キキさんのアルバイト

ロキ

第1話

|◇ 第一章 ◇

~~ キキさん、アルバイトを志す ~~



01.


 彼女は、名前のない存在としてこの世に生まれ出た。

 知性は低く、言葉も解さず、世に仇なすモノとしてどこかの森の中を彷徨っていた……らしい。

 後になってマスターに「不幸の中で亡くなった子供たちの霊が形作った存在」だったと教えられたが、生まれる前の事はもとより、生まれてからマスターに会うまでの記憶すら、彼女、キキさんは曖昧にしか覚えていない。

 だから、マスターに出会い、名前をもらって、仲間を得て、それで初めて自分は「生まれた」のだとキキさんは思っている。

 マスターは冒険者だった。

 各地に残る未踏の地を探索し、貴重な物品を得る。文明の中に生きる者たちにとって害をなす存在を排除し、報酬を得る。そうやって暮らしていた。

 最初の出会いは、本当はマスターが自分を退治に来た事から始まったのだろうと、キキさんは考えている。

 しかし、マスターはキキさんを、いや、その時にはまだ名前の無いモンスターでしかなかった彼女を排除しなかった。逆に、名前を与え、仲間へと誘い入れた。

 キキさんは三人目の仲間だった。

 仲間は、最終的には五人に増えた。皆、キキさんと同じような名前の無いモノたちだった。

 マスターはその全員に、名前と仕事と、そして生き甲斐を与えた。

 尊敬するマスターと、敬愛する仲間たちとの冒険は、キキさんにとって本当に幸福な時間だった。

 色々なところへ行った。色々な事をした。辛いこともあったが楽しいことも多かった。そんな時間を彼女たちは過ごし、成長していった。

 そのマスターが異世界に旅立ってから、もう随分と永い時が経った。

「必ず戻ってくるが、それがいつになるのかは解らない」

 マスターはそう言って、キキさんと仲間たちに、冒険で得た全ての財産を残し、自由に生きるよう命じて旅だった。

 もちろん仲間たちは、みんなマスターに着いて行きたがったが、別の世界を渡り歩く能力はマスターしか持ち得ない。旅を何よりも愛するマスターの気持ちを汲んで、心より尊敬する者を見送ることを、彼女たちは涙ながらに決意した。

 マスターが行った後。キキさんを除く四人の仲間は、拠点だった館を去った。もちろん、マスターが帰還した暁には再集結しようと誓ったが、全員、何をすることもなく館に篭っているような性格ではなかったのだ。

 みんな生まれた時には力弱かった者たちだが、マスターとの冒険を経て大きく成長し、独り立ちするには十分な力量を養っていた。四人は旅費は旅先で稼ぐと言って、当面の路銀だけを手に、各々旅立っていった。

 独り、キキさんだけが館に残った。

 彼女の性格と、そしてその能力は館の維持管理に向いていたし、いつになるか分からないとはいえ、マスターの帰還を寂れた無人の館で迎えるわけにはいかないと、キキさんは考えていた。それに、旅に出た仲間たちの帰る場所だって必要だ。

 そのような理由で。

 キキさんは今、一人で館に住み、マスターの帰りをひっそりと待っていた。



02.


 館の中心には「円卓の間」と呼ばれる広間がある。

 かつてはマスターと五人の仲間が会議室兼リビングとして使っていた。広い室内には六人がけの円卓が置かれ、重厚な入り口のドアから見て左側の壁にはこれもまた重々しい木製のキャビネットが設置され、右側にはレンガで作られた壁型ペチカが作り付けられている。

 その日。

 ドアの正面の壁にあるガラス窓の外は既に暗くなり始めており、ペチカに熾になって残った薪とレンガに蓄えられた熱が、忍びこむ冷気にだんだんと押し負け始めていた。

 キキさんは円卓の自分の席に座り、綴じた書類をめくっていた。

 その表情は浮かず、しばしばため息を付いている。

 キキさんは、30歳前後の人間の女性を思わせる見た目で、長身でスレンダーな体型をしている。灰色っぽくも黒っぽくも見える長い髪を、頭頂は飾り気のないカチューシャでまとめ、さらにうなじの上あたりで色気のないリボンで縛っていた。

 特徴的なのはその耳で、長く尖り、髪と同色の羽毛に覆われていた。また、専用のスリッパを履いているが、そのふくらはぎには鱗が見え、足先には鋭い蹴爪があった。

 レンガ色の厚手のブラウスと紺のロングスカートは、上質で丈夫な生地から作られ、その上に肩まで覆う白いエプロンを着用している。

 館の家政。それも掃除から帳簿付けまで全てをこなす彼女の、それは仕事着だった。

 浮かない顔のキキさんは、一度手元の書類から目を離し、円卓の正面に置かれた一際立派な椅子を見た。かつてそこに座っていたマスターは、しかし今はもう、居ない。表情を引き締めもう一度、書類の数字を指でなぞる。

 そしてキキさんは再びため息をついた。

 家計簿に記された数字は、財産が目減りしていることを無情に示していた。

 マスターが去った後、キキさんは館の完全な維持管理を最優先として働いてきた。財産はかなりの量が残されていたし、今までは外に出て金を稼がねばならない理由が無かった。

 しかし大きな館である。その維持にかかる費用は決してゼロではない。洗剤一つ取っても、無料では手には入らないのだ。

 無駄遣いをしてきたつもりはなかったが、それでも一人で生活する無聊を慰めるために、趣味の機織りに使う糸などはたまに買っていたし、時には酒を始めとした嗜好品を購入することもあった。

 夜の闇の中でしんしんと降る雪のように。

 館の維持費用は少しづつ、少しづつ、積もっていった。そして朝、気づいた時には風景を真っ白に染めている雪のように、突如としてキキさんの目に映ったのだった。

 もちろん、しっかり者のキキさんに管理されている家計簿である。まだまだ、すぐに金に困るという段階に来ているわけではない。

 だが、マスターの帰りがいつになるか分からない以上、これは手をこまねいていていい問題ではなかった。

 もし万が一、マスターが帰った時、資金が尽きて館の維持管理がままならない状態になっていたら。

 そんな考えが頭をよぎる。

 資金管理の失敗。それはキキさんにとって耐えられない大失態である。

 キキさんは家計簿を閉じ、席を立ってキャビネットの定位置に戻した。

 チリひとつ無い室内を静かに渡ってドアの前まで行き、円卓のマスターの席に向かって一礼をしてから、完璧な作法を守って部屋を退出した。

 ドアが閉められた一瞬の後。誰もいなくなった円卓の間に、錠を下ろす音が重々しく響き渡った。



03.


