第一世界『密集都市 トーキョー[TOKYO]』 その6
×ケイ×
デザートまですっかり平らげて店を外に出ると、空はオレンジになり始めていた。
意外と大食いなのか、特に苦しそうにする様子もなくどこか上機嫌に歩くトリシャとともに、次の世界を目指して道を歩いていく。
「それで、次の世界に移動すると言ってましたがどこに行くんですか?」
「そこにバス停があるだろ? そこからバスに乗って移動する。電車でもいいんだが、トリシャの場合肉体が耐えられない可能性があるからな」
言葉の意味があまりよくわかっていないのだろう、トリシャが首をかしげる。しかしケイは詳しくは言わない。世界の移動もまた、トリシャにとっては新鮮な経験になるだろうと思ってのことだった。
驚きは大きい方がいいと思う。
その方がきっと、楽しいだろうから。
「ちょうどバスが来たな。ほら、乗車金だ」
「先に払うんですか」
「そうだ。降りる時に払うんだったら渡さないさ。『降りない』からな」
「降りない……?」
「ついて来ればわかる」
「あ、ちょっと待ってくださいよ!」
到着したバスに、先んじて乗り込む。トリシャもおそるおそると言った様子ながらも無事乗車した。二人席に並んで座ると、バスが発車する。
「私の覚えが確かなら……結構な長距離を行くバスみたいですね、これ」
乗っていた路線図を見ながら言う。トリシャは結構覚えが良いみたいで、日本地図などの情報はしっかりと頭に入っているようだった。
「三十分くらいかかるから、疲れたなら寝ていていいぞ? 寝ぼけていると大変なことになるけどな」
「脅されたら寝れませんよ。でも、次の世界に着いたらどうするんです? まずは宿を探すんですか?」
「そうだな。見つからなかったら野宿だろうが」
「それはそれで楽しそうですね」
小さく微笑む。女の子だから野宿なんて嫌だ――なんて言うかと思ったが、余計な心配だったらしい。
「次に行く世界はオレもどんな世界かわからないから、出来れば家の中で眠りたいけどな」
そんなことを話しながら、バスに揺られて二十数分。
そろそろ目的の場所に到着するというころになると、不意にトリシャが声を上げた。
「け、ケイ、あれ、あの白いのは、」
「ん? ああ、もう見えて来たか。あれは世界の仕切だ」
目線の先には、天を突くほどの巨大な白いもやの塊のような壁がある。遠目にはそんなものは全く見えなかったのだが、近くによると認識出来る様になる、『世界の仕切』だった。
「世界の仕切……? この世界を上から見た時にあった、あの白い線みたいな?」
「そうだ。あれをくぐると別の世界にいくことが出来る。このままバスで突っ切ると、いきなり放り出されるような格好になるから気をつけろよ。一応なにかあったら助けはするが」
「放り出され……はい!? いや、私自慢じゃないですけど運動音痴ですよ!?」
慌てているのがなんだか見ていて面白い。にやにやしている間にも、白い壁は迫ってくる。
「ほらほら、もうすぐだぞー。覚悟決めておけー」
「あ、ちょっと、待って、ま、ぁ、ああ――!?」
壁が迫り、少し涙目になってぎゅっとトリシャが抱き着いてくる。
バスの先端が壁に突っ込む。
前の方に座っていた客が、運転手が、バスの前方部分が消えていく。
白い壁が迫ってくる。
次の世界が、迫って――二人は、白の中に消えて行った。
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