第9話

僕はバスに乗り込んだ。 親子連れが僕の前の席に座る。 子供、4歳ぐらいだろうか、がお母さんに向かって一生懸命話しかけていた。 僕は微笑ましい気持ちになって、親子の会話を聞いていた。

「あのね、僕、ゼリー(じぇりぃーと発音していた)が好きなの」

「そう、どんなゼリー?」

「長くって、細くって、チュルチュルのやつ」

「いつもスーパーで買ってるやつ?」

「そう」

「何味が好き?」

「いちご」

「そう、じゃ、今日も買って帰る?」

「うん」

どうやら今日のおやつが決まったようだ。 僕は降りる停留所が近づいてきたので、降りるブザーを押そうと身構えた。 と、目の前の子供が

「僕が押す」と言って、ブザーを押してしまった。 どうやら僕と同じ停留所で降りるらしい。 僕は定期入れをポケットから出し、親子連れの後に続いて降りようとした。 突然、運転手が

「じぇりぃーですか?」と聞いてきた。

「えっ?」驚いて運転手の方をみると、運転手は細長い、駄菓子屋で売っているような、ゼリーを口にくわえている。

「えっ?」もう一度驚き、他のお客の方をみてみると、お客も全員同じようにゼリーをくわえていた。 

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