 キキさんは仕事と私事をきっちりと分けるタイプである。例え館に一人で住んでいても、仕事中は独り言ですらですます調になる。そんなキキさんがスイッチを完全にオフにする場所の一つが彼女の私室だった。

 もとより性格が細やかで、何よりも片付いている状況を好む彼女であるため、私室も散らかっているわけではない。しかしそれでも趣味などのために少なからぬ物が貯めこまれており、そこは現在の館の中で、最も生活感のある空間になっていた。

 全くそこは完全に、キキさんのための部屋だった。

 部屋の三分の一を、書見のための机と巨大な本棚が占め、残りのスペースには、趣味である機織りや服飾のための織り機や作業台、機材などがまとめられている。多くの布や衣服が収められた行李が積まれ、隅には服や靴を作成する際に使用する木型がいくつも並べられていた。

 仕事上の彼女しか知らない人が見たら、少し雑然としているというイメージを持つかもしれない。実際には、物の多さを考えると非常によく整頓されているのであるが。

 奥にさらに一部屋あり、そこはベッドとクローゼットが置かれた寝室となっている。

 かつてマスターから管理を任されたマスターキーを金庫へとしまい、キキさんは寝室に入っていった。

 そこで仕事着であるエプロンやブラウスを脱ぎ、ベッドの上でたたみ始めた。

「まったく、ままならないな」

 女性にしてはやや低い声で、彼女は呟いた。仕事中の丁寧な喋り方ではない。

「館の管理だけしていたかったが、仕方がない。次善の策を取るしか無いか」

 綺麗に折りたたまれた衣服を、洗濯物を入れるカゴに放り込み、半裸のままクローゼットを開ける。

 スカートも脱いでいるため、ボルゾイ犬のような長い尻尾があらわになっていた。

 キキさんは、クローゼットいっぱいに並んだ服から、「カジュアルな外行き」として自作した白のブラウスとシックな色調のスカートを出した。

 着替えながら、彼女はまたひとりごちた。

「バーに行けば、アルバイトの口くらいは教えてくれるだろうさ」

 館の維持管理作業に支障を来さない程度のアルバイトで、管理費を稼ぐ。それがキキさんが考えた「次善の策」だった。



04.


 ブラウスの上に、焦げ茶の皮のロングコートを羽織って、キキさんは館の外に出た。

 針葉樹が立ち並ぶ、最果ての森と呼ばれる森の奥に、彼女たちの館は建っている。

 もしも迷い人がこの館にたどり着いたら、きっと無人だと思うだろう。荒れてはいないようだが、こんなところに住んでいる者のあるわけがない、と。

 季節は初冬。

 数週間前から降り始めた雪は、ついに根雪となって、館を森を、白く飾っていた。冬至にはまだ何日もあるが、しかし日が落ちるのは早くなっている。仕事を終えてから間もない時間であるにも関わらず、既に空は暗く、地表近くに赤紫の残光を残すのみとなっていた。とはいえ雪の反射があるため、夏の夜空よりは白く、明るい。

 キキさんは館のドアに二つ取り付けられた鍵を両方とも施錠し、鍵は小さなハンドバッグに入れた。もう何年も配達物など来ていない、雪が積もった郵便受けの中を点検し、彼女は外出の支度を終えた。

 前庭を渡り、館の周りにぐるりと植え巡らされた低木の垣根を越えてから。

 彼女は息を吸い、目を閉じた。

 闇が、質量を持って身体を包み込む、そんなイメージを思い浮かべる。闇には形があり、それはまるで大きな一対の翼のようだ。

 キキさんの姿は、やがて薄い闇に覆われたように輪郭がぼやけ、本来の彼女とは似ても似つかぬ、黒っぽい、大きな一対の翼のような姿となっていた。羽根を羽ばたかせ、空へと舞い上がる。ゆっくりとしたスピードである程度まで上空に行くと、次の瞬間にはその姿を鋭い三角の羽根に変え、普通の人間の目では追えないほどの速度で飛び去っていった。

 輪郭のぼやけた薄闇が飛び去っていった後、辺りはまるで何もなかったかのように静かで、やがてまた雪が降り始めた。



◇ 第二章 ◇

~~ BAR.ブレイブハート ~~



01.


 日が暮れた街。申し訳程度に灯された街頭が、暗闇のなかにボンヤリと立っている。そんな街外れの公園に、黒い一対の翼が音もなく降り立った。

 石畳の上で、輪郭の定かではない黒い翼は、自らを包み込むように円錐状に形を変え、そしてその姿を消した。

 闇が消え去った後には、女性がひとり佇んでいた。

 人気のない公園で、それを見ていたのは野良犬だけ。

 女性は、長身でスレンダー。灰色にも黒にも見える長い髪を、背中あたりで少しだけ色気のあるリボンでまとめていた。

 髪から突き出た耳は長く尖り、髪と同色の羽毛で覆われている。

 焦げ茶の皮のロングコートを纏い、同じ素材で作られている小さなハンドバッグを手にしていた。

 空から降り立った女性、キキさんは、唸りながら威嚇する犬を、切れ長の眼で見据えた。途端に犬は、尻尾を股の下に入れて、街頭が薄く揺らめく光の下から逃げ出していった。

 彼女は、何事もなかったかのように、公園の外へ向かって歩き出した。

 そこは閑散とした住宅街で、ポツリポツリと明かりの漏れている窓が見える。宵の口とあって、若いカップルや、長引いた仕事の帰りである年配の男性が、少しばかりだが道を歩いていた。

 キキさんはそれらの人々とすれ違いながら、迷いのない足取りで進んで行く。

 キキさんの進む先には、周りの住宅とは少しだけ雰囲気の違う、小さな建物があった。

 そこは、酒瓶や酒樽の意匠と「ブレイブハート」という文字が透かし彫りにされた金属の看板がかけられた、石造りの目立たないバーで、古いのだろう、街の風景とよく調和している。

 キキさんは、薄くライトアップされている看板の下のドアを開けて、中に入った。

「こんばんわ」

 店内は照明の抑えられたシックな雰囲気で、カウンターの他は、数人掛けのソファーとテーブルが何脚か置かれただけの小さなバーだった。

「いらっしゃい、……おう、キキさん、随分とご無沙汰だな」

「お久しぶりです。ホホ、ちょっと、お金がピンチでして、あんまり贅沢が出来なかったんですよ。」

 マスターは、白のワイシャツに深いV字襟の黒ベスト、そして腰にはベストと同色のロングエプロンを巻いたバーテンダースタイルで、酒瓶が並ぶカウンターの中、グラスを磨きながらキキさんを迎えた。

 服装はどこからどう見てもバーテンダーなのだが、しかしマスターの見た目と雰囲気は客商売のものとは思われない。

 むしろ、そう、熊を連想させる。

 大柄で、服の上からわかるほどの筋肉質。髪も髭も濃く、器用に優しくグラスを磨いているその指は、しかしそんな繊細な作業をしているとは思えないほど節くれだっていた。

 だが話をしてみると、声には人に安心感を与える優しさがあり、饒舌ではないが、客に会話を楽しませる心配りと知性を感じさせるものがある。

 酒の種類も知識も豊富で、価格はそこまで高くない。キキさんはこのマスターを気に入り、外でお酒を嗜みたくなったら、まずここに来ることにしていた。信頼を寄せるようになってからはいろいろと深い話もし、相談に乗ってもらったこともある。

 マスターがカウンターから出て、キキさんが脱いだコートを受け取り、入り口にあるツリーハンガーにかけた。客はキキさんひとりだった。

 カウンターに座り、キキさんは言った。

「お金に困っているものだから……」

 マスターが口を開いたのも、同時だった。

「お金に困っているのだったら……」

 一瞬の沈黙の後、キキさんが譲る。

「お金に困っているのだったら、ちょっとアルバイトでもしてみないかい?」

「……それは、願ってもないことなのですけど……」

「実は、魔王砦で家政婦を一人募集していてね。国教会を通じて、ウチにも話がきた。まぁアルバイトとはいえ、流石に誰でもいいわけじゃない。オレとしては、キキさんは適任だと思うのだが」



02.


