睡れる羽
遊月
《砂の街》1
秒針の音だけが淡々と響きわたる部屋で、
朝は遠い。
砂に埋もれた瓦礫だらけのこの《砂の街》は、夜に優しく夜が正しい、そんな街だ。
睡羽が生まれる何十年、或いは一世紀近くも昔の話、数世代に渡ってこの地一帯で紛争が繰り広げられていたという。ひとつの島国がふたつに分かれて争いを始めたというのだ。その紛争におけるそもそもの発端が何だったか、という事に睡羽は興味がない。知るきっかけも調べる術もない。ただ昔の人も愚かしい事をしてくれたな、とは思っている。何故なら、疾うの昔に調停が結ばれ紛争などは終わった筈のこの街に、未だ混沌と静かな狂気が我が物顔で
睡羽は再び寝返りを打った。ガラスのひび割れた窓の外から、錆びたような月と赤い星が今夜も睡羽を見下ろしていた。
がちゃり、と鍵の開く重たい音が聞こえて睡羽は跳ね起きた。兄の
「おかえりなさい!」
「ただいま。まだ起きてたのか」
「ん、なんか眠れなくて」
「……おみやげ」
言いながら叶哉が無造作に円卓に置いたのはパラフィン紙にくるまれたチョコレートだった。白銅貨一枚でその日を過ごすような兄妹の暮らしに、普段ならそんな物を買う余裕などない。睡羽は目を丸くして叶哉を見つめた。
「客がくれたんだ。妹さんにって」
「あたしに?」
銀紙に向かっておずおずと手を伸ばす睡羽の頭を、叶哉がぽんと撫でた。
「いつか溺死するぐらい食わせてやる」
口端で笑って言うと、叶哉は手をひらひらと振って自室へ引き上げた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます