三人目のゴマカシ
「よっ」
放課後、みんな帰って誰もいない教室でオレはイズミを待っていた。
相手の告白を邪魔するわけにもいかなかった。
そして、イズミが来たら今までのことを、自分のことを告白しようと思った。
オレは、女だったってことも。
イズミのことを女として、好きだってことも。
「告白、なんて答えたの?」
イズミの答えがどうであろうと、告白する気持ちは変わらない。でも、やっぱり気になる。
「ごめんなさい、って答えたよ」
それを聞いてやっぱり安心した。
「そっか。……オレ、イズミに話があるんだ」
「どうしたの?」
緊張。一呼吸。
「オレ、女の子だった。自分に、嘘ついてた……!」
突然の告白にイズミは驚いている。
まだ。まだ告白は終わっていない。イズミが好きだってことも、伝えなくては。
「そう……。気づいちゃったんだね」
「え……? それってどういう……」
予想していなかった返しが来た。その言い方だと、オレが女の子だってことを、イズミは最初から知っていたみたいな……。
「わかってて黙ってたんだ、私。マーちゃんが自分の心を男の子だって思い込んでるだけだって、知ってた」
「どうして!?」
わけがわからない。イズミが言っていることが。教えてくれれば今まで何年もこんな恥ずかしい勘違いなんてせずに済んだのに!
「ごめんね、マーちゃん。私ずっと、マーちゃんは男の子だね、って嘘ついてたの。だって、マーちゃんが男の子だったら、私がマーちゃんを好きな気持ちも、愛してる気持ちも、いつか叶うかもしれないって、思ったから」
衝撃だった。イズミはオレのことが好き?
イズミは目に涙をためている。……あああ、もう!
「イズミ、オレも!オレもイズミが好きだ! 女の子として。だから勘違いしてたんだ。女の子を好きになる自分は、男なんだって。だけど、オレは女だった。女だけど、イズミが好きだ。子供のころから今でもずっと、
「マーちゃん! ホント!? ……うれしい。マーちゃんと両想いだなんて、夢みたい。私はマーちゃんが男の子でも女の子でもよかったの。私が好きなのはマーちゃんだから」
抱きしめた。女の私よりも頭ひとつ小さな女の子を。――放課後、窓から夕陽が差し込んで、教室はオレンジ色に染まっている。グラウンドからは部活中の生徒たちの声が聞こえてきている。キスをした。静寂だった。
二人で帰る帰り道はいつもと同じはずなのに、今日はまったく別の景色に見える。
「でもさ、なんでみんなオレが女だってわかってんのさ」
サクラにしろ、イズミにしろ、子供のころからの付き合いだからまあ、仕方ないのかもしれないが、それにしてもである。
「だってマーちゃんの趣味、完全に女の子だし」
「え?」
「部屋とかみたら一目瞭然だよぉ。小物とかいろいろ」
「たしかに多少の小物はあるけれど、全然女の子の部屋じゃないでしょ。イズミと比べてもさー」
「私のは特別ね。マーちゃんに負けないように女の子意識してたし」
そ、そうだったのか。
「それにね、仕草がね。ときどき女の子でもドキッってするような色気があるよ」
「な、なんだよそれー!」
なんだかよくわからないけど、自分に嘘をつきながらも、自分は正直だったのかな。
「あ、そうだマーちゃん」
「ん?」
嫌な予感がする。イズミのこの顔は、オレに対して何か企んでいるときの顔だ。
「もう女の子だって自覚したんだから、言葉使い、なおしていこうね」
そうきたか。
「えー、いまさら、なんか恥ずかしいよー」
「そうね、まずは『オレ』っていうのやめようか」
実に楽しそうである。
「わ、わ、わたし……?」
顔が火照ってしまう。ダメだ。恥ずかしすぎる。せ、せめて……、
「ボク……じゃダメ?」
言ったとたん……。
「きゅーん!」
と、イズミが飛びついてきたのだった。
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