同位体という物質の定義とは一体何のか?
お答え願いますか?
オワシマス・オリル」
「元素の中で、原子を構成する電子とその中心にある原子核、
その原子核の中で陽子に加えて、さらにその他に「中性子」を含む物。
それを元素の「同位体」といいます」
「いい答えです。
そしてその原子核の回りで回っているものこそを「電子」と呼ぶ。
これも当てはまっている。
だから、
それら原子核と電子の二つを合わせて、一つの「原子」とよぶ。
では次は「元素」というものについての定義です。
「元素」とだけ呼ばれるものの定義は、陽子の数です。
原子核の中に存在する中性子を除いた「陽子」の数だけ。
その「陽子の数」だけで118に上る元素の原子番号が割り振られている。
つまり、
どの元素の、どの物質においても、その原子核の中に入れる陽子の数は最大で「118」まで、という事になる。
では、お訊きしましょうか。
オワシマス・オリル。
一つの原子核に「中性子」が入れる数は、最大で何処までですか?」
「っ?
……ッ!」
「どうしました?
答えられませんか?
元素の同位体という物質の種類は何千種とあるのですよね?
と、するのなら、その一つの原子核に入れる「中性子」の数もそれだけ「数千」も入れるのでしょうか?
そこが非常に、大変な疑問になりますよね?」
だが、真理の言う、
そんな可能性があるわけがない事をオワシマス・オリルという少女は知っている。
「原子核の中、
いえ、より正確に言うなら原子核という一つの「核子」の中に入れる「中性子」の数は、
今まで報告に上がっていたものまで合わせると……。
その数は最大で……「177」……ま……で?」
「おしいッ!」
大声を上げ、オリルの答えを聞いた真理は非常に悔しがる。
「非常に惜しいッ、
おしいですよねぇっ?
177ですよ? 177っ。
その一つの原子核に入れる最大中性子数「177」という数字に、現在ある元素の総数を定義づける最大陽子数「118」を足せば、
その総数は「295」ですよねっ?
ご覧なさいこの数字をっ!
これを惜しいっ、と言わずして、いったい何を惜しいというのですかッ?
これは大変に惜しいことですよっ?
なんと言ったって、私がほざく内周率2.97に似た数字「297」という数字にあと2つ。
あとたった2つ。
あとたった2つが届かないのですからッ!
あとほんの残り、たった2つ、
このたった2つを足せば、
とうとう、
そのたった2つがここまで来て絶対に届かないなんてッ!」
そして仰々しく悔しがる真理が、恐ろしいほどの無機的な表情で突如、
ぐるり、とオリルにまた向き直る。
「……ときに、オリル。
……つかぬことをお伺いしますが、
あの時、
私が言った、
今もまだ現在進行形で下がり続けているらしい絶対零度、摂氏マイナス273.15℃の底値、
摂氏マイナス299.97というその完全零度から引かれた現在の絶対零度との差数は、
あと……残り、いくつでしたっけ?」
その問いに、オリルは図らずも一歩を後退った。
否応もなく後退ってしまったのだ。
「あと残り……26.82度……?」
呟いたのはまたしても章子だった。
そしてそこでは章子はおろか、オリルや当然サナサでさえも、次に訪れる
その様子を見て、真理の口元は綺麗に醜く吊り上がった。
「いずれ……、現われますよ?」
その言葉はもちろん、
この文を読んでいるあなたにも向けられている。
「預言しておきましょう。
いずれ、現われます。
一つの原子核に「178」個の中性子を詰め込んだ新種の「元素の同位体」と、
一つの原子核に「179」個もの中性子を溜め込んだ更に新種の「元素の同位体」が。
これからの重くなった未来で、
あなた方の目の前に「ひょっこり」とね。
しかし、その時、
その瞬間に、
まだ存在していられたのなら、
その時のあなた方はきっとこう言うことでしょう。
『新たな元素の同位体を発見した』とっ!
しかし……、
本当に、そう思いますか?
本当にそう思っていますか?
……違いますよ?
それは最初からあったものではない」
言って真理はあなたを指差す。
「それはその時に、
その場所で、
そこにまったく新しく出現したものです。
それはあなた方が発見するよりも以前から、現実世界に存在していたものではないのです。
間違っても過去からその瞬間まで隠れて世界に存在していた物ではないのですよ。
それはその時、
その瞬間に生まれて初めて出現したものなのですからッ!
今もまだ、現在進行形で下がり続けている絶対零度によってねッ!」
言い切って、真理は言う。
「それが、
「え?」
真理の言葉に章子は視線をあげた。
「フラグなのですよ。
それが。
あなた方はよく言うでしょう?
フラグが立ったと。
よく作り話や創作物の虚構の界隈などでは「死亡フラグ」などとも俗諺されている、
あの事象の表現ですよ。
それが仕掛けられているのです。
この「現実世界」でも間違いなくね。
今もまだ現在進行形で下がり続けている絶対零度という名の
そして、過去、
その
その人物とは、当然ながら日本人ではありません。
しかし、章子たち日本人にも非常に馴染みも所縁も深い人物です。
その人物が、その生涯にわたり最期まで固執していたのが、
今では、そのほとんどの物理学者とその全ての科学的分野によって完全に否定され、見向きもされない『
その
そして、
その理論の存在と成立を最期まで信じ続けていた人物こそっ!
何を隠そう。
章子たち、第七世界の現代人類文明史の中では、史上稀に見る最大の超天才だと誇られている、その人!
アルベルト・アインシュタイン氏、です」
言って真理は章子を優しく見る。
「相対性理論。原子爆弾。
その他にも関わった偉業は、善悪問わずに第七世界の全てに知れ渡っている彼の人なのです。
その彼の人が最後まで信じ続けていたのが、この非局所的な「隠れた変数理論」だった。
そしてそれが正しかったことが、今、ここで初めて証明されるッ!
しかし、その為には一つだけ、
この偉大な人物には泥をかぶって頂かなくてはなりません」
言って真理は、申し訳なくもその人の像を探し頭上を高く仰ぎ見る。
「申し訳ありません。
アルベルト・アインシュタイン氏。
あなたの信じた「隠れた変数理論」を証明する為に、
私はあえて、あなたの一部を否定させていただく。
ではその偉大な偉人の、私が否定してしまう「一部」とはいったい何なのか?
生前、彼の人は知人に宛てた手紙にこうしたためたそうですね?
「隠れた変数理論」の実在を信じるあまり、ある言葉をとうとう筆に奔らせてしまった。
その「ある言葉」とは現在の章子の世界でも特に最も有名な言葉として、広く伝聞されている言葉です。
その言葉とは……」
〝神はサイコロを振らない〟
「……という余りにも有名なこの言葉です。
ですがね……。
申し訳ありませんが、
……違いますよ?
