私気予報

 テレビが喚いている。

 

 昨夜消し忘れてそのまま眠ってしまったせいだな、とまだぼんやりしている頭で考える。寝ぼけ眼で枕元の時計を見ると、もう九時過ぎだった。

 

 テレビが喚く。

 記録的猛暑が。熱中症対策を。晴れるでしょう。

 晴れるでしょう。

 晴れるでしょう。

 

 ちらりと窓に目をやる。カーテンが閉まっているけれど、隙間から明るく差す陽光ははっきりとわかった。薄暗い部屋のなかを漂う埃が光に照らされている。


 晴れてなんかない、と思った。


 相変わらずテレビは喚き散らしている。晴れるでしょう。二度寝を決め込んで布団のなかに潜り込んでもまだ聞こえてくる。消せばいい話だが、リモコンが遠い。起き上がるのも億劫だった。


 じっと騒音に耐えて目をつぶっていると、次第にうとうとしてきた。テレビの声が遠くなっていく。ぐるぐると螺旋を描いて落ちてゆく感覚。晴れるでしょう。晴れるでショーってなんだっけ、それとも晴れるで賞だったか。ハロルド賞みたいだ、誰だよハロルドって一体、ハロルド、螺旋、深い闇のなかに落ちていく感覚、

 そして、



 気がつくと目が覚めていた。テレビはついていなかった。寝ぼけ眼で時計を見ると五時過ぎだった。

 気まぐれにのたりと体を起こし、カーテンを開けて窓も開け放つ。


 まだ日は出ていなかった。けれど東の空は白んでいる。蝉が一声、じわりと鳴いた。


 たぶんいま、わたしは笑っている。

 大きく伸びをして、それから小さく呟いた。


「晴れるでしょう」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る