 まず、この国の歴史を、すこし説明しなければなるまい。

 この国は、冬には雪の降る、やや寒い地方に属している。そして、その更に北には人間の侵入を拒む極寒の高地があり、そこは「台地」あるいは「北の地」と呼ばれていた。それに対を成し、この地方は「下の大地」という。

 北の地が人間を拒む理由は幾つかあり、周りを囲む峻険な岩山が一つ、夏であっても氷が溶けない寒さが一つ。

 そして、そこに住む「氷の種族」と呼ばれる存在が、もう一つの理由として関係してくる。

「氷の種族」は、血液をも凍らせる風雪が形を成し、生命を宿したとされる種族で、姿形は人間と似ているが、その胸元に核となる透明な結晶が露出しているという特徴を持つ。この結晶は熱に弱く、人間にとっては寒冷な下の大地の気候ですら致命的な熱さとなるため、国の人間も、氷の種族も、お互いにその存在は知っていたが、しかしほとんど交渉することなく長い年月を過ごしてきた。

 しかし、ある日、その状況に変化が訪れた。

 後に下の大地の人々から「魔王」と呼ばれることになる氷の種族の女性ミティシェーリが、「氷結晶」という物質の作成に成功する。これは彼女しか創りだすことの出来ないものだったが、氷結晶は持つものを冷気で包み込み、たとえどれだけ暑い気候のもとでも、氷の種族の核を熱から守る効果を持っていた。

 氷結晶を持った氷の種族達は、ぞくぞくと台地から下りてきた。

 彼らは基本的に陽気で情熱的。好奇心が強く家族や仲間と認めたものを大切にする反面、粗野で荒々しく、敵と認識するととことん敵対するという排外的な性格も持つ。

 氷の種族たちは最初、特に侵略の意図があったわけではなく、むしろ単なる好奇心で下の大地を見に来ていたのだが、他の種族とは長く交流がなく、自分たちとは別の考え方をする文化がある事を理解できず、様々な場所で下の大地の人々とトラブルを起こし、摩擦を産んでしまった。

 下の大地に降りた氷の種族たちは、いくつかの小集団が、ただ興味に任せて下山してきたものだった。しかしそのため連携が取れず、統一した考え方がなく、中にはトラブルを起こしたことを反省し、交流のためのルール作りに考えが及んだ氷の種族もいたのだが、しかしそれが全体に伝わることはなかった。

 そして衝突は同時多発的に各地で起きた。

 悪いことに、氷の種族は個々の戦闘能力が非常に高かった。彼らにしてみれば、驚かす程度にブリザードを吹かせただけでも、それは下の大地の人々の命を奪うのに十分過ぎる冷気となった。

 下の大地の人々は、氷の種族を脅威であると認定し、力を合わせて排除にかかった。氷の種族にも犠牲者が続出し、両種族の間に相互理解も寛容の心も芽吹く機会は訪れぬまま、戦争状態へと突入してしまった。

 個々の戦闘能力が高い氷の種族は、戦争初期には猛威を振るって下の大地を荒らして回った。しかし彼らは数が少なく、何よりも連携をとって行動することが苦手で、また氷結晶を奪われると死んでしまうという弱点があった。

 やがて、氷の種族はその数を減らし、劣勢になっていく。

 戦争末期。追い詰められた残り少ない氷の種族達は、北の地になんとか撤退しようと、ミティシェーリを精神的支柱として組織を立て、包囲を破る最後の反抗にでる。

 しかし下の大地の人々は怒り、氷の種族の撤退すら許さず、攻撃を仕掛けた。

 氷の種族達は、ついに迷いの森と呼ばれる森の中に砦を作って立て篭もる。それはどこからの救援も期待できない悲壮な籠城だったが、それでも暫くの間、彼らはそこで持ちこたえた。

 下の大地の大軍をも阻んだ、魔王砦の戦いと呼ばれた攻防戦は、しかし単騎で魔王砦への侵入に成功した「勇者」と呼ばれる戦士が、ついに魔王ミティシェーリの暗殺を果たすと、氷の種族はまとまりを失い、魔王砦は崩壊した。

 生き残った氷の種族達は、その多くが討たれ、極僅かに逃げ延びた者たちも、北の地に残っていた同族達から受け入れを拒まれて、下の大地で逃亡者となり、ついに戦争は終結した。



03.


 家政婦を募集しているという魔王砦は、形としてはすでに取り壊されて跡形も無いが、現在は跡地を「国教会」が管理し、今でも魔王の娘が軟禁されていると、歴史が伝えている。

 それはキキさんではなくとも知っていることだった。

 戦時中に、勇者の存在を見出して神聖化し、下の大地の人々の旗印として祭り上げ、それによって勢力を築いた団体「勇者後援会」は、今では国の中心的な宗教「国教会」としてあり、歴史の伝達や、戦争、魔王、勇者と言った事柄を祭祀し、管理する立場になっている。

 なるほど、魔王砦でアルバイトを募集しているとしたら、それは国教会の管轄だろう。

 ブレイブハートのマスターとは以前、何かの話の中で国教会の話題に触れたことがある。その際のマスターの言動は、むしろ国教会を嫌っているかのようだったとキキさんの記憶にはあるのだが、しかし何らかのつながりがあるらしい。

 国教会のお偉いさんでも、ひっそりと飲みに来ているのかしら、と、キキさんは考えた。

 それに関しては、キキさんは何も聞かず、まずはそのバイトがどのような条件なのかをマスターに尋ねた。

 マスターは、バックヤードへと下がり、何枚かの書類をもって戻って、キキさんに見せる。

「やつらは税金と喜捨で動いているからな。金払いに関してはズブズブだ」

 記されている業務内容は、基本的にはただのハウスキーピング。そしてなるほど、家政婦の仕事にしては、相場を大幅に上回る額の給金がそこには記されていた。

「……確かに、これは美味しいですね」

「別に、変な仕事じゃない。それはオレが保証する、確かに。なに、何の事はない、砦跡に封印されている魔王の娘ってのが、掃除が苦手、洗濯は苦手。飯炊きもヘタ。しかし何やらこの娘にしか出来ない仕事をしていて、それに注力したいから家政婦を雇ってくれと、国教会に泣きついたらしい」

「なるほど。……マスター。これ、面接はいつです?」

「そちらの都合でいい。後で教えてくれ。オレが話をつけてやるから、明後日あたり、もう一度来てくれないか?」

「分かりました。よろしくお願いします」

「いや、こちらとしても大助かりだ。キキさんなら、能力的にも人格的にも、安心して薦められる。オレの顔も立つというものだ。……ところで、飲んでいくんだろう?」

「ええもちろん」

「こんな酒を手に入れたんだが」

 書類と一緒にバックヤードから持ってきた酒瓶を、マスターはカウンターテーブルに置いた。東方で生産された、コメから作る酒だという。一口飲んで気に入ったキキさんは、この場で飲むだけではなく、未開封のものを一本購入した。

 暗黙のうちに、仲介の礼も兼ねている。

 この酒は貯蔵しておいて、いつか私達のマスターが帰ってきた時に開けよう。キキさんはそう考えた。

 すでに何本も貯めている「その日に開ける酒」が、また一本増えたのだった。



04.