アルベルト・アインシュタイン氏。
それは大きな間違いだと、あなたの敬虔で崇高な信仰心の為にも否定しておきます。
逆ですよ。
逆なのです。
神はね……。
振っていますよ?
神はサイコロを振っています。
常に。
間違いなく。
神はサイコロを振っているのです。
しかし、
その神が振っているサイコロに、問題がある。
最悪にして最大の問題があるのです。
なぜならその神が振っているサイコロの目はね?
六面ある面の全てが全て、
「1」、という数字なのですからッ!」
そして真理は、
かは、と高らかに口から噴き上げ。
嗤い上げる。
「あは、
あはは、
あははははっ、
あははははははははははははははははははははははははははははっはっはっはははっはははっははっはっはっははっははっはっははっははっはっはあっははっははっはっはははっはははっはっはっははっははははっははっははははははははははははははっははははっははははははははははははっははっははははははははははははははっははははっははははははははははははっはははっははっははっははっははっはははっははっははっははっははぁぁあああああぁぁぁぁぁっぁっ!」
これ以上もないほどに、真理は息継ぎも出来ない程に高らかに嘲り嗤い上げていた。
「し、信じられますかっ?
あなた方の信じている神はねっ?
六つある全ての面で1としか書かれていないサイコロを、
ド真面目に振っているのですよっ!
生真面目に、
莫迦みたいに、
何度振っても
同じ1という数字しか出さないサイコロをっ!
それを何度も、
何度も、
何度もっ、
何度もッ、
何度も!、
何度もっ!
何度もッ!
何度も、
1しか出さないサイコロを振っているのですっ!
あなた方の唯一にして無二だと崇める絶対にしてたった一の唯一神はねぇっ!
嗤ってしまいますよねえっ?
それこそ、
あなた方の全知全能だと崇め讃える神さまが、
実は、
全ての目で1しか出ないサイコロをただひたすらに延々と振っているだけなのですからっ!
想像してご覧なさいっ。
こんなことは
その
今も。
今現在もっ!
超天才だと謳われるアインシュタイン氏さえもが信じた「神」という者がやっているのです。
だからアインシュタインという偉人さえも、それを想像できずに〝神はサイコロを振らない〟と勝手に決めつけ、錯覚していた。
1という目しか出さないサイコロを延々と振り続ける神と、
サイコロを最初から振らない神の違いが分からなかったのですよっ!
あのあなた方からでも超天才だと認めざるをえない偉大な人物でさえもねっ!
カハッ、
想像したら、また嗤いこけてきてしまいましたよ。
いったい、どうしてくれるんですか?
これ以上、
言うと、割腹絶倒して嗤っていた真理はゆっくりその姿勢を戻して、
章子たちを見据える。
「しかし、ね。
しかし、
私が、そんな神の崇高な行為を嘲笑することに対して、
あなた方が強い怒りと憤りを感じるのは至極真っ当で正当的な、当たり前に過ぎる感情ですが。
しかし一方で、
神がそんな愚かな事をする筈がない。
と考えることは、
それが返っては逆に、
あなたがあなたの信仰する神を、逆に間違いなく際限なく貶め冒涜する行為なのだと、
強力に絶対的に強く!
この私が誠意をもって、
ここに警告しておきましょう。
あなた方が、
神は1の目しか持たないサイコロなどは絶対に振っていないと、決めつけ決定し断定する行為はね。
逆にあなた方が、あなた方自身の神だと信仰する神という存在を、完全に冒涜し、侮辱する行為に等しいのですよ。
だからあなた方の誇りある信仰心の為にも、
これは絶対に警告しておきます。
あなたの神は、絶対にして唯一の全知全能の存在であるからこそ、
逆に、
1という数字の目しかもたないサイコロを何度も何度も振っているのです。
当然ですよね?
神には分かっているのですから」
「え?」
言って、茫然となる章子は真理と目が合う。
「分かっているのですよ。
あなた方がその存在があると信じている神は。
唯一無二にして絶対神であるからこそ、
そのサイコロの全ての面にある「1」という数字の何が違うのかが分かっているのですっ!」
叫ぶと、真理は自分の掌に小さなサイコロを出現させると、
それを自分の主である章子に向かって放り投げた。
その放り投げられたサイコロが章子の足元で跳ねて止まった。
その止まったサイコロの目には真理の発言同様、全ての面に赤い丸の「1」があった。
そのサイコロの1という数字が、四方八方に自分のあらゆる1という存在を全方向に誇示している。
それを認めて真理は言った。
「あなた方には分かりますか?
そのサイコロが目の前で出している全ての「1」の何が違うのかが。
しかし、神は分かっていますよ?
その全てにある1の何が違うのかが分かるのです。
分かっているのですよ。
あなた方の信じているあなただけの世界での唯一神はっ!
その1の目しか出さないはずのサイコロが、全ての面で出す「1」という数字たちのいったい何が違っているのかが、確実にハッキリと完全に分かっているのですッ!
なぜならば、当然、
その神は完全にして、唯一無二の絶対的に絶対無敵で絶対的に偉大な、
人智も及ばない「神」なのですからね。
だから、自分たち人間が分からないからと言って、
その自分が崇めている神までがそれが分からないというのは、
史上最大級に最悪のこれ以上もないほどの冒涜であり、
紛れもない完全な侮辱にも繋がるというものなのですよ。
だから私はあなたの信仰心の為にもその思考こそが冒涜だと絶対的に警告した。
そして……、
それを証明することもまた、簡単な事なのです」
「え?」
だが、茫然となる章子に真理は言ってのける。
「簡単な事なのですよ。
なぜ、その1が神には違って見えるのか?
それを証明することなど至極簡単な事なのです。
出来ないと思われますか?
いいえ。
証明してみせますよ?
神にはなぜ、
それら一つのサイコロの面にある「六つの1」の何の違いが分かるのかが、
と、いう事をね。
しかし、それを証明する前に、
まだまだ語らなけらばならない事は嫌というほどにある。
ではそれを一ずつ片づけていきましょう。
では、オワシマス・オリル!
今度は我々が今まで吐いていた嘘を告白する番です」
「え?」
驚いて章子が見ると、オリルは今にも血の気も感じさせない程に顔を蒼白にさせている。
「申し訳ありませんでした。
咲川章子に半野木昇。
そしてサナサ・ファブエッラ。
私とオリルは。
いえ、
私と、オリルたち第一文明の人類、リ・クァミス人は、
あなた方三人や、
それ以外の時代文明世界の住人に対して、取り返しもつかない大嘘を吐いていたのですよ。
そうですよね?
