忘却探偵僕様ちゃんの思考実況

異世界転生小説は未知の世界でどのように生きればよいのかという教養小説の形式をとっている。ここで重要なのは異世界の知識をどのように学習していくかという態度がまったくブルジョア的だという点にある。自身の能力を労働力として計算することで商業の通路を作り国と家族を豊かにするという非の打ち所のない発想が例え悪の破壊の形態をとることで外敵と戦ったりお宝で一攫千金する形式であろうと変わりはない。そもそも転生ものの特徴は自身の持っていた現世の知識が異世界の価値判断によって剰余になった資産の活用法についての物語だからである。転生者は一見何かを学んでいるように見えるが実際は原理上無限にある異世界の資源を利用して資本を増やしたり浪費したりしているにすぎないのである。これは転生者の基本的な価値判断が偽善の皮が剥がれるだけで常識的な判断となにも変わらないというところに見てとれる。ある意味で異世界転生小説ほど常識にとらわれている物語もないのだ。小説の形式で「異世界」を語りうるためには常識的な配慮があるので。もし現実に剰余となるような知識や資本を持っていたら異世界に転生する必要などないのだ。だから異世界転生小説は東方のように剰余があるからこそ排除されたり忘却されたりする存在の楽園である幻想郷と正反対の形式なのである。それは転生するのと幻想入りするという移動方法の違いにもはっきりと現れている。異世界転生小説は骨の髄までブルジョア資本主義の復古運動にすぎない。『幻想再帰のアリュージョニスト』はインターネット上にあるコンテンツを資本として活用することで価値を生産しようとする現代的な異世界転生小説だといえる。しかしそれは剰余となる知識が幸運や偶然といったもになるかもしくは剰余が零になり「自由貿易」の可能性が開かれるかの二通りしかない。つまり現実が幻想を徹底的に搾取するという点でまたしても東方と正反対なのである。幻想が現実を搾取するためには資本が勝利する物語を諦めなくてはならないのだ。

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