第30話 走れるってこと

「うわあ〜〜、暇だあああ」

そんな独り言を吐き出しながらベットの上でゴロンゴロンと右へ左へ寝返りをうってはまた元の位置に戻りまた寝返りをうちを繰り返す私。


舞踏会からいくらか時が経った今、なにか進捗があったかというとそれは、否、むしろ暇すぎて死にそうという悲しい事態。


というのも五人でまた笑える未来を作る方法が全く浮かんでこないから。

一体どうすればいいんだろう。

まずはキラかなあ。どんな変化が起こったかもわからないし。なんて最初のうちは色々考えていたんだけど、いざそれを行動に移そうとするとそれがとても難しいことに気付かされた。

幼馴染たちにこれ以上嫌われたくないという思いが先行してなかなか重い腰があがらないのだ。



そしてそんな自分に嫌気がさしてなにも考えることもできず、結局ゴロゴロして1日が終わってしまう。




ほんと、惰性。





やがてゴロゴロすることにも疲れてベットに突っ伏す。




あー、無気力ってこんな辛いんだ。





「おい、はいんぞ」

ガチャリと扉が開く音ともにそんな無愛想な声が部屋に響く。

前々からあんなにノックしろといってるのに……

そんなことを思うものの言葉にする気力まではない。

「お前いつまでそうしてるつもりだよ」

ベッドに座ったのだろう。ボスっという音ともにベッドの基盤がきしむ。

あまり荒々しく触らないで欲しいものだけど。

「…………」

正直ロイと話す気力もない。

「お前毎日毎日無視しやがって」

「…………」

「聞いてんのかよ」

「……聞いてます……」

「大体こんな毎日ダラダラしててみっともないと思わないのかよ」

そんな言葉にカチンときた。

好きでこうしてるわけじゃない。私だってできることならみんなのようにいつも通り動いて役に立ちたい。

けどこんなにも無気力で言わずもがなそれをどうにかする気力もない。

そんな歯がゆい思いなど知りもせず

「最低」

「あ?」

「人の気持ちも理解しないで無神経なことばっかりいうならもうでてって!」

そう叫ぶとわたしはすぐそこにあった枕をロイのいるであろう方に投げつけた。

そのすぐあとボスっと音がする

命中したらしい。

「……ああ、そうかよ。……勝手にしてろ」

そんな声がしたあとバタンッと荒々しく扉が閉められ部屋に耳が痛くなるような静寂が戻る。


わたしはムシャクシャしたような悲しいような気持ちで重い体を起こしゆさゆさとベッドから降りた。



確かにロイのいうとおり。

ゴロゴロしてみっともない。

わかってはいるけど気持ちがついていかない。

それにせっかく来てくれたロイを何度も無視してしまった。


反省の念が胸の内を支配する。



やがてわたしは重い体に鞭を打ちクローゼットをあけ、適当に服を着て髪もとかさず顔も洗わず全てが無造作な状態でヨタヨタと部屋を出た。







特段行く場所もなくてヨタヨタと適当にそこらを歩く。

通りすがる侍女や家来さんたちは皆わたしを見て一瞬ギョッとしたような顔を見せるけどすぐにニコリと微笑んでお辞儀をしてくれる。

優しいなあ、ぼんやりそんなことを思いながらたどり着いたのは中庭が見える渡り廊下。

花のアーチが幾重にもかけられたここは本当に綺麗でいつ通っても感嘆する。


いつものようにアーチを見ようと顔を上げかけたけどなんだかそれすら疲れてできそうになく、目線の先にあった、中庭を見やる。


中庭には中央に大きな噴水があり、その周囲に色とりどりの花が咲いている。

ああいうの、誰がお世話してるんだろう。


なんて思って立ち止まり見つめていたらふと視界に入る人。


その人は辺りをキョロキョロと伺いながら恐る恐るといった感じで中庭に入ってきた。

遠目ではっきりとはわからないけど星鎖の騎士団の人っぽい。

ロイと同じ服をきている。




なにしてるんだろう。

