夢の話

You

第一夜 妖精の館

 夢の中。友人と車に乗らなければならなくなった。友人といっても見知らぬ他人だが、私は彼を友だと思っている。しばらく乗っていると、赤ん坊が横に居ることが解った。友人はもういない。赤児は火の付いた様に泣き始め、それを警官に見咎められた。見ると、家の庭に——実際よりも庭は随分広く、家には縁側までがあった——交番があるのだ。変だとは思い乍らも、どうやらオムツを換えなければならない様だ。赤児が乗っている車だから、一つ位はあるだろうと探しても見つからない。警官はかす。


 ……何時の間にか螺旋階段を歩いている。石造いしづくりの塔である。私は前の人の後ろをついて行く。空を背景にしたである。何やら白い服を着た娘が背景に居る。青年が真ん中に居る。これも白いしたものを着ている。

 するとた場面が変わり、今度は両袖に林を持った、荒れた道がある。そこを走っていると、黒い服と白い服の二人の娘が居た。その途端、画面は黒くなり、黒い格好をした男が居る。ボサボサの髪で、何だか怒っている。いままで記憶を失っていて、取り戻した記憶に起因して激怒している様だ。真実とはいつも隠されているものか。黒い男は名前をZと謂うそうだ。


 『夢の中での夢』を見ていた。毛布も掛けずに昼寝をしていたらしい。それを叶えたいと、起きた時に、近くに居た女性に謂うと、微笑んで答えた。

「それはいこと。」


 『妖精の館』に居る。妖精の女主人、と謂った風な、小さくて恰幅かっぷくのいい人形の様なものに連れられて歩く。あちこちに、更に小さな可愛らしい妖精たちが飛んだりしているのだが、女主人が廊下の傍らの扉を開けると、外の白い光の中にと吸い込まれ、ひしゃげてつぶれ死んでいく者も居た。部屋に着くと箱が三つ並んでいて、その中に女主人と、あと誰かが入っていった。すると、それぞれの箱から、の狸みたいなものや、小さい丸い妙なものや、何だか解らないものが出てきた。私はそれらを、そのままにして部屋を出た。


 場面は変わり、陰鬱な部屋……木造の、くすんで煤けた、陽のあたらない……フードを被った、年齢・性別ともに不明な人が一人居る。そこに黒い服の少女が入って来る。人の前に並べてあった、半透明の、の様な形をした、黄色いものを作りたいと少女は思い、そう謂うと、その人は材料を籠に入れて渡して呉れた。人は以後どこかへ失せた。

少女はそれをねて大きめのものを作ったが、色が赤い。どうしたものかとたたずんでいると、そのを長くした様な髪の、全身が赤色で、蛙みたいな顔をしたモノが立っていた。それは戸棚と戸棚の間に挟まって居る。少女は恐る恐る、このを他と同じ黄色にしたいが、どうしたらいいか、と尋ねると、と出て来て、先ず二つに分けろ、という風な仕草をした。その指示に従い乍ら作業をしていると、何処からか老婆が一人来て、戸棚のガラス戸を開け、そこに入っているを取り始めた。泥棒じゃないかと思った途端、

「どろぼう!」

と少女は叫ぶ。すると、蛙面は老婆の方へ詰め寄り、あっという間にの形にしてしまった。そして苦悶の表情を浮かべたまま拉げている顔が、真ん中ら辺に付いている、その赤いを見乍ら、人間樹氷、という単語が思い浮かんだ。

「人間樹氷だ!」

と、またも叫んだ少女が、洋服ようふく箪笥だんす(の様なもの)に入ったそれを見つめていた。

 不図ふと、少女が窓を見遣ると、線で出来た単純な造作の……色の塗られていない丸い輪郭、瞳のない丸い目、細い楕円を曲げて笑って見える口……悪戯書きの様な顔が、窓枠からこっちを見ていた。一瞬ゾクリとしたが、急に笑いがこみ上げてきて、狂った様に笑い出した。そうしていると、『顔』もその目を、口とは反対の方向に曲げて笑った。いい奴みたいだ。

 男が入って来た。背の高い、鷲鼻わしばなの、目のとした気弱そうな男だ。少女に何か話し掛けると、少女は男に飛びついて、

「私を好きになって呉れたのね!」

と謂った。男はそのまま立ち上がると、右手の人差し指をかぎの型に曲げて、己の咽喉のどを引き裂いた。彼の意志ではなかった(はずだ)。倒れ乍ら思うことは「これからの人生は素晴らしい」というもので、それから「なのになんで死ななきゃいけないんだろう」と思っている。ああ、少女は『死』だったのだろう。

 

 と思ったところで目が覚めた。気分は何故か、いやに良かった。



               (起床)

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