最も美しい嘘の花①

 久留米くるめ千歌ちか

 

 桜並木高等学校一番の美人で、通称「高嶺の花」。あるいは「かぐや姫」。

 

 長い黒髪と姿勢のいい立ち姿が特徴で、成績もよく、品行方正。いつも静かに笑みを絶やさない。現実にいるのが不思議なくらいのその人は、一つだけ謎があった。

 告白されて断る。これだけなら普通の女性だろうが、彼女の場合は、告白してきた人間に無理難題を押し付けて断るのだ。曰く、下級生には大学入試の問題を解かせ。同級生には昼休みに学校を抜け出して「グランデノンファットミルクノンホイップチョコチップバニラクリームフラペチーノ」を買ってくるように要求する。最近では水平思考推理ゲームにはまっていて、それを出題しているそうだ。

 どうしてそんなことをするのか、聞いたことがある。


「だって、ただ断ったら「みんなの期待通りの私」ではなくなってしまうでしょう?」


 だそうだ。


 そんな彼女の話を聞きながら僕は、彼女をモデルにしたデッサン画を描く。

 そしてそれが終わると、


「気持ち悪い」


 彼女は僕が書いた自分の絵を破るのだ。


 自分が嫌いで、自分の見た目も何もかもが嫌いで、嫌いで嫌いで仕方ない。

 だから自分を描いた絵が、僕のスケッチであったとしても誰かの手元に残るのが気に食わないらしい。同じ理由で彼女は写真も大の苦手である。


「あーあ、さっぱりした。ありがとう、はしばみくん」

「いえ」


 彼女は知らない。

僕が、彼女に恋をしているということを。

 

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