オワシマス・オリル。
あなたはあの時、決してついてはならない嘘を吐いた。
そして、その
ワザと故意的にスルーをしたのです。
それは当然でした。
あの時、
それ以上の真理を、全く無知であるあなた方に見せることは憚られたのですから。
だからそれを私はあえて見逃した。
そしてその見逃した行為をリ・クァミスという、
地球上で最初に栄えたギガリスに次ぐ最大で至高の人類文明でさえも良しとしたのです。
だから今も、のうのうとその嘘がまかり通っている。
しかし、そんな大嘘も限界です。
だから今は、その大罪を懺悔する時です。
その機会を、今、あなたに向けましょう。
第一世界文明人・リ・クァミスの最高学府学会院生徒「首席」。
オワシマス・オリル……?」
だが真理から話を向けられてもオリルは何も応えない。
ただ顔を青ざめて立っているだけが精一杯のようだった。
「しかたがありませんね。
では私から告白しますか。
実はあの時、
光よりも速いものは位置エネルギーだと章子が再確認した時に、
私やオリルの言った、
オリルのいたというリ・クァミスがあった時代の絶対零度の値は、
実は、摂氏マイナス272.89℃ではありません」
「え?」
「違うのですよ。章子。
オリルがいたリ・クァミスの時代の絶対零度の値は、その最下限がマイナス272.89℃ではないのです。
あの時代、
本当のオワシマス・オリルが存在していた時の絶対零度値は、
摂氏マイナス272.89℃ではなく……」
「221.03……です」
「え?」
「え?」
「え?」
皆が皆、最後にその数字を言ったオワシマス・オリル本人に向く。
だがその本人は涙を見せることも叶わず訴えていた。
「本当は……、
絶対零度摂氏マイナス221.03℃だったの。章子。それに昇にサナサさん。
わたし、嘘をついた。
みんなに……、
ごめんなさい……。
ほんとうに、
ほんとうにっ、
……ごめんなさい。……ごめんなさい」
まるで事切れそうな叫びのまま、ただひたすらに俯き謝り続けるオリルに、
だが、章子はその謝罪を受け入れている余裕はなかった。
そんな余裕は章子には存在しなかった。
「ちょ、ちょっと……」
呟いた章子は既に計算を始めていた。
自分の思考の中で、その告白を聞いた途端に暗算を始めていたのだ。
決して見逃してはならない「事実」を見つけるために。
「ちょっと、……まって……」
章子は呟く。
まずい……っ……!
そう間違いなく直感していた。
「ちょっとまって……。
ちょっとまってよ」
駄目だ。
その
章子は焦る。
その今まで騙っていたオリルの虚偽から求められる真実が、
真の絶望を呼ぼうとしている。
だから必死に止めたい思考がそれでも振り払って先走っていた。
先走って計算を止めようとはしなかった。
必死に思考を放棄したい
その頭脳が計算をやめなかったのだ。
「その通りです。
咲川章子。
オリルのいた時代、
リ・クァミスという時代があった時の26億年前の宇宙の絶対零度は、摂氏でマイナス221.03℃だった」
「黙って!」
だが真理はやめない。
「しかし、
現在の絶対零度は摂氏マイナス273.15℃です。
それらの数を引いて出る値はマイナス52.12℃。
つまり26億年でマイナス52.12℃、絶対零度の底値は下がっている」
「だから黙って!
お願い!」
「……と、するのなら当然、
現在もそれに似たペースで絶対零度が下がっていてもおかしくはない……っ。
だから、あの時、
私が言った、この宇宙の寿命は、
残り二千六百八十二億年などではないのですよ……。
我が主……」
「ちょっと待って、
待ってよ。
黙ってて!
嘘でしょ。
ウソでしょっ!
こんなのッ!」
「いいえ、これは
この宇宙が存在できる時間は、
あとのこり……」
「残り……13億年……ッ?」
その絶望的な数字を自分の思考の中で弾き出して。
章子は愕然となった。
「あと、たったの13億年しかないの?
この宇宙の……寿命が……?」
「いいえ。
それは寿命ではありません」
「え?」
「それは寿命から来るものではないのです。
それは寿命ではなく、
新たな発生により、塗り潰されて終わる」
真理の不可解な発言を聞いて、
章子たちは茫然となる。
「順序立てて説明しましょう。
この現在宇宙が、このまま存在できる期間は、もってあと残り13億年です。
正確にはあと残り、13億4千万年。
この13億という数字は現在の絶対零度摂氏マイナス273.15℃を、私の予想する最下限の絶対零度値、
即ち完全零度、摂氏マイナス299.97℃で引いて求められた、マイナス26.82℃という数字を丁度、2で割った数字となります。
そして、
この26.82℃という数字を使い果たした頃に、この宇宙は上書きされる。
そこから先は、また新たな次の重い宇宙が起こって始まるのです。
もちろん、
203回目のビッグバンによってね。
ではそのビッグバンが起こる仕組みの話をした大分昔に巻き戻ってみましょう。
あの時、
その次のビッグバンが起こる原理はその時に教えましたね?
今ある元素の内から不安定な「一つ」が消えて引き起こされると。
さらに、その元素が消える時に予想される絶対零度の値は摂氏でマイナス299.97℃。
これがこの次のビッグバンが起こる為の絶対条件である変数です。
しかし、そこにはもう一つ条件がある」
「え?」
「条件があるのです。
もう一つ条件が。
それが原子核に180個目の中性子を持つ元素の同位体の出現による発生です。
その時に初めて、
一つの元素が消えて、次の新たなビッグバンが巻き起こされる。
そして、その時に、
この宇宙の状況は問われません」
「えっ?」
「問われないのですよ。
その時、絶対零度が完全零度摂氏マイナス299.97℃になった時に、
その瞬間の宇宙がどのような状態や状況だろうと関係なく確実に引き起こされるのです。
その時に、その状況や状態は問われない。
なぜなら過去に
「第四の火」ビッグバンを原理とする、
オリルたちが使う魔法というものを発生させる時には、
それを起こす為に存在しなくてはならない「点の形」は問われない、と。
それと同じことなのです。
だから、仕掛けられた変数である絶対零度の数値さえが整っていればいい。
摂氏マイナス299.97という「点の形」さえあればね。
その数字になれば、どのような状況だろうと現われるのです。
その時に、
地球の時代がどれだけ人類的に平和だろうとも
どれだけ宇宙的に混沌だろうとも。
元素の原子核に180個目の「中性子」を持った「元素の同位体」が出現する。
そして、それが起こすっ!
今ある元素の中から1つを消して、次の宇宙へと重くする」
「で、でもそれっておかしいわ。
この世界を成り立たせている「四つの10」。
つまり四つの基本相互作用。
は全て、
『軽いと増える』という性質があるんでしょっ?