 晴れた冬の朝。背筋がピンとなるような緊張感のある寒さも気にせず、キキさんは館をたった。

 迷いの森は遠い。

 彼女は地図を片手に、迷いの森の入り口をイメージした。

 すると、キキさんの姿は、迷いの森の入り口に在った。

 ボリュームのあるファー付きのダウンコートの下に、仕事着である煉瓦色の厚手のブラウスと紺のロングスカートを着用している。

 キキさんの魔法、アニメートという魔法によって、付喪神と呼ばれる「命ある品物」に変えられた大きなボストンバッグが、森林の中で地図を見ながら歩くキキさんの後ろを、エッチラオッチラという感じで動きながらついて来ている。

 もしもバッグが口をきけたら、車輪のある旅行カバンを羨むかもしれない。

 歩いていると、やがて道が途切れ、視界がひらけた。

 魔王砦の跡地。

 そこは森の中にあって樹は無く、崩れた城壁や、倒れた尖塔の瓦礫が散乱し、苔にむされていた。

 かつては城門であったのであろう、かろうじて生き残っているボロボロのアーチをくぐると、その先にはまた人が歩いて出来たような道があった。

 砦跡の中央部。人工的に築かれたらしい高台の上に建てられた、乾燥した豆腐のような、乾いた四角い建物に、道は続いている。

 バーのマスターに渡された書類によると、それはかつて氷の種族たちが参謀本部として使用した建物だったそうだ。

 キキさんはふと視線を感じ、あたりを見回した。大気に漂う、何か意思を持つモノに見られていた、そんなイメージをキキさんは持った。

 彼女の視界の先で、細い道は高台に行く途中で枝分かれしており、別れた先は、砦が壊された後に建てられたらしい比較的新しい木造の小屋に続いている。そして、道の左右には畑が作られていた。

 かつての古戦場も、今では自然に飲み込まれ、悠久の時の中にゆったりとたゆたっているようだった。

 いつの間にか、視線は感じられなくなっていた。

「掃除の出来ない魔王の娘……か」

 さてさて、どんな子なのやら。

 キキさんは、参謀本部のドアの前に立つ。頑丈で無骨で実用的。それも戦時の実用性を求めて作られた鉄のドアだった。

 取り付けられている、なんの装飾性も無い円形の叩き金を使って、キキさんはドアをノックした。重々しい金属の響きが、参謀本部の内外に響き渡った。



◇ 閑話休題その1 ◇

~~ キキさんに関して ~~



 物語の主人公であるキキさん。

 物語上ではアルバイトの家政婦という立場のため、その役柄は基本的に傍観者的。

 それでも、自分の性格や能力、役割に対してしっかりとした考えを持っているため、失敗したり間違えたりする事はあっても、迷ったりブレたりする事は少ない。

 能力も高く、書き手をして思わず「さん」付けしてしまう程の「出来る女」である。


 元々は、死んだ子供達の哀しみが集まり形を成した存在で、とある森の中の木陰に隠れ、潜んでいた。

 夜には大暴れをして騒音を撒き散らし、人に悪夢を見せ、時には捕らえた者の血を啜るなどしていたため、森の周辺に生きる人々はこれを畏れ、ある時、近くに逗留していた冒険者の「マスター」に退治を依頼する。

 マスターは森に入り、まだ名前も持っていなかったキキさんと対峙。彼女の本質を見抜き、その場で名前を与え、仲間として迎え入れた。

 

 マスターの仲間になる事で、キキさんは初めて自我を認識し、確立する。

 同じような経緯で仲間になったモノたちは、キキさんの前にも二人、後にも二人居た。

 名前と仲間、役割と居場所を得たキキさんは、その後マスターや仲間たちと共に多くの冒険の旅を経験し、困難を乗り越え、それによって成長し、高い能力を獲得することになった。


 マスター達と共にあった冒険者時代は、主に仲間たちが動きやすい環境を作るバックアップの仕事を担当していた。

 冒険者として前線に立っている時には、仲間たちの強化や掩護を得意とし、拠点の館に戻った時には、マスターの秘書であり参謀であることを自らに課していた。

 館の掃除から炊事、洗濯、経理に物品調達、そして事務作業なども仕事の内で、その熱意と能力を認められ、帳簿とマスターキーの管理を任された事を誇りにしている。


 人柄を一言で表すならば、クールビューティ、と評すのがしっくりとくる。

 感情の起伏が少なく冷静で綺麗好き。計画を立て、それに沿った行動を好むが、場合によっては臨機応変に融通を効かせる事もできる。

 仕事に対しては生真面目で、私事とはしっかりと線を引く。ただし、残業はしないタイプ。

 プライベートでは趣味も遊びも嗜むが、だらけるような事はほとんど無い。

 趣味は機織りや服飾などで、自分の服や仲間たちの装備の多くが彼女の手製であった。

 物にはあまり拘らない彼女だが、趣味の為の機材や、糸や布などの素材に関しては収集癖があり、色々と溜め込んでもいる。

 しかし機織りをする時には酷い騒音を発するため、その点に関しては仲間たちから敬遠されていた。

 

 本来、それほど強くはない存在だったのだが、冒険を経て成長した現在の実力は、ゲーム的な用語で例えるなら「種族:キキーモラ LEVEL:89」とでも言ったところ。その能力を極限に近い所まで伸ばし得た理由は、マスター達との生活を喜びとし、強い生き甲斐を感じていたからに他ならない。


 マスターが去り、仲間たちが独り立ちしていった後は、いつか帰ると約束したマスターを待ちながら、館に住み込んでその維持管理を行う生活を選択した。




◇ 第三章 ◇

~~ 魔王の娘ハクと魔導生物クークラ ~~



1.