そう思って見つめているとその人はこれまた恐る恐るといった感じで辺りを見やり、それから誰もいないことを確認しホッとした様子で花の前に座り込んだ。




そして花を見つめながらニコニコしている。

ただ、ニコニコと……




そんな姿を見て、なんだかキュンと胸が高鳴る。


可愛い。

なんか、小さいころのトウヤやユシルに似てる……




わたしは思わず駆け出した。








「ねえ!あなた!」

さっきまでの重い体も嘘のように全力で走ってきて中庭につながる廊下へやってくるとすぐに中庭のほうを見やり、半ば叫ぶようにそういう。

するとハッとした表情でこちらを見やるその人。

「僕……ですか」

戸惑いながらそう問うその人に「ええ」と答えながら中庭に足を踏み入れズンズンと近づいて行く。

「す、すいませんっ!あ、あの、今すぐ戻るのでどうか」

そういって怯えたように私から目をそらすその人の元へいくと隣に膝をついて、こちらを見るよう促す。

すると恐る恐る、といった感じでこちらを見つめてくるアイスグレー色の瞳。

ああ、やっぱり……

「君、可愛いね」

「は……はあ」

男の子は最初キョトンとしていた顔をどんどん歪ませて最終的に変質者を見るような目をこちらに向けてくる。

線が細く肌は白く陶器のようで髪の毛はサラサラの瞳と同じアイスグレー色。

背は私より少し小さそうだ。

「どういう意味なのかわからないのですが」

戸惑うようにそういうその子に

「そのまんまの意味だよ。ところで君の名前は?」

と問う。

「アイネって……いいます」

「そうなんだ!私はねリィンっていうの」

「リ、リィンってあの?……」

「まあ一応魔法使いのリィンです。君は星鎖の騎士団の子でしょう?」

「あ……はい」

そういって少し視線をずらす。

視線の先にあるのは色とりどりの花々

「花が好きなんだね」

「……はい」

そう短く答えてから改めて訝しそうな顔でこちらを見やるアイネ。

「あの、ほんとに、なぜあなたがここに?」

「あー、あはは。実はさ、私、君に一目惚れしちゃったみたい」

「え……」

驚いているのか理解が追いついていないのかよくわからないけど俯くアイネ。


アイネにとってはすごい迷惑だろうけど、なんだかその、自分でも少し本当にそうなのかと疑うような事柄に胸躍らせ駆け出した私が見つけられたのがすごく嬉しかった。



要因がなんにせよ私はまだまだ走れる。そのことがわかれて、嬉しいんだ。


幼馴染とのことも走りきれそう。

走り方を思い出した気がする。



怖がってたけど結局私は何も考えずに突っ走ってる方が性に合ってる。


妙にひらけてきた視界に笑顔が溢れてくる。


それに偶然出会えたアイネとのことも。


一言に一目惚れといっても、まだよくわからないけど、とりあえず可愛い……



なんて思ってアイネを眺め回していたらアイネは小さく身震いする。



「あ、あはは、ほんと、ごめんね。でもあの、あれだから。」

「あれ……」

そう小さく呟くとサッと私の陰に隠れるアイネ

「あれ?」

「ロイ隊長が」

そんな言葉にハッとしてアイネの目線の先を見れば休憩中なのだろうか。のそのそと廊下を歩くロイの姿が目に入る。


そっか。アイネはもしかして、というかこの場合もしかしても何もなさそうだけど訓練をサボってここにいるのかな。


だとすると……

「またね。アイネ」

「……は、はい」

戸惑うようにそういうアイネにニコリと笑むと廊下へ飛び出してロイの元へ全速力で走ってく。


うん、走れてる。

なんだか心がとても軽い。嬉しい。


「ロイっ!!!!」

「うわっ!なんだよお前」

廊下の角でロイの目の前に飛び出してみたらロイはあからさまに嫌そうな迷惑そうな顔をしてみせた。

「つうかおまえ、もう……平気なのか」

「平気って何が」

「だからずっと部屋にこもりっきりだったろ」

「……別に」

本当は『平気だよ』って素直に伝えたいんだけどうまく言葉がでてこない。

自分のことながらもどかしい。

「……そうかよ」