それなのに、宇宙は絶対零度の下限は冷えて増えて重くなっていくのに、
元素の同位体が「重いのに増える」のはおかしいんじゃないのっ?」
その主の問いに真理は大きな笑みを浮かべる。
「いい所に気が付きましたね。
我が主、咲川章子。
しかし、その時は「軽いから増える」のではないのです」
「えっ?」
「私は言った筈ですよ。
四つの10は「軽いと増える」。
あるいは、
「増えると軽くなる」……ともね」
「それは、
そんな……」
「この場合、
軽いから増えるのではなく。
増えるから軽くなってしまうのですよ。
その時の宇宙が、
瞬間的に。
だから、
極論、
順序はどちらが先でもいいのです。
起こってしまえばね。
そして、
それが「元素の同位体」の性質でもあるのです」
「え?」
「『元素の同位体』には大きく分けて安定同位体と放射性同位体の二種類があるでしょう?
そして元素の同位体の中では「放射性同位体」と呼ばれるものの方が圧倒的にその種類が多い。
その理由がなぜか?
お分かりになりますか?
この現実世界を、瞬間的にでも一時的に「軽く」させる為ですよ?」
「え?」
「軽くさせるためなんですよ。
絶対零度によって重くなっていくこの現実世界を、少しでも「軽いまま」でいさせるために、
放射性同位体は「放射」して「増やして周りを軽くしている」のです。
いえ、逆に考えれば、
その変数である絶対零度こそが、「元素の同位体」を冷やし重くして、そうなるように仕向けているともいえる。
そして、その間隔値こそを、我々が『時間』だと認識している」
「え、え?」
「そうでしょう?
セシウム133。
その「セシウム133」という元素の同位体が放つ原子の放射性周期だけで、あなた方の「秒」という時間の尺は定義づけられている筈だ。
とすると、知りたくなりますよねぇ?
この現実世界で、
一秒が過ぎるごとに、
いったいどれだけ、
絶対零度は下がっているのか……?」
「そ、そんな……。
まさか……。
やめて、
やめてぇっ!」
だが
「これは別に、そこのあなた方も例外ではありませんよ?」
そう言って、真理は、ギョロリとこの酷い文章力の文を読んでくださっているあなたにも向く。
「当然ですよねぇ……。
あなたのその現実世界の数字でも簡単にそれを証明することは可能なのですから。
なに、本当に簡単な事です。
今ある、あなたのその現実世界での絶対零度の数値、摂氏マイナス273.15℃を、
現在予想されている宇宙の年齢である138億年という数字から、「138」という数字だけを抜き取って割ってみればいいのです。
やってみてください。
273.15÷138。
それで出てくる数字は、
1.97934782608……。
これで、
限りなく……「2」に近い数字が出てくる。
これが、現在も絶対零度が下がり続けている
まだ、分かりにくいですか?
仕方ありませんね。
ではもう少し、分かりやすくしてみましょうか。
この1.9793482608…という数字を分かりやすく「2」という数字に捉え直します。
そして宇宙の年齢である138という数字で絶対零度摂氏マイナス273.15℃という数字が2で割り切れるのなら、
一億年で「約2度」、
絶対零度の最下限が今も下がっている。ということになる。
ではそれを今からこのまま引き伸ばして見ましょう。
まず、
1億年で絶対零度の最下限が2℃ずつ下がっていると仮定してみます。
と、するのなら、
五千万年では1℃下がっているということになり、
五百万年では0.1℃、
五十万年で0.01℃、
五万年で0.001℃、
五千年で0.0001℃、
五百年で0.00001℃、
五十年で0.000001℃、
五年で0.0000001℃。五年は約1826日なので182.6日、つまり丁度約半年と言い換えることができるので。
半年で0.00000001℃。その次は18.26日で、それは二週間と四日となり、
二週間と四日で0.000000001℃。次は、1.826日だから。
二日弱で0.0000000001℃。一日は86400秒なので、二日分ならば約15778.8秒。つまり、
約4時間22分で0.00000000001℃、次が1577.88秒で、
約26分で0.000000000001℃。次が157.788秒となり、
約2分半で0.0000000000001℃、すると次が、
15.7788秒で0.00000000000001℃。
最後に、
1.57788秒で0.000000000000001℃。と、いうぺースで絶対零度の底値は下がり続けている、ともいえる。
ならば1秒間であれば、
それは当然。
1秒で絶対零度は0.00000000000000063℃。
常に下がっている……という事になる。
さらに分かりやすくするのなら。
1秒間で、およそ、
273.150000000000000063℃。
と、いう事です。
これが、あなた方のいう「時間」だ。
そして、これこそが、
あなた方が超天才だと誇るアインシュタイン氏の直感が捉えていた非局所的な「隠れた変数」そのものであり、
また、
この宇宙の端から外側へと今も斥力として広がり、「熱転移」という熱移動現象で我々を冷やし重くする暗黒エネルギーという非局所的な速度そのものでもある。
で、
分かりますか?
この仕組みによる速度が?
今も、一秒ごとに絶対零度はそれだけ下がって増えているのですよ?
いいのですか?
そのままにしておいて?
そのまま放っておくと、どんどんと増えていって次第には辿り着いてしまいますよ?
摂氏マイナス299.97℃。
……という
それがあと13億年後の事です。
その時に起こる。
確実に。
そして、その時を前にしてあなた方は縋るのです。
他への「生まれ変わり」。
「転生」。
「来世」というものにねっ!
しかし、それを許すと思いますか?
この一進法による
そんな
させませんよ?
この現実世界はそれを完全にさせません。
そんな淡い期待など絶対にね!」
言って、真理は我々に断言する!
「あなた方は、
また、そのあなた方自身に生まれさせられる。
強制的に。
絶対にっ!
完璧に完全にッ!
同じ事を繰り返させられる。
それを今から証明しましょう。
では咲川章子。
あなたの疑問に今こそ、
あなたの
なぜ、「四つの10」の一つである、
S極とS極が互いに「1」として反発し合った場合でも、
その反対の磁極、N極でさえ、「10」の中にある0と0同士であるにも関わらず、互いに反発し合ってしまうのか?
というものでしたね。
その答えは簡単な事です。
四つの10、つまり四つの基本相互作用はね。
互いが互いと絶対に「10」という数字の形で相互作用しなくてはならないからですよ。
四つの基本相互作用とは絶対に、
「1」と「1」で、
あるいは「0」と「0」で、
または「1」と「0」として、
単独同士で相互作用してはならないのですよ。
それら四つの基本相互作用は常に「10」という一纏めとなった形で相互作用しなくてはならない!
だから同じ「0」と「0」同士であるN極とN極は、電磁相互作用の中では反発するのです。
その「0」と「0」の間に「1」を発生させてね。
だから電磁相互作用での磁力の反発作用の中では、
N極とN極の反発と、S極とS極の反発では、「力の質」が根本的には違うのですよ?
しかし、あなた方はそれに気付いていないでしょう?