 かつて、魔王砦の参謀本部として作られた、頑丈で飾り気のない建物の中に、キキさんは招かれていた。

 灰色の混凝土コンクリート製。乾燥した豆腐のような四角い形をしている。

 魔王砦で、唯一破壊されずに残された建造物でもある。

 砲撃への耐性を持たせるためだろう、壁が二重になっており、人一人がやっと通れるような回廊が建物全体をぐるりと囲んでいる。廊下は中央に一本あるだけで、すべての部屋がその周りに配されている。部屋と部屋とはドアで繋がれており、廊下に出なくとも別の部屋に行き来できるようになっていた。生活のためではなく、内部連絡を取りやすくするための作りである。

 その間取りを見るだけで、この建物が軍事用に作られたものだと解った。

 キキさんはここで、幽閉されている魔王の娘「ハク」と出会った。

 ハクに招かれた先は、かつて中央会議室として使われていたという部屋で、壁に掛けられた何種類もの地図が特徴的だった。

 中央に設置されている長大な机ではなく、脇に置かれた4人掛けのテーブルにハクと向かい合って座り、キキさんはアルバイトの面接を受けていた。

 ハクは、見た目は二十代前半くらいの人間の女性のようで、氷の種族に特徴的な蒼い透き通るような髪を持ち、縛らずに肩口辺りまで垂らしている。

 冬だというのに薄着で、胸元の開いたタンクトップにスキニーパンツという彼女の出で立ちは、キキさんの意識では人と会うにしては端たないとも思える服装なのだが、もともと氷の種族は熱に弱く、裸に近い格好でいることが基本的な文化であると知っていたため、その点は気にしないようにした。

 開いた胸元には、拳大の氷塊にも似た「核」が、半分身体の中に埋め込まれた形で露出している。首には細いが丈夫そうなロープの輪飾りを着け、そこにキラキラと光る透明の結晶が取り付けられていた。

 単なる装飾品ではない。これこそが氷の種族を下の大地へと導くきっかけになった氷結晶なのだろう。キキさんも実物を見るのは初めてだった。

 水晶の原石のようで、造形は素朴だが、とても美しいと思った。

 キキさんが見るに、ハクはあまり気の強い女性ではない。むしろ引っ込み思案で、会話は得意ではないようだ。当然、交渉事も苦手らしく、緊張しており、それでも雇い主として立場を保ち、その上できちんと話し合おうと努力しているのは分かった。

 気弱なところがあるが、基本的に悪い子ではないようだという印象を、キキさんは持った。



2.


「では、ここまでのところをまとめさせてもらいます」

 キキさんが頷くと、手にしたノートに目を落とし、ハクは読み上げた。

「まず、キキさんに頼みたいのはハウスキーパーの仕事全般。日常的な掃除を始めとして、物品の管理、事務作業、場合によってはお客様のおもてなしやその準備など、仕事は多岐に渡ります。本来この砦跡の管理は、国教会から私に課せられた義務なのですが、別の仕事に注力するという目的のため、人を雇って代行してもらう許可を頂きました」

 できるだけノートを見ないようにしているのだろうが、チラチラと目線を下げながらハクは続ける。

 決めたことを覚えきれないという訳ではなく、人と目線を合わせるのが苦手なようだ。

「お給金に関しては、これは国教会からの支払いとなるため、私、ハクが関与できるところではないことはご了承ください」

 キキさんは頷く。これはバーのマスターに貰った募集要項にも記載されていた。

「それから、私は国教会に対して生活全般を報告する義務があります。その中には雇った人に関する事例も含まれることになります。時と場合に応じて、その報告が国教会側の査定に関連する可能性があるということは、頭に入れておいてください」

 これも当然であろう、と、キキさんは頷いた。査定されない仕事など、緊張感のない遊びに過ぎない。

「では次に労働条件に関してなのですが」

 ここからはまだ話し合っていない事柄になる。まずはハクが話し始めた。

「私としましては、住み込みの形態になるのが妥当かと思うのですが、どうでしょう」

「住み込みですか?」

「ええ、この建物だけでもかなりの広さがありますし、通いの形態では手入れが行き届かないかと……」

「こちら側の希望は、自分の住む館の維持管理に差し支えない範囲でのアルバイトだったのですが」

「え?」

「一応、募集の書類を渡された際に、相手方に話していたのですが……伝わっていませんでしたか」

 ハクは少し慌ててノートのページを繰った。恐らくは単なる連絡ミスで、ハクの責任ではないだろうし、それは彼女も理解しているのだろうが、不測の質問をされると戸惑うらしい。ノートをめくるのは自分の気を鎮める時間が欲しいと思ったからだろう。

 程なくしてハクは「その点はこちらでも把握していませんでした、すみません」と謝った。

「いえ、ハク様が謝るようなことではありません。恐らくは連絡の行き違いでしょう。ただ、困りました。わたくしとしては、ここが一番譲れない部分だったものですから」



3.


「わたくしとしましては、この大きさの建物であるならば、通いでも問題はないと考えておりますが」

「え? でも……?」

 自信ありげなキキさんの答えに対して、ハクは言葉を濁した。

「失礼ですが、何か住み込みでなければいけない理由が、他にあるのでしょうか?」

「……ええと、その……」

 キキさんは努めて静かな口調で言った。

「わたくしは、雇用主と従業者は、信頼関係が大切だと心得ております」

「? ……はい」

「もちろん、何もかも開けっぴろげにすればいいという訳ではありませんが、しかしお互いあまり隠し事が多いとその信頼関係を培うことは出来ません。どうでしょう、何か住み込みにしたい理由があって、それが差し障りの無いことであれば、教えていただきたいのですが。こちらにとっても判断の材料になりますし」

 ハクは一瞬だけ目をそらし、実は……と、切り出した。

「自分には、これも国教会から課せられていることなのですが、その、養育を任されている子供がいます。いえ、別に悪い子ではなく、むしろ素直で明るい子なのですが、しかし……」

「しかし?」

「恥ずかしいことですが、自分は幼少期以来、魔王の娘としてこの砦跡に軟禁された状態です。性格もその、内向的で、人としゃべることも上手くはありません。そもそも人と会うこともあまりないですし、このような人生経験では、あの子に伝えてあげられる事が少ない」

「……」

「せっかく外部の方を招くのだし、その仕事を見て、社会人とはどうあるべきかを学んで欲しくて……。その場合だと通いよりも住み込みで居てもらった方がいいかと……そう、思ったんです。あ、いえ、砦跡が広いというのはもちろん本当です、自分がここの掃除をしようと思ったら、それだけで何日か……」

「わかりました」

「……はい?」

「わたくしは、ハク様のお志は尊いものだと思います」

「え……、じゃぁ」

「ただし」

 期待を滲ませたハクの声に対して、キキさんはピシャリと言った。

「これは募集要項には無かった事でもございます。そして、子供の健全な生育に関わるという責任のある仕事には、自分としては負いかねる部分があり、積極的には請けられない、と、言わざるを得ません」

「そ……そうですか……そうですよね。いえ、もちろんそれが当然なんです。ただその、教師役をして貰うようなわけではなく、普通に仕事をしてもらってその姿を見せてあげたかっただけで……」

「ハク様の言いたいことは良く分かります。とりあえず……」

「はい……やっぱり、この話はダ……」

 しょげて諦めてしまった表情を見せるハクに言葉を続かせず、キキさんは言った。

「とりあえず、住み込みか通いかといったような条件面の話は後にしましょう。先に具体的な仕事内容の説明をしていただけませんか?」

「メ……え?」

「ハウスキーピング全般と言われましても、その家々によってやり方が違うでしょうし、ここは特殊な場所でもあります。ご指導を受けた後、条件面の話を詰めて、それで雇用していただけるか否かを決めるのがよろしいかと思います」

「あ、はい! ではまず一部屋ご案内して、そこで仕事の感じを実地で説明します」

「それと」

「?」

「ご同居されている方がいらっしゃるのでしたら、出来れば一緒に来ていただければ良いかと」

「そうですね。……ちょっとまって頂いてよろしいですか? 呼んできます」

 ハクが席を立とうとすると、キキさんがそれを手で制した。

「その必要は無いかと思いますよ」

 言って、キキさんは会議室の正面ドアではなく、狭い回廊に繋がる小さな連絡用のドアを指差した。

 一瞬だけ、場を沈黙が支配する。

 その沈黙に耐えかねたように、普段はあまり使っていないのだろうそのドアが、ギギィと軋んだ音を立てて開かれた。



4.


