Take‐37 映画『わたしは、ダニエル・ブレイク(I, Daniel Blake)』(2016)は面白かったのか? ──おそらくはこの一年でベストの映画──

 たまにはしっぽりと。

 皆様、お元気でしょうか。ペイザンヌです。タイトルで遊ぶならば『わたしは、ペイザンヌ(I,Peizannu)』ってとこであります。


 元気ってのは良いことです。

 元気に少し余裕があるような時は、誰かを元気にしてあげることだってできます。


 などと、そんな教科書通りの言葉を「ならばおまえはどないやねん」と自問しつつ、そんな箴言をくねくねと指でもてあそびつつ、この映画『私は、ダニエル・ブレイク』を観ました。


 逆の意味で──といいますか、そんな言葉全てが正しいわけではないのだぞという、そんなことがじわっと伝わってくるそんな映画です。


 つまり──自分が元気であろうがなかろうが──他人を少し元気にしてあげることは結構できるということ。


 まあそもそも人間なんてシロモノはそうそう元気な時などあるはずもないわけで、本当に元気な時が2割くらいだとすれば、元気なをしてみせているよってのが8割くらいかなぁ、せいぜいそんなもんじゃないかって考えがどこか頭にあります。


 俗にリア充と言われるピーポーであれ、いいとこ見積もってせいぜい3:7くらいだと思うのね。下手をするとかえって逆に1:9くらいの人もいるかもしれない。

 変な自覚症状っていうのかな、他人に比べ自分は少しはマシな方だろって考えの人、そんな方ほどむしろそっちの傾向にあるような気がします。どこか頭と心が噛み合っていない──って言うんですかね。


 少しネガティブな考えだと思われるでしょうか? 以外とそうでもないんですよ(笑)


 そう思ってた方がね、むしろ些細ないさかいくらいであればそっと流すことができるんですよ。また逆にちょっとしたことでふわっと胸にくることが増えたりね。

 空気空気とよく言われたりもしますが、日本人の言う空気ってその辺がすごく関わっているような気がします。読めよ! と強要されるモンでもなく、読もうと努力するってのも僕的には何か違う。それならばむしろ「さっきはうまく読めなくてごめんな」なんてことを後々言えるやつの方がよっぽど空気として心地いい。ちょっとぐっときたりもするってもんです。


 勘違いされると困るのですが、ここで言う元気ってのは決してドヒャーッピーヒャララーッ! てやつでなくフト一人になった時、少し口元を弛めてうんうんって頷けたりするような、そんな些細な、それでいて明日に繋がるような元気のことですね。


 さて、サブタイトルにも入れましたがこの映画、個猫的にはこの一年で、いやひょっとしたらここ数年で観た中ではおそらくベスト。思わず、改めて私めの「見たにゃんリスト」を見返してみましたがやっぱり群を抜いて良かった。


 内容的には別にたいした事件が起こるわけでもないのに、もうね、十分に一回、下手すると五分に一回くらいの割合でクッとなんか締め付けられそうになる。


 クックッグッ、クッ、ググッ、グーッッ、てな感じのもはやラマース法感覚。


 なんてゆーかですね……観てる間ずっと自分という殻の中身? それが全部液体化してしまってるっていうのか、それが常にゆらゆらゆらゆら動いてるんすよ。イヤホント、過言じゃなくて。ちょっとでもグラッときたらもう大変──溢れそうになるんですね。


 主人公のダニエル・ブレイクは大工さん。

 心臓病で倒れて働けなくなり、保険金が下りるのを待ってるわけですね。

 が、なかなか下りない。

 「あっちへ行って」「こっちへ行って」「パソコンからでないと申請できない」なんて皆様も経験があるように何かと面倒くさい。特に御老人なんかはよくわからなかったりする。


 んで、ようやく下りるかっていうとそういうわけでもなく。


 それでもまあ彼はしぶしぶながら言われた通りにするんですよ。単なる頑固なじいさんってわけじゃあない。


 けれどそんな時、自分と同じように融通のきかない役所員にぞんざいに扱われている子連れの女性を見かけて──


 てなストーリー。


 予告にもある場面なんですがとある「ミートソース缶」のくだりなんて、・不意を突かれたため、もうね……。「えっ? えっ? なにやってんだよ──おいおいっ!」ってこっちが驚いちゃったの何の。この時点でね、もう完全にその場にいるんですよ、僕も。いつの間にか映画の中に入り込んじゃってもはやその場で眺めてるんですね。

(なんて書いちゃいましたができれば予告なんか見ずにそのまま本編を鑑賞してほしいです……)


 主人公の隣に住んでる黒人の若者とのやりとりも時を追うごとにヒッヒッフーのグッグッグーなわけで、見てるこちらも笑みが浮かんできます。


 いつも玄関前にゴミを置きっぱにしたり不在届けを勝手に押し付けられたり──やいのやいの喧嘩ばかりなんですが、時には扱い方のわからないパソコンのことを教えてあげたり、最後の方では「あのじいさん最近文句いってこねえな。元気ねえのかな……」なんて心配してあげたり。


 我が国でも御近所がらみといえば昨今なんとなく恐ろしいイメージしかわかなくなってきてるのも確か。


 この日本においてそんなことは少しおかしいんちゃうかなと寂しさを感じておりますが、先日も騒音のことでハンマーを振り回したりして悲惨な事件が起こったばかり。


 こういった忘れかけたものを取り戻す日はいつの日かまたやってくるんでしょうか……ね?