そして勿論、その質の違いに気付いていなくても何も問題はない。
なぜならそれらは結局、同じ「1」と「0」になるからです。
違うのはその時だけなのですよ。
だから気付いていなくとも何も問題ではないのです。
その為、
電磁相互作用中での磁力作用では、
S極とN極という「1」と「0」が、「10」として合わさった数で強力な引力を発揮し、成り立つのです。
そしてそのS極とN極が次々と連なっていき、
その電磁相互作用内では「10101010」という数字の羅列が引力として発揮される。
だからその斥力は数字にすると「0110」や「1001」の時だけ満たされる。
それが電磁相互作用内での「斥力」、反発を意味していたのです。
これは残りの三つの相互作用についても全て全く同じと云える。
特に
例えば我々が地球に住む人間だとすると。
地球の持っている「公転する0」と、我々の持っている「自転軸1」とが「10」という数字となって相互作用していると表現することが出来る。
逆に地球を「自転軸1」だとすれば、我々が持つ「公転する0」がその地球の自転軸である「1」と「10」として相互作用している。とも、いえるのです。
だから我々が、あの地球やこの新惑星「転星」の重力で引き寄せられ、
その大地に立っている、とも表現できるこの状況はね。
地球や転星がもつ「公転する0」の重さと、我々が持つ「公転する0」の重さを、互いの自転軸「1」同士で相互作用させて「10という引力」として成り立っているのですよっ!
だからこの転星での重力相互作用の強さは、それ自身が持つ「公転する0」のその総数、その物であるとも表現することが出来るのです。
それが残りの「弱い核力」や「強い核力」の相互作用でも同じであるということができる。
だからこの現実世界では、
重力を発生させる「重力質量」と、
慣性力を発生させる「慣性質量」はほぼ等しく等価なのです。
その違いは地球上では自転軸「1」の分である「0.2」だけ慣性質量の方が多い。という理屈で成り立つのですから。
だから当然、「10」が「四つの基本相互作用」の引力として働くというのなら、
もちろん「重力相互作用」の中にもその「斥力」は存在するっ!」
「え?」
「存在、……しますよ?
重力相互作用の中でも、互いが反発し合う力「斥力」、つまり「万有斥力」や「反重力」とも呼べるべき作用力は「重力中の引力」同様に存在しています。
電磁相互作用と同じく、今も常にね。
当然でしょう? 章子。
「10」として成り立たなければ、それは「反発」なのですから。
そして、
それは既にあなた方、地球に住む、七番目の現代人類も既に科学技術として、
とっくの昔に達成して入手しています」
「えっ……っ?」
「あなた方、章子たち現代人類はね、既に手に入れているのですよ?
重力相互作用中における斥力、反重力をね。
ただ、最大の問題は、
あなた方、人類自身が、それを「重力の斥力」、「反重力」だと認識していないことにあるのです。
だって気付いていないのですもの。
ならばご指摘して差し上げましょうか?
その、人工衛星を打ち上げている力はなんなのですか?」
「え?」
章子は愕然となる。
「え?
と、驚くものなのですか?
その地球外の外宇宙に進出する為に使っているその「当たり前」の力は、重力には逆らっていないのですか?」
「そ、そんな……」
章子は絶句していた。
真理が指摘するその答えを、章子は絶対に飲み込めずにいた。
「それがね。
重力の斥力です。
ただの「第一の火」。
それがあなた方の探していた只の「重力の斥力」、「反重力」なのですよ。
そしてそれはもちろん。
地球の備える全ての「公転する0」の総量と、あなた方の内に持つ「公転する0」の総重量とを、「0」と「0」とで0同士、
あるいは自転軸「1」同士でぶつけてやれば、等しく同じ出力で化学理論上での紛れもない「重力の斥力」となって「反発」しあう。
これも当然です。
勿論、
それが、現実的に可能であればのお話ですがね?
残念でしたねぇ。
あなた方の夢は、儚くもこの現実にことごとく圧し潰される。
そしてその現実事実に押しつぶされる最大の理由は、
あなた方の「無自覚」だ。
その「無自覚」が、あなた方の重力という力の捉え方一つをとってみても、
嫌というほどによく分かる。
あなた方はきっと今、こう思っていることですよね?
重力相互作用は「軽いから増えるのではない」。
「重くなるから増えるのだ」と。
忠告しておきましょう?
そんな風に考えているから、
あなた方はこの現実が分からないのだ、と。
重力相互作用はね。
重力「相互作用」なのですよ。
その力は「相互作用」なのです。
だから「その力の作用」を説明する時には、絶対に個人を評価する「絶対評価」であってはならない。
相互作用の力を説明したいのであれば、それは、相手と相手がいる「相対評価」として説明しなければならないのです。
即ち、
地球が重いからその重力によって地球の大きさや重さが増える。
と、解釈しては絶対にいけないのですよ。
それは「相互」ではないのですから。
その説明の仕方はね?
「自己完結」です。自己完結のエネルギーを説明する時だけ、その説明の仕方は成り立つ!
だから、
「相互作用」として語りたいのであれば。
それは。
地球が重いから、周囲にいるあなた方という「人類」は減る。
と、解釈しなければいけないのですよ。
そして、それがこの現実です。
四つの「10」と!
一つの「1」と!
三つの「0」によって成り立っている。
この一進法による現実世界なのですよっ!」
そして、真理は自らの主人を斜面から見下ろす。
「だから章子。
電磁相互作用の磁力作用は、N極だろうとS極だろうと同極同士では反発し合うのです。
それらはすべて「10」として相互作用しなければいけないのですからッ!
そして当然。
それは、「一つしかない1」である自転軸1や、
この現実に、
「静止する0」と「自転する0」と「公転する0」という、
三つとしてある「三つの0」についても同様だと云える。
もちろんその通りです。
「1」は自転軸である「1」同士でしか「位置エネルギーの交換」として「相互作用」することしか出来ません。
自転軸「1」は真上から見ればただの「点」にしか見えないことも、その「位置エネルギーの相互作用理論」に拍車を掛けている。
一方で「三つの0」は「0」同士でしか相互作用できない。
そこに「1」の入り込む余地はありません。
入り込んだら最後、それは「反発」という結果しか招かない。
だから、「0」は「0」同士、
「1」は「1」同士、
「10」は「10」同士で相互作用しあう。
それ以外にッ、
「0」や「1」や「10」という数字が相互作用してしまう時があるとすれば……ッ……?
っ……すれば?」
そこで、今までの勢いをなくした真理は突如、地面を見つめ、黙り込んでしまった。
まるで何かを深く気付き、考え込んでいる様子だった。
それこそ、まだ
「……?
どうしたの……?」
真理……?」
「い、いえ。
何でもありません、咲川章子。
続けましょう。
「0」や「1」はその同数字でしか相互作用は出来ない。
と、するのなら我々もまた例外ではない。
我々が持つ「0」や「1」も、
それぞれが他の「0」と「1」とで相互作用してしまうのです。
そう、軽い過去として記録されている確実にあった昔の自分の「0」と「1」とでね」
言って、真理は自分の背後に控える噴煙を上げるカツォノブレイッカ山の頂上を見る。
「では先に言った、
神は、その自らが振り続ける1の目しかないサイコロが示す、全ての「1」の何が違って見えるのかという証明をしてみましょう。
これは何もそんな難しいことではない。
本当に非常に、とても簡単な事なのです。
なぜならそれは、ただの「足し算」という算数式で証明できるのですから。
では証明します。
あなた方、十進法で全ての数を認識している人類には、
「1」という数字とまったく同じ値、等しい値、等価な値だと主張する数字が存在しますよね?