 ドアを開けたのは、10代前半くらいの女の子だった。

「こんにちわ。キキと申します。お名前を教えてもらっても?」

「えへへ。クークラです」

 回廊は普段は人が入らないようで手入れも行き届いていないらしい。クークラは身体についたホコリを叩いて落としながら名乗った。手には、青白く光る「ヒカリムシ」と呼ばれるモノを封入したランタンを持っている。

「どうして分かったの?」

「どうしてじゃありません。盗み聞きなんて!」

 悪びれずにキキさんに問うクークラに、ハクが呆れたような声を上げる。

「もともと、冒険者をしていたものでして。ダンジョンに潜んだ時の経験などで、気配には敏感になったのですよ、クークラさん」

 事も無げに、キキさんは答えた。

「へぇ! 冒険者! その頃のお話、聞いてみたい!」

「クークラ!」

「あはは、ごめんなさい。でもハクがちょっと心配で」

「お仕事のお話です。心配されるようなことなどありません!」

「でも、完全に交渉の主導権を取られてたじゃない」

「そ! そんなことは……」

 クークラの指摘に、ハクの語尾が弱まる。自覚していたらしい。

 クークラはハクよりもずっと社交的で、物怖じしない性格のようだ。キキさんは二人の会話を微笑みながら聞いて、ハクに助け舟を出した。

「ハク様。まずは掃除する部屋へご案内ください。クークラさんも一緒に」

「そ……そうですね。クークラ。付いてきて」

「はーい」

 無邪気に笑うクークラを、キキさんは改めて見てみた。

 何か違和感がある。

 姿形は人間の女の子だ。朱漆のような、落ち着いた赤を基調にしたワンピースを着ており、華やかな印象がある。回廊を渡ってきたためホコリにまみれているが、身だしなみはしっかりとしており、決して短くはない白銀の髪も、首を隠す程度の高さでしっかりと結い上げられている。立ち姿も、歩くときも姿勢が良く、子供らしい無邪気さ、ハキハキと喋る快活さがあった。

 キキさんは、ハクとは別の種類の好感を持ったが、しかし何か不自然さを感じた。

 クークラの方でもそれを敏感に悟ったらしい。

「あ。なんかもうわかっちゃったかなぁ」

 と、少し表情を曇らせる。

「やっぱり冒険者さんには解るのかなぁ。うーん、見てもらうのが早いかな」

 自問自答しながら、彼女はワンピースのスカートの前側を両手でつまんだ。

 そしてキキさんの前で、そっとそれをたくし上げた。

 隠されていた彼女の脚が、顕わになる。

 その膝は、身体が人工物であることが明らかにわかる、球体関節になっていた。

「ボクは、身体を持たない存在なんです」

 少し間を置いてキキさんは聞き返す。

「人形の付喪神?」

「……違います」

 クークラの代わりにハクが答えた。

「この子は……私も詳しく説明を受けたわけではないのですが、身体を持たない魔導生物なんです。何にでも宿ることが出来るけど、何かにとり憑いていないと、消えてしまう」

「この身体は、ハクが国教会に頼み込んで作ってもらった人形なんだ。すっごく気に入っているから、もう随分前からこればっかり使ってる……使っています」

「……珍しい、体質ですね」

「驚かないの?」

「十分に驚いております」

「そうは見えないけど……。でもまぁいいや! ハク、早く行こう! あ……」

 言って、クークラはキキさんに向かって思い出したように右手を差し出した。

「よろしく!」

「こちらこそ」

 キキさんはその手を握り、握手をかわした。触れてみると、確かにその感触は人間の手ではなかった。

 手を離して、思い出したようにクークラが言った。

「あれ、そういえばまだ契約をしたわけではなかったんだっけ……」

「そうですね。でも、握手は無駄になることではありませんよ」

 言いながら、キキさんはこの奇妙な母娘に惹かれるものを感じているのに気がついた。

 


◇ 第四章 ◇

~~ キキさんの実力 ~~



01.


 キキさんたちが面接を行っていた中央会議室の西側に、壁で区切られた比較的小さなスペースがある。そこは軍議の際の控室として使われていた小部屋で、二階へ続く階段もその中にあった。

 砦跡は、対砲撃性を高めるために外壁が二重になっており、細い回廊が全体を囲っている。そのため窓が存在せず、外の光を取り入れることが出来ない。

 故に、会議室内もそうだったのだが、建物の要所要所に灯りが灯されている。

 照明として使われているのは炎ではなく、ヒカリムシと呼ばれる存在である。

 つい先程、真っ暗闇の回廊を歩くためにクークラが灯りとして使っていたランタンも、このヒカリムシを利用したものだった。

 ヒカリムシは、ムシと名付けられているが昆虫類ではなく、生態のよくわからない「光る存在」である。その土地その土地で付けられている名前が違い、人によっては精霊などとも呼ぶ。

 燐を含んだ石や土を好む事が知られており、それを餌にしてガラス瓶などに封じ込めて照明として使われる。

 会議室から移動する際に、クークラがその先頭を買って出た。手にはランタンを持っている。中のヒカリムシは、クークラ本人が森で捕まえてきたもので、この砦跡の照明は自分が担当していると、誇らしげにキキさんに言った。

 クークラの、ヒカリ揺らめくランタンに導かれ、ハク、キキさんの順に二階へ上がる。

 その後ろ。ランタンの光のギリギリ外側から、キキさんのカバンが、またエッチラオッチラという感じで歩きながら着いてきていた。

 二階は普段はあまり使っていないようで、廊下に並べられたガラスの箱はほとんどが空で、幾つかの箱に最低限のヒカリムシが灯されているだけだった。

 ハクの説明によると、その暗い廊下が二階の外側をぐるりと囲み、部屋は全て階の中央に並んでいる。会議室や資料室、実務室が集中していた一階とは違い、二階は全てが士官や将校の私室だったのだという。

 三人は、階段から一番近くにあった角部屋に入った。

 そこもヒカリは灯っていなかったが、僅かな隙間から光の漏れている物があった。闇を見通す目があれば、それは灯台で、木で作られた半球形のカバーが被せられていることがわかるだろう。

 暗闇の中、ハクは慣れた足取りで灯台に近づき、そのカバーを外した。

 隙間から漏れ出ていた光が一気に広がり、部屋の中を照らしだした。

 ヒカリムシの照明は光量を調節できない。そのため、カバーを用いて点灯させるのである。

 質素な部屋だった。

 壁は灰色の混凝土の打ちっ放し。一人用のベッドと木製の机。ロッカー。そして灯台のほかには最低限の調度類しか置かれていない。

 光が灯ったので、クークラはドアを閉めようと入口の方を向いた。すると、まるで駆け込むようにして一つのカバンが部屋の中に入ってきた。キキさんのカバンの存在を知らなかったクークラはギョッとしたが、なんとなくユーモラスなその動きを可愛らしく思い、それを手に取ると、クークラの腕の中で少しの間カバンはジタバタとしたが、すぐに諦めたようにおとなしくなった。

 クークラがそんなことをしている間、ハクはキキさんとロッカーの前に立ち、掃除用具の説明をしようとしていた。

 キキさんは、しかしそんなハクに対して、まずは自分のやり方を見てもらってもよいかと丁寧な言葉で提案する。ハクはそれを了承するが、その様子を見てクークラは、やっぱり主導権はキキさんに握られているな、と、苦笑いを漏らした。



02.


