第14話 好き
「「「「「「「「「「おかえりなさいませ。奥様、聡夫様、仏殿。ようこそお越しくださいました。沙奈江様。」」」」」」」」」」
俺と沙っちゃんは本家にいるメイドに圧倒されていた。なんせ、昨日行った別荘にいるメイドの人数より多いのだから。
「さ。今日は疲れたでしょ。晩御飯を食べて、部屋に付いてるお風呂に入ってもう寝なさい。明日、聡夫と沙奈江さんは個人的に聞きたいことがあるから、10時には起きといてね。仏、案内よろしく。」
それだけを告げ、千代子は急ぎ足でどこかに消えた。多分、自室だろう。
「じゃあ、部屋に行こっか。」
「2人共。お願いがあるんだけど。」
「どうしたの?沙っちゃん。」
沙っちゃんのお願いは断らない方がいいというのが、俺の過去から学んだ教訓だ。
「私と剣君で、同室させてもらっても良いかな?」
「「はい?」」
待て待て待て待て。意味がさっぱり分からんぞ?
「え~っと。なんでかな?」
「それって、私と同室は嫌だから、って事かな?」
「なんでそうなるのさ!!嬉しいよ!!でも、なんでかなって思っただけだよ!!」
「嬉しいんだ……滅べばいいのに……」
仏が壊れた。俺に責任はないのに。
「別に理由はないけど、それじゃあダメ?」
沙っちゃんは上目遣いを繰り出した。俺にクリティカルヒット。効果は抜群だ!!俺は降参した。
「分かったよ。というわけで、案内よろしく。」
「じゃあ、お前の部屋な。」
そう言った仏は、憎しみが籠りまくった声で俺に言い、部屋を案内してくれた。なんだかんだで仏は良い奴だ。
「飯は何時からがいい?」
仏が今までにないぐらいの低い声で聞いてくる。やっぱ憎まれてるな~。
「沙っちゃん。どうする?」
「1時間後で、良いかな?」
「了解。1時間後にサプライズ付きで持って行かす様にメイド長に言っとくよ。」
サプライズという言葉に疑問を持ちつつ、俺たちは割り振った部屋に入った。
「いい加減本当の事を話してくれてもいいんじゃないの?沙っちゃん。」
部屋に入って、一息ついてる時に俺は沙っちゃんに切り出した。
「流石剣君。騙せなかったか。」
「当たり前じゃん。。」
そう言ってやると、沙っちゃんは顔を真っ赤にしだした。ヤバい、俺も恥ずかしい。
「剣君は、我妻氏が私をからかった時の自分の表情を覚えてる?」
「自分の表情は見えないから覚えてないけど、沙っちゃんの可愛い顔なら覚えてるよ。」
「真剣な話をしようとしてる時に茶化さないでよ!!」
「ごめんごめん。」
ぶぅ〜と頬を膨らましていじけてる沙っちゃんに対し苦笑いで、ごまかしているが、もちろん覚えている。時間が戻った時の話だ。
「私ね、観察力はある方だと思うんだよね。それで、我妻氏がはぐらかして、剣君たちが飲み物を吹いたときに、剣君はその場に関係のない事を考えてた。まるで、何かに巻き込まれたかの様な表情をしてた。」
当たっている。何故巻き戻されたのかを考えていた所だ。
「ここからは、私の推測で本音。もしかしたらここで止めた方が良かったって後々後悔するかもしれない。それでも聞く?」
答えは決まってる。
「聞くよ。」
沙っちゃんがわざわざこうして話してくれる。それなら、俺もそれ相応に応えたい。だから、
「じゃあ、全部話してくれるよね?」
そう言われなくとも、全部話すつもりだった。
沙っちゃんに俺の知り得る限りの全てと、俺の憶測を話した。我妻家の事、池永家と我妻家の関係、仏が俺の誘拐事件に心当たりがあるかもしれないという事、車中での出来事などだ。
「なるほどね。だから、仏君は我妻氏の事を様付で呼んだり、剣君があんな顔をしてたのか。」
沙っちゃんは一人解決したかの様だった。
「私ね、今の話を聞いて、余計に思った。剣君。私とここから脱出しない?」
「え?」
「私ね、我妻氏に会ってからずっと嫌な予感がしていたの。まるで、後ろに何かがいるかの様な気が。だから、もし私と逃げてくれるなら、」
そこまで言って、沙っちゃんは手を後ろに回して、俺の目だけを見てきた。とても綺麗な、俺の何もかもを諦めたような目ではない、負けてないような綺麗な目で。
「今晩の晩御飯を食べないでおいてくれる?」
ここまで聞いて、断るのは逃げと同じように感じる。逃げたくなかった。沙っちゃんからは。
「分かった。」
「ありがと。」
すると、俺の唇に何かが振れた。今のは、間違いなく……
「沙っちゃん……?」
「私の初めてだよ。私の好きな人への。」
好きな……人への……?