その数字とは、
0.999999……が無限に続いていく、というあの数字です。
この0.99999……が1という数字と完全に等しく、全くの同数であることはあなた方の誇る全ての数理理論で証明されている疑いようのない事実。
……と、されているますよね?
と、するのなら、この1と無限に続く0.99999……という数字が全く違う「値」をもつ数字だと、
いま、ここで
その章子の足元で転がる全ての目を1として出している、そのサイコロの
その全ての「1」が違う数字だ、と証明することも同義だと云える。
では証明してみましょう。
その証明とは別に、
この「1」という数字と、
「0.999999……」という数字をそれぞれで、
否数法を使い、
否数に訳してみればいいだけです。
では否数に訳しましょう。
「1」の否数は「9」。
では「0.999999……」の否数は、
「10.111111……」。
これらをそれぞれで足して、それぞれの「廻数に戻します」
1と9の廻数はその起数である「10」
では「0.999999……」と「10.111111……」の廻数は、
それらを足して、
「11.11111……」
では1の廻数「10」と、
0.999999……の廻数「11.11111……」を、ここで今まさに引いてみましょう。
そこから出てくる数字の差は明らかに……ッ、
1.11111……という違いがあるっ!
……これが……、
『
あなた方の言う、
『神の視線』なのです。
だから、
神にはね。
分かっているんですよ。
その全ての「1」の何が違うのかが!」
言って真理はあなたを見る。
「そして、あなた方人類がこれを否定することは許されない。
どうあっても、あなた方人類にはこれを否定することは出来ないのです。
なぜならこの解は、間違いなく、
あらかじめ定められた全く完全な自然的に存在する、数算程式法則に則って求められた純粋な数理挙動であるのだから。
そこには恣意的な意思による不可解に手の加えられた、仕組まれた挙動動作は存在しない。
全てが「四則演算」に始まる純粋で自然的な数理挙動で成り立っている。
故に、これをあなた方全ての科学技術を学問とし、
その全ての物理と数学を含めた現実のあらゆる現象をその証明とする、学問の徒とである、
あなた方には、
これを否定する資格は無いし、することも叶わないのですよ。
だからほらね、
その好きな所で区切ってみるといいですよ?
その「0.9999……」と、単なる「1」の廻数の差から出た数字。
1.11111……の小数点以下で続く無限の1の位の場所の好きな所でね?
そしてそれを区切って堰き止めた場所が……、
あなたの寿命だ。
あなたの寿命なのです。
もしくは、あなたが奪い殺める誰かの寿命であり、
ともすれば誰かに弑され奪われるあなたの寿命かもしれない。
その1が果てしなく続く数字を好きな所で「0」として止めた、あるいは止められた場所までの長さが、
あなたや他の誰かの寿命なのですよ。
そしてその「好きな所」という嗜好だけで、その終わりが決定されたのだから、
それは量子力学による「不確定性原理」ともなる、確率的な物であるとあなた方は認識する。
だからあなた方は「他の選択肢があるかもしれない」と思うのですよね?
そこから、他に存在するかもしれない違った可能性の「世界の分岐」が、
「並行世界」や「平行世界」として、
この現実世界以外の、他の世界の何処かにはあるはず、あった筈なのだと。
しかし、神はそんな事を許しはしない。
それを他の世界などという「無という『0』」として存在させることを許さない。
「1」と「0.999……」の違いが分かる神から見れば
それは紛れもない「1」です。
「1」として確実に、この現実世界で存在している。
神がそれをこの現実世界の「1」として存在させるっ!
させてみせるっ!
当然でしょう?
1%は、小数に直せば0.01なのですから。
それは確実に「1」として存在しているのですよっ。
確実な「1」としてね。
あとはそれが「繰り上がっている」か「繰り下がっているか」の違いだけです。
それはつまり、
あなた方人間が、
「実現できるか」、「実現できていないか」の違いでしかない。
予想できる全ての確率は、既にそこに「確実な1」として存在しているのですよ。
あとは、その桁をどこまで、ここまで持ってこれるか、どうかだけが問われるのです。
この現実世界の現実現象での発生までね。
できますか?
あなた方に、
全ての想像できる可能性をそこまでっ!
出来ないから、
あなた方には分からない。
だが、神には分かる。
0という神になら、その1の全てにある「1」の「位置」が存在している場所がわかるのです。
当然です。
それらは全て、
今も下がり続けている絶対零度という「非局所的な変数」によって記録され続けているのですから。
いいですか?
誤解しないでほしいのは、
その時、
その場所で、
あなたがその行動をとろうと思っているのは、
間違ってもその絶対零度という「変数」がさせているからではないのですよ?
変数は記録しているだけです。
その時に、その物がとった行動を記録しているだけ。
記録しているだけで「観測」すらしていません。
あなたを「観測」でさえしていないのですよ。
ただ「記録」する。
それだけなのです。
それを言い換えるなら、
その変数の時に、
あなた方がそう思って「記録されてしまう行動」を実行してしまうだけなのですよ。
それは間違いなく、神やその変数などではなく、
あなたがあなたという自分独りだけが考えた末での行動だ。
だから、それは変数の仕業ではない。
紛れも無いあなただけの仕業なのです。
そして、それは何度繰り返そうと、同様に働く。
あなたは同じことをその
間違いなく自分自身から行動して実行して繰り返すのです。
だからあなたはまた、あなたに産まれ直される。
その過去と未来に存在する出生地と死地がある位置を、既に神は知っているのですから。
そしてその時に、
『なぜ、私は私なのか』
という疑問を、あなた方は強く抱くのです。そういう風に考える。
そしてその
『なぜ、あなたはあなたなのか?』
それはね……?
『これから確実に訪れる重い先の未来で、間違いなくそこで死を迎えてしまう「あなた」がいるからだッ!』
とね」
言って真理はあなたを見る。
「あなたはこれから先の未来で確実に死なないのですか?
確実に死なないのであれば、あなたがあなたでいる由縁はない。
あなたはそこで何人にも為れる。
だが、もし、この先の重くなった未来で、確かにあなたがあなたとして死を迎えてしまうのならば。
間違いなく、あなたはあなたとして、軽い過去でまたあなたとして生まれ出てくる。
また同じことを繰り返してしまった母親と父親の間からね。
なぜなら、この全宇宙の中で、死を迎えた時点のあなたに一番近く、一番遠い距離にあるのはまず間違いなく、軽い過去で出生した「1」というあなたの位置だからだ!
