『類似ネタ』スチール・スネーク・フット
何人かの友人に作品を見せたところ、かなり評価は良かった。
そこで、一番の親友にこれを見てもらう事にした。彼は秀才が集う理系クラスでもトップの成績を収めているから、きっといいアドバイスを貰えると思っていた。
僕自身は文系の、普通程度の成績集団の中間くらいだ。
「でさ、皆に見せたところの評価はかなり良かったんだけど、メカニックな部分とかの意見はあんまり貰えなかったんだ。」
「ふーん、それで俺に持ってきたという訳か。」
頭の良い友達は、さも頭が良いって仕草でメガネをくいっと指で押し上げた。
「ストーリーはこうだよ。時は2030年、その頃にはゲーム環境も進化して、プレイヤーは直接ゲーム世界に入り込んでRPGやアクショントラップなんかを楽しんでいるって感じなんだ。」
「今から数えて、たった20年足らずでそこまでの科学的進歩があるっていう仮定は無理があると思うけどな。」
ほら。いきなりダメ出しがきた。
そうか、確かに2030年じゃあと20年しかない。ちょっと説得力に欠けるよな。
「そうかな? じゃあ、そこはもうちょっと先の年代に訂正しておくよ。」
いそいそとメモを取り始めた僕に、彼は得意げに付け足した。
「閉じ込め系のパニック物にしたいんだろう? ゲームキャラがバグでどうにかなった程度じゃ、あんまり危機感はないものな。」
やっぱり頭の良い奴は違う。他の友達の誰も言わなかった事を的確に指摘した。
僕自身も今言われて初めて気付いたっていう事は黙っていよう。嬉しくって、ついつい、話す言葉が舌足らずになってしまう。
「そうなんだ。プレイヤー自身がその世界に閉じ込められたって事になるから、臨場感も危機感も比べ物にならないって、すぐに解かるだろう? で、リアルじゃ有り得ない超人的な力を持つ人物だって、そういう世界になら自然に登場させられるんだよ。廃人とか呼ばれる凄腕のプレイヤーってのは実在するわけだし。」
ここからが、このストーリーの肝だ。いかに超人的なヒーローが登場するか、その活躍がド派手でカッコイイものか……。それを説明しようと思った矢先に、彼は手の平で喋ろうとしていた僕を制した。
「ちょっと待った。その設定は確かにオイシイかも知れない。だけど、実際のゲームシステムはどうなっているんだ? 閉じ込められた時間がたかだか数日程度じゃ、そこまで人々が恐怖を覚えることはない。かなり長期間閉じ込められる事にならなきゃストーリー的にも何も出来ないだろう。で、肉体の方はゲームの外側にあるとして、その間はどうなってる? 機械が延命処置をしているとしても、社会保障なんかの問題だってあるだろう、そもそもその時代の社会ってどうなってるんだ、バグで閉じ込められる事故が起きるって事自体がどういう扱いを受けているのかも知りたいところだし、そんな技術がゲームで使用されるくらいだから相当に科学も進歩しているわけで、都市の外観なんかも現代とはまるで違うんだろう? そういうのはどうする? なにより問題なのは、ゲームシステムだよやっぱり。人間の脳波をそのまんまゲーム内に構築する、そのプログラムはまぁ実現可能だろうが、長期間閉じ込められた場合の肉体の保存がネックだ。一年以上に及ぶとしたら、それこそ肉体はひどく衰弱するだろうし、すぐに社会復帰なんかありえないね。排泄の問題もある、なにより床ずれなんか起こして、肉体的には相当な負担があるはずだ。そういう事に配慮したなら、それこそ個人の家には収まらないような馬鹿デカい機械にならないか? コールドスリープとか言ってたけど、それにだって問題はあるんだ、水分を含む物体を凍らせると体積膨張っていう現象が起きるんだが、そこに生物を当てはめてみな? まずこの現象をなんとかする技術が必要になるだろう、それはどういう技術にするっていうんだ?」
僕は呆気にとられた。
「ちょっと待って、」
「なに?」
彼が何を言ったのか、一つ一つ反芻する。
そして、答えを待っている様子の彼に改めて向き直った。
「その前に、僕からも質問させてよ。」
「僕はわりと友達が多いほうだと思ってるんだけど、今挙げたような問題を気にするヤツって、たぶん君しかいないと思うんだ。」
彼に聞いたことは間違いだったかな、と思った事までは言わなかった。
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