第2話 最先端
友人のA子の知り合いがブティックをやっているというので見に行く。
いま流行の呪い系女子、サダコさんの店だそうだ。
店についてみると、外観からしてなんか禍々しい雰囲気だ。
わざと古びさせたペンション風?とでもいうのだろうか。
一人では絶対入れないだろう。
入るのを躊躇していると、A子がニッコリして話しかけてくる。
「ね、オーラがすごいでしょ?」
「……お、おう」
なぜか地下1階が売り場の入り口になっており、さらになぜか井戸を模した筒状の螺旋階段で降りなければならない。
地下に降りると誰もいない……と、思ったら正面の壁掛けTVと思しきものの前面がパカッっと開き、白いワンピースの長身の女性が四つんばいで這い出てきた。
『ひ、ひいいいい』
危うく腰がぬけそうになったが、A子が明るく挨拶する。
「どうも、サダコさん。今日は友人を連れてきました」
「は、はじめまして。おじゃまします」
店主のサダコさんは真っ黒な長髪で三白眼、体はガリガリ、肌は真っ白という方であった。
サダコさんは機嫌よく微笑みかけてくる。
「イー、イーヒヒヒヒヒヒヒ」
……気さくな人のようだ。
改めて店内を見渡すと、どうも変わったマネキンだと思ったら……よく見れば等身大のワラ人形に服が着せてある。
ワラ人形が着ているのは全てサダコさんと同じ、白いスモックというかパジャマというか、なんかそんな感じの服だ。
「イヒヒヒヒッヒヒヒヒッ、イーヒヒヒヒ、ヒイイ」
『???』
そこへすかさず、A子が
「『よくいらっしゃいました、ゆっくり見ていってね』」
おい、お前いきなり通訳するな……ってかサダコの言葉わかるんかいっ!?
こころの中で無数のツッコミをいれつつ、
「え、え~と、サダコさんのお店は流行の最先端という事で、有名人とかいらっしゃるんですか??」
「イーヒ、ヒヒヒヒイ、イッヒヒヒヒッヒイイイ……」
「『えーと、そうですね、芸人の鳥丼みゆきさんとか……』」
ははあ、奇天烈なギャグで話題になったあの女芸人か。
そういや、変な白い服着てたな……ってかここで買ってたんか~い!!
「イヒヒヒイ、ヒイヒイヒヒヒイ?」
「『鳥丼みゆきさん、知っているの? 』」
「は、はあ、たまにTVでお見かけします。あ、(ごくごくたま~に、だが)おもしろいと思います」
なんなんだこの会話は??
「イヒヒヒ、イーヒヒヒヒヒヒ、ヒッヒヒヒッヒヒヒヒヒイーヒヒヒヒ」
「『そうね、せっかくお二人に出会えたんだし、鳥丼さんと同じ服をプレゼントするわ』だって。 やったね!!」
正直、いらん!!と思ったがA子がノリノリで喜んでいるので仕方がない。
そうだな、私は絵を描くのが趣味なのでスモックがわりに着るのはいいかもしれない。
服をいただいて、その日は早々に帰宅した。
一週間ほどした日曜日。
サダコの服は作業着としてはなかなか便利で、のんびり風景写真を元に水彩画を描いているとA子から電話が。
「今からTV出るから見てね」
はて、サダコのショップがTVで紹介されるとかかな?、悪趣味な……と思いつつTVをつけると、なんと若手漫才日本一を決める人気番組『N-1グランプリ』がやっている。
「さあ、次の挑戦者はピン芸人鳥丼みゆきと新パートナーA子のペアで『サダコシスターズ』だあ~っ」
MCが紹介すると、
「「どうも~サダコシスターズで~す。
コント 『ストロー大好き!!』」」
暗澹たる気持ちがこみ上げてきたが、不覚にもチャンネルを変える気力さえなくしてしまった。
「昨日、ワラ人形で遊んでたらさあ~クシャミが止まんなくなっちゃって」
「そりゃ、ワラアレルギーだろ」
「ワラっちゃうね、ワラだけに」
「「そら! ♪ファール アンド アウト~
ファール アンド アウト~」」
唐突に入る意味のないブリッジ。
延々とワラ人形のネタが続くが、客はなぜか盛り上がっている。
……よく見たら客も全員、白いスモックを着ている。
とりあえず、A子は着信拒否にした。
(了)
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