その時のあなたが産まれた「位置」がね。
この全宇宙の中で、
死を迎えたあなたの「位置」から、「軽く」は一番近く、「重く」は一番遠い距離にあるのですよ。
だからそれは「
「引力」と「斥力」となって成り立ってしまう。
だから他者への「来世」や「生まれ変わり」、
「転生」などというものは絶対に、確実に、完全に発生しないっ!
それはまた「あなた」を、
また同じ「あなた」へと「輪廻」させることを強制させる!」
言って、
たった一人の少年に向いていた。
「では、半野木昇!
ここにいる全ての人々が今、ここで初めて、他者への「生まれ変わり」「転生」「来世」という現象を欲している。
我々が「我々として事切れれば」、「我々はまた我々として生まれしまう」。
だから、
その可能性を渇望しているのです。
だから今こそ、
ついにやっと、
あなたにはお答えいただきましょう。
この現実世界で、他者への「転生」や「来世」「生まれ変わり」という現象を可能とさせ、実現し、手に入れて発生させる為には、一体、
どのような現象が、この現実世界では起こっていなければならないのか?
どの様な現象があれば、
我々は死後、他の誰かの位置に産まれ直されることができるのか?
お答え願えますか?」
言って見る真理に、
昇は俯いたまま、
その誰もが待ち望んでいる
「水素と『同じ成分』で、もう一つ水素以外の物質が現われれば……。
ぼくたちは他の何処かにいる、他の誰かに……「転生」できるかもしれない……」
そう他人事に呟いた少年に、真理は大きく首肯して見せた。
「そうです。
まったくその通りですよ。
半野木昇。
水素単体元素。
いわゆる「軽水素」を構成する「陽子」と「電子」だけで、
その「軽水素」以外の、他のまったく異なる性質を持つ「別の元素」がもう一つ新たに現われていれば、
我々が他の誰かに生まれ変わるという現象は成り立つ。
勿論、それは「反物質」であってはいけません。
「陽子」や「電子」が、「反陽子」や「陽電子」であってはいけないのですよ。
それが反物質という「反水素」であってはならないのです。
他者への転生現象を実現させるためには。
まったく同じ「陽子」とまったく同じ「電子」だけで、まったく同じ数を持った、
もう一つの全く同じ「別の元素」を出現させなくてはならない。
しかも、
それが「確率的に」ね?
もし、この現実世界が非局所的な「変数」など存在しない、
真に量子力学だけで描かれえる「確率的発生」だけで成り立っているのだとすれば。
当然、「陽子と電子からなる元素」も「確率的に」複数個、
他の元素という形で成り立っていていい筈ですよね?
そんな現象が、この確率的な現実世界でも真に「確率的に」現われていて、いい筈だ。
むしろ、そうでなくては成り立たない。
だが、この現実世界では、
電子と陽子が一つずつで成り立つものは「軽水素」以外には有り得ない。
それ以外の元素という形では完全に成り立っていない。
だから、この世界は、真には「確率的ではない」のです。
その位置という場所は、既に「軽水素」という「1」だけで占められているのだから。
そして、それが、
あなた方の言う『一意性』だ。
すでにその位置は「軽水素」という「1」だけで決められているのだから。
だから、
あなたは他者には転生できない。
「陽子」と「電子」だけで成り立つ元素が、「水素のみ」である限り!
あなたとして今を生きるあなたは、
重い未来でもあなたとして死ぬ為に、
また軽い過去で、
「重い未来であなたとして死ぬ為に、そこの『あなた』としてまた生まれる」のですよ。
その他の位置は、あなたの為には用意されていない。
あなたの為に用意された位置はそこだけです。
なぜなら前にも言ったでしょう?
『あなたは、この全宇宙の中であるたった一つの「唯一無二の0」なのだ』と!
では、
あなたを、そこの位置に「最初に決めたのはいつで? だれなのか?」
決まっているでしょう?
最初で最期のビッグバンが起こった時です。
その、「三つの0」によって初めて起こされる、最初で最期のたった一度きりのビッグバン。
そこで最初の1から最後の320までが、一度に決められ……、そうかッ!」
そこでくどくどと語っていた真理は、大きく目を見開き、思いがけずに叫んだ。
「真理……?」
「そうかっ、
そういう事だった……?……ッ。
そういう事だったからこの現実世界はっ……!
だから……、
だからだった?
だから、お母さんは今も……ッ!」
「ど、どうしたの?
真理……?」
「やっと……、
やっと分かったのですよ。
我が主、咲川章子。
確かにそう考えれば、この現実世界の最初にあったものは「ひよこ」だった」
「え?」
「ヒヨコだったのです!
この現実の最初にあったものは!
半野木昇っ!
あなたが正しかったッ!
そう考えれば、確かにこの世界の最初にあったものは、
「鶏」でもなく、
「卵」でもなく、
「雛」だったッ!
それはもちろん、
「1」でもなく、
「0」でもなく
「10」だったのですよッ!
「10」という「0.17」。
それが一度にこの現実世界にはあったッ!
だから、この新惑星「
ゴウベンは探しているッ!
今もッ!」
「え?」
「探しているのですよッ!
なぜ今まで気づけなかったのか。それが殊更に悔やまれる。
母は探していたんだ。
今も!
まだ!
この惑星の何処かで探し続けている!
しかも、それをまだ見つけることができていない!
この新惑星を造った
ここに
彼をッ!」
言って真理が見ていたのは、いつの間にか真理さえも追い越して、山頂へと近づいていた半野木昇だった。
だが昇は、それ以上先には歩こうとせず、ただ黙って噴火口の方を見上げ、立ち止まっている。
それを見て章子は真理が一体何を言っているのかが分からなかった。
「何を……言ってるの?」
だが真理は、自分の口元に秘めて立てた人差し指を当てて、章子に向ける。
「これは今、私でさえ初めて気づいた
それほど、他人に吹聴できるほどに
だから、この場では簡潔に、触りだけを説明します。
〝「三つの0」により全てが一度に発生した〟
この一文の表現で、
「鶏」や「卵」を含めた全ての物が、
たった一つの「雛」としてこの世界の最初から存在していた理屈は何となくわかるでしょう。
問題はその後なのです。
私はかつて、こう言いましたね。
〝円周率3.14はその3、1、4、という数字を使って、この現実世界をこう言って表わしている〟と
それはつまり
この現実世界には、
三つの「0」があり、
一つの「1」があり、
四つの「10」がある。
それらを合わせてこの世界の「1」とする。
私は過去にそう言った。
しかし、この言葉の先には続きがあります。
「0」が三つあるという事は、逆に言うと、
「3」は「0」であるのですッ」
「え?」
「逆もまた成り立つのですよっ。
「0」が三つ、この現実世界にあるというのなら。
「3つ」あるものは常に「0」なのです。
だからこの現実世界では、
「物質の形態」や「熱の移動」に始まるほとんどの種類は「3」で行き止まっている様に見える。
そう見えてしまうのです。
しかし、そこには必ず見えない「4」が隠れているッ!」
「え?」
「隠れているのです。
隠れているのですよッ!
