第31話 神橋家

あれから僕達は、警察に事情を話し、僕が犯人に心当たりしかないという事で翌日の情報提供を約束し、警察付きで各家に帰宅するという事になったのだが、沙奈江さんの家に誰も居ないという事と、奏さん警察の人にとてもいい笑顔で了解していた事もあり、今晩は家に泊まっていくことになった。

「奏さん。どうしてOKしたんですか?」

「だって部屋も余ってるし。それにその方が楽しそうでしょ?」

この人は楽しそうとしか思ってないのか。

「剣君なら大喜びしているでしょうね。なんせ彼女、剣君と付き合ってますから」

「……嘘よね?」

「事実です。なんなら全部教えてもいいんですが、流石に今日はやめときます。なんせ、昨日何度も何度も特訓させられて、その疲れが残ってますから」

「あら?嫌だったかしら?」

ここで反応すると後が怖いので無反応で過ごそう。うん。

「後、分かってると思いますが、奏さんと一緒に記憶を元に戻すはずだったのが彼女です」

「そう。理由は?」

「我妻千代子による記憶損失」

「そうだったのね」

「なので、あまり記憶の事を……」

「分かってるわよ」

「それと、もう後戻りも出来ません。今のを聞いて同情して彼女に譲ることももう出来ません。決意したあの日から、もう後戻りは出来ません」

「……分かってる。分かってるわよ」

そんな風に自分に言い聞かせる様に言われると、成功率に関わってくる。なんせ、本人の強い意思も成功条件の一つなのだから。

というか、同情していて沙奈江さんに変に気を使わせそうだ。




と、思っていた時が僕にもありました。

僕だって万能じゃありませんし。感情を支配、コントロール出来ませんし。

というか、完全に心配していた事の逆で、剣君の事で何故か盛り上がっていたお2人ですし。沙奈江さんそこの記憶ないはずなのに。本当にどういう事だ?

ちなみに、僕は部屋で1人アニメを観てました。本当に何もありませんでしたよ?奏さんと沙奈江さんの話し声がとてもうるさい以外は。




とまぁ、本当に夜這いも何もなかった夜が明け、僕は沙奈江さんを送っていく次いでに警察に条件付きの情報提供をし、帰りに僕としては初めて沙奈江さんの両親の元をアポなしで訪れた。

沙奈江さんの両親は訳あって沙奈江さんと別居している。というか、沙奈江さんの父親は剣君を一度会っただけで嫌っている。多分、娘の彼氏だからだろう。本当困った親だ。

「お久しぶりです。坂之上剣です。お話しなければいけない事があるので、急に訪れました。良ければ中に入れてください」

『うるせー!!早く帰りやがれ!!』

流石元ヤンキー。マイク越しでも怖い怖い。でも、引き下がる訳にはいかない。

「無理です。というか、最近沙奈江さんの家に行ってないみたいですし、沙奈江さんの現状ぐらい知っている方が良いんじゃないですか?条件次第では全て話しますよ?」

『うるせー!!沙奈江の事だけ話して帰れ!!』

「無理です。こんなに人の目を集めてるのに、これ以上の恥辱を味わうのは遠慮します」

『……どういう事だ』

「そのままの意味です。なので、早く入れてください。そうしないと、奥さんから聞いた抜け道使いますよ?」

『なっ!?そんなのを教わったのか?』

「えぇ。もちろん」

もちろん、使うつもりもないし、教わってもない。ただのブラフだ。

『分かった。入れてやるよ』

「ありがとうございます」

こうして、僕は第一段階をクリアした。でも、この先の方が大変なのは言うまでもない。

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