「さぁ~て。晩御飯遅いな~。もうそろそろ1時間が経つのに。」
俺も沙っちゃんが好きだとは言えなかった。だけど、嬉しかったのは間違いじゃない。
「沙っちゃん。それじゃあ、逃げる準備を……」
「お待たせいたしました~。ご夕飯をお持ちしました~。」
俺と元気なメイドさんの声が被った。
それから、何故か誰も話さない時間が流れ、メイドさんが、喋った。
「逃げるってどういう事ですか!?」
元気なメイドさんが慌てふためきながら聞いてきた。
「あ~あ。見つかった。剣君の負けだね~。始める前に見つかってどうすんのさ~。」
沙っちゃんが、からかうような口ぶりでフォローしてくれた。マジサンキュ。
「え?ゲーム?一体何のことですか?」
この対応はやはり、新人なのだろう。
「沙っちゃん。話す?」
「いいよ。話して。」
内容は丸投げされた。まぁ、さっきは助かったからいいけど。
「ゲームの内容は、俺がこの家の中を、誰にも見つからずに探索できるかどうかの賭けをしてたんだよ。」
「なるほど~。それは邪魔をしてしまい、すみませんでした。」
完全に嘘の情報を信じた新人メイドさん。チョロイな~。
「謝らなくていいよ。それより、君の名前は?」
「申し遅れました。私、池永美桜(いけながみお)と申します。美桜の|美(み)は、美しいで|桜(お)は桜と書きます。お久しぶりです、聡夫お兄ちゃん。」
「おいおい。君は池永家の人間だろ?なんで、俺がお兄ちゃんなんだよ?」
そう返すと、美桜ちゃんは泣きそうになった。
「やはり、何も覚えてはいないんですね、お兄ちゃん。私が元我妻氏の人間で、貴方の妹であり、貴方とずっと一緒にいることを誓ったことを。」
「はひ?」
全く意味が分からない。俺の妹?こんなに可愛い?ないない。それに、許嫁っぽい言い方してたし。
「剣君。どういう事?まさか、隠してたの?」
「沙奈江様。お兄ちゃんが知らないのも無理ありません。なんせ、私は秘匿人物なのですから。」
なぜか、初対面の沙っちゃんに打ち明けたぞ?大丈夫なのか?
そして、何故か自分の事を打ち明けてくれた。どうやら、俺が誘拐されてから池永家の養子に入ったそうだ。このことを知ってるのは、我妻夫妻、仏、池永家当主夫妻だけだそうだ。
「お兄ちゃん。一つ、お願いがあります。」
「いいけど、その前に俺からも一つ。タメで話してよ。堅苦しいのは嫌だし。」
「分かったよ。それで、私のお願いは、私をこの家から連れ出して。」
「「えぇ!?」」
何故だ。この子が出ていく意味。まさか……
「私は、池永でも、我妻でもなく、お兄ちゃんと居たい。だから、連れて行って。お願い。」
「分かったわ。」
「本当ですか!?」
「えぇ。その代わり、私たちのいう事を絶対遵守してもらうけど。」
「分かりました。」
「それじゃあ、晩御飯を食べず、夜中の3時にこの部屋に来て。」
「それじゃあ、その時間に。」
そう言って、美桜ちゃんは帰って行った。
「本当に連れて行くの?」
そして、また俺の意見が通らなかった。言う暇もない電光石火だったけど。
「えぇ。この際、使えるものは全部使うつもり。」
やっぱ、沙っちゃんは策士だな。
「取り敢えず、非常食でも食べながら時間になるまで待ちましょうか。」
俺と沙っちゃんは、沙っちゃん持参のカロリートレヨを食べつつ、どう脱出するか考えながら、美桜ちゃんが来るのを待った。
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