第37話 僕の終わり
「それじゃあ、始めましょうか」
「お願いね」
ついに、奏さんの記憶を戻す日が来た。
「と、その前に、なんで沙奈江ちゃんが居るの?」
「あぁ、それは沙奈江さんにも後で話す事がある上に、僕達の面倒を見てもらうからです」
「また高リスクな事を」
「最悪、僕が沙奈江さんと話してる時に消えても、剣君がきちんと引き継いでくれる筈ですから。沙奈江さんもきちんと了承してくれましたから」
「ふ〜ん」
まぁ、本当の理由は別にあるのだが。
「奏さん。最後に、きちんと礼を言っておきます。本当にありがとうございました。今回の件と言い、剣君に戻った時に美桜を受け入れてもらえる件といい、本当に感謝してます。ありがとうございました」
「良いのよ。それより、早く始めてちょうだい」
「分かりました。この我妻聡夫、全身全霊でやらせていただきます」
始まる。僕が消える儀式が。奏さんの記憶を解放する儀式が。
「まず、奏さんのUSBを貸してください」
「ほい」
「それでは、書き写しを始めます。書き写し10%、20%、35%、40%、60%、80%、100%……」
「これで良いの?」
「取り敢えず、書き写しは終わりました。ですが、本番はここからです。まず、この書き写したUSBの内容を、僕のUSBにも書き写します。これで奏さんの記憶を持っている物は3つになります」
「ここからどうすれば?」
「奏さんのUSBを返します。それを金属部分を壊れない程度に握って、記憶の中の爆弾を消去するイメージをずっと持ち続けてください」
「分かった」
ここまでは順調。ここからが失敗出来ない。
「取り除きます」
一つ一つの作業を丁寧に、迅速に、負担をかけずにやっていく。記憶の爆弾は全部で14個確認出来ているが、多分まだあるだろう。それに、この作業が遅ければ、やっている途中で僕が消えて、奏さんの記憶すら無くなってしまう。それだけはダメだ。
「残り2個……1個……」
やっぱり、全部取り除いた後に出てくるのがあった。でも、これさえ取り除けば……
「ふぅ……成功です。これで奏さんの記憶は……もとどおり……で……す……」
意識が薄れ始めた。マズイ。
「沙奈江……さん……早く……やります……よ……?」
「本当に大丈夫なんだよね?」
「答えてる……時間が……惜しい……はや……く……」
「分かった。始めて」
沙奈江さんがここにいる理由、それは完全な記憶の回復。
沙奈江さんの家族が再び元に戻ってから、沙奈江さんの記憶は物凄いスピードで戻り始めた。だけど、最後の部分だけは僕がやらないと無理だ。だから、こうして呼んだ。
「はじめま……す……記憶の……コピー……50%……99%……完了……」
「USBを早くちょうだい!!」
「でも……リスク……が……」
「良いから早く!!」
強引にUSBを取られた。
「処理……開始……」
沙奈江さんのはそこまで複雑じゃないはず……
と、思っていた。だが、実際は奏さんよりも複雑で、失敗出来ない状態にあった。
(まずい……ほんと……うに……まずい)
「処理……2%……6%……10%……20%……30……%……6……0……%……9……9……%……か……ん……り……ょ……う……」
バサッと大きな音が聞こえた。
体が重い。動けない。
そうか。これが消えるって事なんだ……
前は眠らされてる時だったからなぁ……こんな経験始めてだ……
まだ……やりたい事あったな……
でも……これが……ぼくの……えらんだ……さい……ご……の……
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