「灯台の覆いをお借りしてもいいでしょうか?」

「いいですけど……暗くして掃除をするんですか?」

「いえ、光は灯しますが、別の光源があると少々やりにくいのです。見ていていただければ理由はわかると思います」

「そうですか……では……」

 ハクは自ら灯台に近づいて、カバーを取り付けた。

「クークラさん。すみませんが、そのカバンをこちらに」

 再び暗くなった部屋の中、クークラはカバンを手渡した。カバンはクークラの手を離れるときに少しだけ抵抗したが、キキさんの気配を察すると、今度はむしろ積極的にクークラから離れてキキさんの手に渡って行った。そのカバンから灯台と同じような光がわずかに漏れ出ているのに、クークラは気づいた。

 キキさんはカバンを床に置いて、その口を開ける。

 カバンから光が溢れだした。

 一瞬目がくらみ、顔を背けたクークラが再び前を向いた時。

 キキさんの周りを、四つの光の珠がグルグルと飛び回っていた。部屋の中はそれによって照らしだされ、光源の動きに合わせて影が踊りまわる。

 その中心にいるキキさんからは四本の影が投影されていた。

 クークラはカバンが床の上に置かれているのに気づき、掃除の邪魔にならないようにと手にとった。さっきみたいに一人でに動き出すことを予想したが、しかしカバンは全く力なく、ただの無生物になっていた。

 キキさんを取り巻く四つの光源は回り続け、影もそれに合わせて動いていたが、やがてキキさんの影だけが光源の動きに同調しなくなっていった。

 灯台の影、ベッドの影、机の影。ハクの影、カバンを抱えたクークラの影。光に支配されたそれらの影とは違い、キキさんの影は勝手に動き始め、呆気にとられて見ているハクとクークラの目の前で、ついにキキさんの身体から切り離された。

 四つの影は、今度はその動きを止め、スクリーンとなっていた床や壁からも開放され、ゆっくりと起き上がるかのように実体化した。

 その手には、いつの間にか箒やモップなどの掃除用具が握られている。

 クークラは呆然としながらそれを見ていた。隣りにいたハクも驚いてはいたが、クークラの純粋な驚きとは少し違うものを持っていた。

「シャドウサーバント……」

 ハクの口から思わず言葉が漏れた。

 ハクはこの魔法を見たことがあった。まだ母ミティシェーリが生きていて。まだ戦争のまっただ中にあった頃。氷の種族でも高位の魔道士が使用していたのだ。

 自分と同じ能力を持つ「影」を作り出すこの魔法は、戦闘において強大な力を発揮したと聞いている。

 光の中心にいるキキさんは、揺らめくように動いている影達を手振りで操り始めていた。その姿は、まるで楽団の指揮を取るコンダクターのようで、キキさんの一挙手一投足に反応して影達は掃除を始める。

 別々の道具を持った影達の完全な連携のもとで掃除は進められていき、本体のキキさんはその指揮をしながら掃除の終わった箇所を検分し、仕上げをする。

 瞬く間に、ほこりっぽかった部屋の中は、塵一つ、拭き残しの一箇所もない状態に仕上がっていた。



03.


 最後の仕上げを終えると、キキさんはクークラに近づいた。

 一瞬、何なのかわからずにいたクークラは、カバンを手にしていたことを思い出し、キキさんに渡す。カバンを受け取ったキキさんがその口を開けると、中に四つの光球が吸い込まれていき、口を閉めると同時にまた部屋の中には闇が満ちて、そして四つの影も闇に飲まれていった。

「あの……?」

「なんでしょう、クークラさん」

「カバン、動かなくなっちゃったんだけど」

 クークラに聞かれ、キキさんは自分の手にあるカバンを持ち上げて、見た。

「ああ。これは魔法で自動的に動くようにしていただけでしたので、むしろ元の状態に戻ったのですよ」

「そうなんだ……」

 キキさんの言葉を聞いて頷いたものの、自分の手の中で動いていたカバンを思い出し、クークラは少し寂しく思った。

 ハクはハクで、それを聞いて再び昔のことを思い出した。

 これもまだ戦時中の頃。

 氷の種族の中に「アニメート」という魔法を使うものがいた。これは無生物を生物のように動かす魔法で、鎧や剣といった無機物を手駒として使い、戦闘に役立てていた。

 やがて使い手は、その術を生物の死骸にも応用できるということを思いつく。

 死骸はただの無機物以上に術を施しやすかったらしく、使い手は大量の敵軍兵士の死骸を我が物として操り、人手不足だった氷の種族の中にあって大きな戦果を上げた。

 その使い手は、母ミティシェーリよりもわずかに長く生きた。

 下の大地の人々の深い怨みを一身に負って、ミティシェーリが討たれた後の数日間、氷の種族の中でも最も惨たらしい刑に処されたと聞いている。

 シャドウサーバントにしても、このアニメートにしても、習得には深く広い魔法知識と、高いレベルの魔法力が必要なはずだ。

 そんな術を使っていたキキさんは今、クークラのさらなる質問に対して、モップや箒にこの術を使って、自動的に掃除をさせることも出来る、などと答えていた。

 まさかあんな魔法を掃除やら日々の生活やらに役立てようとする存在がいるとは、ハクには思いもよらなかった。確かにあれだけの実力があるならば、この砦跡の管理も通いで行うことが出来るだろう。

 それにしても、そんな人材がなんで家政婦のアルバイト募集なんかに応募してきたのやら。

 そんなハクの思いをよそに、キキさんはクークラの質問から開放されると、ハクの側に来て言った。

「申し訳ありません。差し出がましいことをしてしまったかもしれません」



04.