「3」という数字で区切れるものには、何処か見えないところに必ず「四つ目」が隠れている。
なぜならこの現実世界には、
「10」が四つ、存在しているのですから!
それは逆に言えば、
「4」が「10」ある。という事でもある!
そして真理学史上、
この「10」あるとされる「4」を、ハッキリとこれだと決定することが出来ていないッ!」
「え?」
「決定できていないのです。
ギガリスも!
そして我が母ゴウベンを始めとする私たちでさえも。
どの「4」が「10」としてあるのかが分かっていない。
だから探しているのです!
我が母ゴウベンは!
今もッ!
この新惑星でッ……」
そして真理は、自分の母でもある神の真の目的を暴く。
「『四つ目の0』をッ!」
言って真理は自分で自分に驚愕した。
「母は探してる。
「0」が三つあるという事は、「3」は「0」であるということ。
つまり、この現実世界にも当然『四つ目の0』が存在するッ!
公転する0、
自転する0、
静止する0、
それ以外の四つ目の0がっ!
だが、
母はそれをまだ見つけられていない。
見つけることが出来ていない。
見つけることができていないから、それを手に入れる為に探しているッ!
しかも、
おそらく、
その『四つ目の0』に最も近く、最も手に入れられる場所にいるのは、
母ではない!」
「え」
「母ではありません。
だから招いたのですから。
恐らく、
だが間違いなく。
その『四つ目の0』に今、最も一番近い場所にいるのは……ッ!」
言って四人の少女が全員で見た。
その先に、たった一人でいる少年を。
だがその前に。
章子一人だけが少年の立ち居姿に目を止める前に、見つけてしまった。
他の像を。
その像は、在り得ない程、天高くにいた。
もうもうと黒と灰の色で噴き上げる噴煙の天高い傍らで。
真っ白な雲の切れ間を背景とし、
そこに立っていたのだ。
それは人影では無かった。
いや、人に似た陰ではあった。
それでも決して人に似て非なるものだった。
だが、そのものは間違いなく者であり、また物ではなかった。
かつ、その者は、者ではあるが「人」でもなかった。
しかし、人以外の「動物」でさえもなかった。
それでも、まずは、「動物」に近い者ではあったのだろうと思う。
なぜならその者の姿は、明らかな獣の山羊だったのだから。
全身が黒い毛並みをした山羊。
だが、それは動物ではない。
動物という獣の形では無かった。
それは紛れもなく「人の形」をしていた。
一つの頭に一つの体を持ち、そこから伸びる一対の太い腕と脚。
おそらくその先には五本の指があるだろうまで想像することが容易い。
その者が人と違うのは、その体表だけだったのだから。
全身を覆う黒い毛。そして山羊そのものである角と顔。
その姿は、まさに章子がどこかの本で見た、「神の悪魔」と形容するに相応しい容姿だった。
それが遥かな高空から、章子たちをつぶさに凝視していたのだ。
それを見た章子は、恐怖から声を上げることが出来なかった。
章子以外に、その存在に気付いている者はいない様子だった。
だから章子は何も出来ずにただ、その姿を茫然と見続けることしかできなかった。
いつ、その獣の者がこちらへ襲いかかってくるのか。
それだけを必死に考えていた。
だが、それから間もなく。
一つの救いが現われた。
その黒い山羊の人影。
黒い毛並みに橙色の布を袈裟懸けに羽織る姿の、そのさらに背後に、
黒い山羊の禍々しい存在とは打って変わって、
非常に神々しい、
白い羊の人影が見えたからだ。
その白い羊の人影は、まさに「神の使い」であるかのような優しい目で、
「章子たち」を見つめている。
白い羊はやはり人の形をしており、その真っ白な美しい毛並みの上からは真っ青な布を衣服として袈裟懸けに着ていた。
その白い羊もまた章子たちを見ていた。
だが、その二つの異形の影は、それ以上の行動をとらなかった。
いつまでもただじっと、その空中で立ったまま、章子たちを見つめている。
そしてもうもうと風に乗り湧きたつ黒い噴煙が、山羊と羊を隠そうと傾き出した頃。
揺れる黒い噴煙と白い雲の切れ間から差した強い陽射しを浴びて、
山の地肌が透ける斜面の至るところから、いままでその存在を感じさせなかった、
鳥たちが飛び立った。
「っ?
わっ」
章子がたまらず目を瞬きすると、その飛び立った鳥たちは、
光そのものだった。
幾つもの光だけが鳥の形となって、一斉に群れをなして飛び去っていく。
「
バシラート……?」
サナサがその姿を見て、思わず呟いた名は、
それはこの第五世界の巨大成層活火山カツォノブレイッカ山だけに棲む。
大人しい性格の光の人工精神で象られた鳥。
光の精霊鳥、AMだった。
「え……?」
その光の鳥たちが飛び立ち、空の彼方へと消え去った後。
姿を消していった一瞬の雲の切れ間からひらひらと、一つ。
舞い墜ちてくるものがあった。
「鳥の……羽根……?」
優しい綿毛の様に白く、ぽと灯り光りつづける小鳥の羽根が一つ、
儚くも消えず。
章子のかすかに挙げた手の平に落ち着く。
それは章子の手の中でいつまでも消えることなく、光を灯し続けていた。
「……す、すごい。
すごいですよっ!
章子さん。
光鳥の羽根がいつまでも消えないまま残るなんて、
こんなこと、滅多にない幸運なことですよっ?」
そのサーモヘシアの歴史の中でも十も数えられないほどしかない幸運の場を目の当たりにして、サナサは大きく感動している。
だが章子はそれを素直に喜ぶことは出来なかった。
受け止めた、いまもまだ淡く輝き続ける光の羽根を手の中にして。
章子はもう一度、空を見た。
そこにはもうあの黒い山羊と白い羊の姿を、どこにも見つけることは出来なかった。
今のはなんだったのだろうか……?
本当はただの幻だったのだろうか……?
だが、その後で舞い降りてきた、この幸運の中でしか存在しない光の羽根だけは、
現実として章子の手の中にある。
その幸運な現実を手の中で確実に囲んだまま、章子は見て求めた。
章子たち四人の先を行く者の姿を。
だがその者は。
「四つ目の0」、すなわち、
「一つになる0」を、いつかその身に手に入れる少年は、
章子たちを見てはいなかった。
少年が見ていたのは。
見つめていたのはただ自分の足元、
自分が立つ地面だけを見つめて、たった一言だけをこう呟いていた。
「いるんだな……。
そこに……」
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