ロイくんがそう答えると二人の間に何とも言えない少し重苦しい空気が漂う。そこで私は

「ロイくんに腹立つこと言われたので怒りで飛び起きました」

とむすっとしながらふざけた感じでいう。

こういえばロイくんは食ってかかってくるはずだし、そうすればいつもみたいに口喧嘩がはじまって気づけばいつも通り、になれるはず。

そう思ったのだけどロイの反応は思っていたものと違った。

スッと頭をさげ、

「……悪かった」

と一言いう。

なんだか拍子抜けして少し間抜けな声で別になどと返す私。

「お前もお前なりに、な」

「……なんだろ。なんかそのつぶやき若干バカにしてるように聞こえるんだけだ」

「なんだよ。ほんと素直じゃない奴だな」

「否定はしないけど素直じゃないのはロイくんもじゃん」

そうやっていつものように口喧嘩がはじまりかけるけど慌てて

「あの……私こそごめん…せっかく来てくれてたのにさ」

という。

危ない。

いつもの流れに流されて、ちゃんと謝り損ねるところだった。

ロイからの言葉はなく、ただ表情が『ふんっ。やっといったか』といってる気がする。


……ムカつく。


こうして再び喧嘩が始まるかと思ったところにサアヤの声が聞こえてくる。

「二人とも!」

そんな呼びかけにそちらを見ればこちらに向かって大きく手を振りながら駆けてるサアヤの姿がある。

「サァヤ」

「サァヤ様」

私とロイの元へたどり着いたサァヤの手には一つの手紙らしきもの。

なんだろ、あれ

「よかった。リィン、元気になったみたいね」

私たちの元へやってくるとまずそういって優しい笑みをこちらにむけるサァヤ。ほんと、優しくて可愛くて天使のようだ。



そういえばサァヤの結婚の話は事実上延期になった。

というのも、サァヤが気に入った相手の行方が分からないないから。


あの舞踏会に出ていた人は厳密に名前も出自も把握されていて、見た目もまた把握されているので、サアヤが覚えている情報を元に管理者の人にその人のことを聞けばその人が一体誰か、名前も生まれもわかるらしいんだけどそんな人来ていないと言われちゃったらしい。



そんなこともあるの?と驚いた。

そしてそれと同時にもしかしてだけどそれってユシルなのでは??なんて思った。


というのもサアヤの話してくれたその人の特徴がことごとくユシルと同じだったのだ。


そしてユシルはリオネスの出身。

出自を偽った可能性が高いけど、忍び込んだという可能性も捨てきれない。

その場合いくら特徴を話してもそもそも情報が管理されていないということになる。


「あのね、これ、リィン宛の手紙」

そういわれて手渡された封筒には綺麗な花の刺繍が施されていて触ってみると紙でなく布でできてることがわかる。しかもすごく高級そうな布。艶といい触り心地といい……

「でも、誰から?」

そう疑問を口にするとサァヤはニコッと微笑んでみせた。

「中見てみて」

私はその笑顔の意味がわからないまま、封筒をあけ、中に入ってる紙を取り出した。

折りたたまれたそれを開いていく。

開き終えた紙の一番上には……

「フラメニアから?!」

隣から覗き込んできたロイくんが驚きの声をあげる。

みればそこにはフラメニア国王という言葉があった。

フラメニアって確か……

「キラのいる国だ」

「にしてもなんでフラメニアの王から?ほんとにこいつ宛なんですか?」

「ええ、もちろん。ちゃんとリィンの名前がかいてあるわ」

そんな会話を尻目に文に目を通す。

読み進めるほどに胸の高鳴りが大きくなっていく。

「……今度あなたと会って話がしたいので是非フラメニアに来てくださいって……」

正式に、招待された。

それはつまり、幼馴染と会う正当な理由が他者から与えられたってこと。


私はバッと顔を上げ、ロイをみる

「ロイ、今すぐいこう、フラメニアに!」

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