「そうですか?」

 ハクは、灯台のカバーを外しながら言った。部屋の内部を再び光が照らしだした。

「はい。今の自分の掃除法は、自分にしか出来ないものです。いつ辞めるかどうかも解らないアルバイトである以上、あまり特殊なやり方で仕事をするべきではないと考えます。いいえ、もちろん、我がマスターの名誉にかけて中途半端に仕事を投げ出すつもりはありませんが、それでも掃除はもう少し普通のやり方を以ってすべきかと思いました」

 ハクは、キキさんがなぜそのように考えたのか、理解しかねた。そもそも掃除をし始めた段階ではそうは思っていなかったのだろうし、このやり方を目の当たりにした自分には、住み込みを強制することが出来なくなるとも考えていたのではないかと思うのだが。

 しかし、キキさんの目線がクークラに向けられたことで、ハクも納得がいった。確かに誰にでも出来る方法でなくては、手本にはならない。

 ハクは感謝を込めて、キキさんに頭を下げた。

「お手数をかけますが、お願いします」

「はい。ただ……」

「?」

「やはり普通の方法だと、通いで仕事をするには、この砦跡は確かに少し広すぎると考えます。さりとて、わたくしとしましては自分の館の維持管理が最優先する問題であることに違いはありません」

「はい……では……」

「そこで、シフトを、週に三日をこちらの仕事に充て、続く二日間を公休としていただければ、と思うのですが」

「なるほど。では残りの二日は……そうですね、通いでの出勤を前提とした予備日として考えてもいいですか?」

「そうしていただければありがたいです」

「では、その方向でもう一度、条件面について詰めさせて下さい」

「はい。一度、会議室に戻りましょうか」

 二人はクークラに、後はまた仕事の話をしてくると言って、部屋を出て行った。そのやり取りを見て、クークラは一人つぶやいた。

「……やっぱり、主導権はキキさんが握ってるんじゃん……」

 まぁいいか。下で盗み聞きをしていた内容と合わせて考えてみても、キキさんがハクに譲ってくれたようだし、その人となりには自分としても好印象を持った。

 その手には、キキさんが忘れていったカバンがある。契約書にサインするあたりを見計らって、これを渡しに行こう。

 長い付き合いになるかもしれないし、どうせならカバンやモップを動かす術なんかを教えてもらえればいいな。

 しばらくしてから、クークラはヒカリムシの灯台にカバーを被せ、部屋を出て行った。


 数日後。

 昨晩までに自分の館の掃除を終えたキキさんは、その日、朝早くに眼を覚ました。

 出勤時刻まではまだ間がある。

 普段から欠かさない、運動を兼ねた棒術の鍛錬をし、シャワーを浴びて汗を流す。

 風呂あがりの薄着で自室に戻ると、そのままの格好で暫くのあいだ髪を乾かしつつ読書を楽しんだ。

 出勤時刻に間に合うように仕事着に着替え、黒い革のコートを羽織る。館を出る前に、円卓の間に入り、アルバイトに行っている旨と、行先、帰宅予定日を書いたメモをマスターの席の前に置いた。

 そして静かに、マスターの椅子にお辞儀をして部屋を後にした。

 ドアを閉めた直後、無人になった部屋の中に、錠の落ちる音が重々しく響き渡った。



◇ 閑話休題その2 ◇

~~ ハクに関して ~~


 キキさんが「種族:キキーモラ Lv89」であるならば。

 ハクは「種族:魔王 Lv-36」。そんな感じになる。


 氷の種族のカリスマにして、人間たちからは魔王と呼ばれた母ミティシェーリの素質を引き継ぎ、「氷結晶」を作成する能力を持つ。

 美しく整った顔と、理想に近いプロポーションの肢体を持つが、腰回りが少しだけだらしないのは、あまり運動を好まないから。また、片付けなどは不得意で、自室は整理されていない私物で雑然としている。


 そんな彼女は、幼少期、母に連れられて下の大地に降りて来た。しかし行動を共にしたのは好奇心旺盛な若者たち。同じ年代の同族が彼女の周りにはおらず、母も氷の種族のまとめ役としての役目を負ったため、娘と共に過ごす時間を取ることが出来なかった。


 結局、ミティシェーリの娘はその頃に無口で引っ込み思案な性格に育ってしまう。しかもその後、氷の種族たちと下の大地の人々の戦争が始まり、殺伐とした空気の中で怯えながら過ごすのである。

 それでも彼女が氷結晶を作る才能を有していたため、母はその手ほどきをしてくれた。

 それが彼女とミティシェーリの数少ないコミュニケーションの機会となり、母にも褒められた氷結晶の作成は、彼女の自尊心になっていく。


 戦争の末期。

 目の前で母が勇者に討たれ、幼い魔王の娘もまた怒り狂った兵士たちに殺される寸前だった。

 しかし、何の責任もない子供を殺すことを、勇者は禁ずる。下の大地の旗頭となっていた勇者の言葉は重く、人々は魔王の娘に刃を振り下ろす事はできなかった。

 それでも魔王の娘という存在は、生き残った氷の種族が再集結するきっかけになりかねず、また下の大地の人々の不安を煽る。そのため、勇者も完全な自由を彼女に与えることは出来ず、魔王砦の跡地に幽閉し、本名を名乗ることを禁じ、ハクという名前を授けた。

 また、一人で幽閉されているとその精神に悪影響をおよぼすという考えから、勇者はハクに生きる目標となるものを与える。それはクークラという名の魔導生物であり、彼はハクにその養育を命じた。

 そして、ハクの管理を勇者後援会、後の国教会に委ねたのである。


 勇者の目論見は当たり、ハクは砦跡でクークラと共に、精神的には健全に、氷の種族との連絡もほとんど絶った生活を送る。


 時が過ぎ、勇者が行方をくらました後。


 勇者を神の御使と崇め、戦後世界で最大の宗教的権威となった国教会は、魔王の娘ハクの管理を重要な教義の一つとして位置づける。

 かつて大災害を引き起こした魔王の娘を彼の地に封じ鎮めることは、国教会の権威を強めるための祭祀となった。


 魔王の娘を専門に扱う司教は、高い地位をいただき、祭祀のために年に一度、ハクのもとに赴く。

 そして、ひたすらにその心を折る。

 魔王とは絶対的に邪悪な存在である。その娘もまた邪悪である。本来ならば殺されて然るべきところを、神の御使である勇者の慈悲によって救われた。勇者を奉れ。勇者を奉れ。邪悪な娘よ。無能にして不才なる娘よ。貴様は魔王の娘としての能力を持たぬ。無為に生きよ。時の最果てに至るまで。

 

 結果として。

 ハクは自らを無能力の存在として認識するようになり、自信を失い、Lvはマイナスに向かっていく。


 そんな彼女を支えているのは、ハクを慕うクークラの存在であり、氷結晶を作る自身の能力だった。

 

 やがて国教会は、ハクの能力に注目し、氷結晶作成に当たらせることになる。

 作られた氷結晶は美しく人々の心を奪い、さらに国教会が宗教的な意味付けをして、国の王族や貴族に売り、教会の財政を大いに潤した。


 ハクは、自分が作成した氷結晶がどのように使われているのかは知らない。興味もない。

 ハクはそれを作るのを許された事を喜び、しだいに没頭し始める。

 国教会からも求められていると思えば、それは自分の精神を支える誇りとなったし、何よりも、数少ない母との思い出でもあったから。


 余談ではあるが。

 ハクの作る氷結晶は、美しさと希少性から異常なまでに値が高騰し、国の王族や政治家、有力な資本家、そして国教会の間で奪い合いの様相を呈して、互いの摩擦を生む。やがてそれは国の亀裂となっていくのであるが……。


 そんなことは、今のハクのあずかり知らぬ事である。

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