 調べてみると主人公ダニエル・ブレイクを演じているデイブ・ジョーンズという俳優さんは、道理で、とゆーか、コメディアン畑なんですね。


 ともすれば重いだけの話になるところ、おもわずクスリとなってしまったり、始まってすぐ感情移入できてまうのもすごいわかる気がしますわ。

 次第に「すまんね」とか「ああ、ありがとう」って肩をポンポンと叩く──それだけの仕草が、いちいち「クッ」ってなっていっちゃうんですよ。


 あー、こういうことって大切だわ。って。


 あまりネタバレはしたくはないんですが、とあるシーンで「駄目だ、これは売らない」って台詞があるんですが、ああいうのもすごくイイ(やべ、またクッときちゃった)。


 また、ある人と喧嘩するんだけど暗転して(場面転換は全てF.O.とf.I.で構成されておりまさにお芝居を見てるようです)次の場面ではもう仲直りしてる──など、贅肉を剥ぎつつもその間二人に何があったのか、こちらに想像させる手際も良かったですね~。


 私自身もなんかフト気付くと部屋の真ん中で何をするわけでもなく立ち尽くしてしまう癖が最近ありましてね(笑)ラスト近くでは思わずドキッとさせられる場面もあったり──


 見終わった後、結末とゆーか落としどころだけが少ーし(だけ)浮いてるんちゃうかなとも思いましたが、「俺の言いたかったことって、たった、これだけなんだよ」とも取れますし、そもそももうラストシーンまでにね、こっちはさんざんクッククックとさせられ通しでしたんでね、ええ、もう全然いいんすよ(笑)


 ん~、書きたいことがたくさんあると逆に書けなくなってしまうもんですね。まあこれくらいの長さがちょうどいいんですけどね(いや、いつも余計なこと書き過ぎだから……)



 ああ、そうだよ。そうなんだよ。これが映画なんだよ──ってのをホンっト、思い出させて頂きました。




 さて間もなくG.W.に入ります。皆様ご計画はお決まりでしょうか? 『レディ・プレイヤー1』もいいですが(これはこれでめっちゃ楽しみなんですがね……はっはっは)たまにはしっぽりとこういう映画もいかがでしょう。


 もし目の前に300本あってお迷いの方がおられましたら私は迷わずコレをお薦めしたいですね♪


 きっとリフレッシュした連休明けには、またいっそう人に優しく、そして誰かを元気にしてあげることができることでしょう。


 よい連休をお過ごしくださいませ( ̄▽ ̄)






【本作からの枝分かれ映画、勝手に三選】



★『スミス都に行く』(1939)

 ……なぜだかフトこの作品を思い出してしまいました。

 本作で主人公ダニエル・ブレイクをたらい回しにした役所の人たちにも「あ~っ!(怒)」と憤りを覚えましたが、この映画のジェームズ・スチュワートのように──公の方、また、お上の中にも、そんな人ばかりでは、セクハラ発言する人ばかりでは──ないのだぞ……ということを……少しは……期待したいです(笑)

『ロッキー』のラストを見てもこの映画のラストをいつも思い出すんですよね。ははぁ~と唸った実に素晴らしいラストシーンでした。


★『プレシャス』(2009)

 ……黒人で丸々と太ったおデブちゃんな女の子が主人公。まるで「赤毛のアン」ばりにいろんな妄想癖のある彼女でしたが、その裏に隠された彼女の過去と現実は言葉にできぬ凄惨なものがあり──。


 そう、苦しんでるのはもちろん老いた者ばかりではありません。


 '80年代後半のニューヨーク・ハーレムが舞台なので、本作『ダニエル・ブレイク』よりもさらにハードな現実を生きている主人公。自分にとってはあまりにかけ離れたものがあり感情移入するなんてこと自体おこがましいのですが、まだまだ日本でもこのような痛み苦しみにもがいてる少年少女がいるかもしれないと思うと……。

 特に主人公を支える先生役の女性がとても光っており、ケースワーカー役でマライア・キャリー、またレニー・クラヴィッツといった有名アーティストも出演しております。


★『生きる』(1952)

 ……まあ皆様もきっとどこかで多少は経験されてるでしょう「たらい回し」といえば黒澤明御大のこの映画を思い出さずにはいられないわけで。


 この一年のベストと言い切った『ダニエル・ブレイク』を越えられる作品は我が日本のこれしかないだろ、と。


『七人の侍』も良いけれど、こちらもホンマに世界に誇るべき一本ですわな。老会社員のストーリーなのに「ぶっ殺すぞてめえ!」と言わんばかりの突き刺す気迫がガンガン伝わってきますからね。こんな映画はもうおいそれと出てこないでしょう。


 ブランコのシーンなど、さんざん名場面もありますが、この映画のファースト・シーンをまだ味わってない方は幸せです(笑)

 いや~、本気で椅子からぶっ転げそうになりましたからねぇ。(そして丁度中盤でまたひっくり転げ、そしてまたラストでぶっ転げさせられると……)。いやはやなんとも筋肉痛必至の一本。


 ああ、また観たくなってきたなぁ……。

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