第36話 残された時間
「8月ですね」
「えぇ、そうね」
「もう8月ですね」
「入って1週経ってるけどね」
という訳で、8月に入り、僕が消えるまでのカウントダウンが大きな音で聞こえる。
「明後日にやるのよね?」
「そうですね」
「早いものね」
「本当にそうですね」
なのに、こんなにのほほんとしている。まるで現実を見てないように。
「沙奈江ちゃんの記憶はどうなったの?」
「そうですね〜。両親と共暮らしを再び始めてから徐々に戻りつつありますよ?でも、大事な所はまだですけど。明後日までには全部戻すつもりです」
「そう。それは良かった」
と、そこまで言って、1つ思い出した。
「そう言えば、沙奈江さんが言ってた事なんですけど、結婚するのにきちんと経済的にも自立しないとさせないって言ってましたけど、アレって本当ですか?」
「あ〜、その話?本当よ。もちろん、剣には言ってないけど。あの子大学卒業したら結婚するとか言いそうだけどね」
「早く言ってあげてくださいよ……」
それを知った時の剣君が絶望するのが分かった。
「嫌よ。それするとつまらないでしょ?」
「うわ〜。腹黒」
「貴方にだけは言われたくないんだけど?」
「ですよね〜」
というか、僕腹黒く見られてたんだ。確かに強引に沙奈江さんの家族を元に戻そうとしたり、奏さんの記憶を元に戻して剣君にその情報を渡したりしようとしてたりしているけど。
「それで?用は?」
「用がなければ話しかけちゃダメなんですか?」
「なるほど。つまり特訓されたいのね」
「すみません、用を言うのでそれだけは勘弁してください」
いや、本当に辞めてほしい。
「用は、明後日に向けての確認です。USB買いました?」
「買った買った」
「奏さんの今の記憶への気持ちは?」
「早く元に戻してほしいものね」
「戻した時の約束は?」
「剣の知りたい事を全部話せばいいんでしょ?」
「記憶を戻した後の注意事項は?」
「2、3日私も貴方も寝続けるかもしれない。だけど、自力で起きない限り起こさない事」
「それぐらいです。これで準備は完了です」
「そう」
そう。これで僕も奏さんにやる事は終わった。後はもう沙奈江さんのサポートして、奏さんの記憶を元に戻して僕はもう出てこれなくなる。残りの人生を考えると、早い永眠だ。永眠と、言っていいのか分からないが、気分はそんな感じだ。
「それでは、僕は残りの時間を自分の、未来の為に当てるので」
「そう。ありがとね」
「いえいえ。それでは。また明後日に」
「えぇ」
そう言って僕は部屋に戻り、手紙に返事を書き、明後日を待った。
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